安らぎ
レオ様は私の部屋に入って来ると、
「まだ寝ていなかったのか」
と、言ってから、私の肩に手を置くと、額同士をくっつけました。ぎゃっ!恥ずかしい!
「熱はないようだな」
レオ様は私の額に合わせるために背伸びをしていたので、それを止めると、「キャスはまた背が伸びたのではないか?」
「はい。何だか成長が早くて」
双子ですが、私はリバーより5センチ高いです。リバーも面白くなさそうです。
「追いつかないではないか」
レオ様は口を尖らせています。
可愛いですね。大丈夫ですよ。『魔法学園』に入ってからは伸び放題ですよ。
「あのー、リバーは何も言いませんでしたか?」
私は若干諦めた感のあるレオ様の過剰なスキンシップですが、リバーは何とか阻止しようと頑張ってます。ですから、レオ様が私の部屋に入るのを放って置くわけがありません。
「用を思い出したから、馬車にいる城の者に鳥を飛ばしてもらうと言った」
『鳥』とは魔法で作った伝書鳩のようなもので、作った本人の髪色の体をし、瞳の色も同じです。
にしても、ズルい手を使いますね。
「普通ならおかしいと思うだろうが・・・」
「はい?」
「リバーだ。キャスの不調に気付けなかったことを気に病んでいて、他に気が回らないのだと思う」
「!」
何てことでしょう。私の仮病がリバーの気を病ませる結果になってしまうとは。
ですが、今更元気になったと戻れるわけもありません。
「キャス」
レオ様は私をベッドに座らせてから、自分も隣に座ると、「急に知らない奴を連れて来たからではないか?」
「え?」
「キャスは顔に似合わず、内気だからな」
むぅ。その通りではありますが、顔に似合わずは失礼ですよ。
「悪かったな」
レオ様は私を抱き寄せました。「でも、ルーカスはいい奴だから、きっと、仲良くなれるぞ」
「・・・」
私もそう思います。ゲームでもいつもにこにこ笑っていますから。まるで太陽のような笑顔なんです。
あ、そう言えば、ルーカスには何か短所があったような・・・。あれ?何だっけ?
そんなことを考えていた私ですが、レオ様がいつもより強く抱きしめられていることに気が付きました。自分のせいで、私が元気がないと思っているようです。
いつもなら、私は一応やめてくださいと言います。それでやめてくれるレオ様ではありませんが。
ですが、今の私はぎゅうっと強く抱きしめてもらえることで、安らぎを得ているのです。思えば、抱きしめてもらえる心地好さを知ったのはこの世界に生まれてからです。両親、リバー(最近は抱きしめてくれませんが。むぅ)、レオ様のお陰です。私は幸せなんですね。
私はレオ様にもそんな安らぎを感じて欲しくなり、思い切って、ぎゅうっと強く抱きしめ返しました。
「ど、どうした?」
レオ様は戸惑っているようです。
「レオ様にいつもしてもらってばかりですから、お返しです」
「へ、変なキャスだな」
レオ様は照れながらも、私の額にキスしました。ぎゃあっ!
調子に乗らないで下さい。と、言ってやろうとしたその時、
「何をしているんですか!」
その声に驚いた私とレオ様が同時に声がした方を向くと、ルーカスがドアの前に立っていました。
レオ様は一応マナーですので、ドアを少し開けていましたが、今は大きく開いています。ルーカスが開けたのでしょう。
「何だ。ルーカス。レディの部屋だぞ」
レオ様は自分のことは見事に棚に上げています。
ですが、ルーカスは顔を真っ赤にしながら、微かに震えながら、
「う、嘘だと思ってたのに・・・」
「嘘?」
レオ様と私の声が揃いました。
すると、ルーカスは私をキッと睨みつけ、
「殿下がこの女にたぶらかされ、この女とのいかがわしい行為に嵌まり、最近では勉強も日々の鍛練も疎かになっていることです!」
と、ほとんど叫ぶように言いました。
は、はい?この人、何を言ってるんですか?
あ、思い出しました。
ルーカス・シャウスウッドの短所。
『真っ直ぐ過ぎるが故、思い込みが激しい』です。




