心の傷
ええ、似ていると言っても、ゲームのキャラと生身の人間ですから、全くの別物です。分かっています。でも、あの笑顔。私が元彼の一番好きだったところは笑顔でした。その笑顔がそっくりなのです。
そもそも元彼と言っていいのか微妙な仲でした。何度か一緒に出掛けましたが、そ、その・・・ふ、深い関係と言うか、キスすらしたことありません。そう考えるとレオ様との方が進んでいると言っていいでしょう。全く、レオ様は困ったマセガキですよ。
レオ様は置いておきましょう。
元彼の話に戻ります。
私、お魚さん好きが高じて、熱帯魚専門店に就職しました。めだかさんもいました。
早々に、私の教育係だった先輩に接客はしなくていいと言われましたが、大好きなお魚さんの世話をし、私と同じく接客下手な店長を手伝い、経理の仕事もしてましたから、毎日が忙しく、でも、それなりに充実した日々を送っていました。あくまで仕事面だけでしたが。
そんな私に職場近くの大学に通う男の子が声を掛けて来ました。
何と、熱心に仕事をしている姿が気になり、ついには私を好きになったので付き合って下さいと言って来たのです。
私は初めは信じられず、彼に何度も自分でいいのかと聞きました。すると、彼は私だからいいのだと言ってくれたので、私はお付き合いすることを決めました。
その時、既に『魔法学園でつかまえて』をプレイしていたので、あのルーカスに似た男の子と付き合えるなんて!と、浮かれていました。シュナイダー様が好きなキャラだったのにいい気なものですよね。反省しています。
彼は優しく、私の大したオチのない話や、お魚さん話に終始してしまっても、辛抱強く聞いてくれましたし、彼も色々な話をして、私を楽しませてくれました。私、気付けば彼のことをとても好きになっていました。
そんなある日、店長からおつかいを頼まれ、そのついでに休憩していいと言われたので、店を出ました。おつかいは早く終わり、時間に余裕があったので、私、何を思ったのか、彼の大学に行ってしまったのです。彼が友達といたら声を掛けることも出来ないでしょうに、私ったら、どうかしていたとしか思えません。恋とは人をおかしくさせるものです。
案の定、彼は友達たちと一緒にいました。別に聞き耳を立てたわけではありませんが、『彼女』と聞こえ、彼がからかわれているようでしたので、どうしても話の内容が気になってしまい、話が聞こえるところまで、こっそり近付きました。
そんな私の耳に聞こえて来た内容は・・・。
彼が仲間内でやったダーツ大会で最下位になり、その罰ゲームとして、私に告白したというものだったのです。
私、初めは自分が聞いたことが信じられませんでしたが、その後に続く話を聞いていくうち、彼が私を騙していたのだと言う事実を信じなくてはならなくなりました。
彼には他に本命の彼女がいたのです。だから、罰ゲームはもう終わりにしてやろうぜ。と、彼の友達たちは笑いながら言っていました。
そして、彼が言った言葉・・・『あんな根暗な女、好きになるわけがない』
その言葉だけは、おかしなくらいクリアに聞こえました。
私が彼等に何をしたのでしょうか。独りぼっちでも、毎日精一杯頑張って生きていました。彼等に好かれることはないにしろ、嫌われることなんてしていません。なのに、何故、私をこんなに傷つけるのでしょう。彼等に何の権利があると言うのでしょう。私と付き合うことが罰ゲームになるなんてあんまりです。
それから、呆然と突っ立っていた私に彼等の中の一人が気付きました。彼が振り返って、私を見ました。話を聞かれたと思ったのでしょう。やや青ざめた後、ぎこちない笑みを浮かべながら、私に近付いて来ようとしました。
ですが、
『死んでやる』
と、私は叫ぶと、その場を後にしました。
その後、私がどうなったかはご存知の通りです。
痛いですよね。自分でも本当に馬鹿だったと思います。でも、あの時は自分の全てを否定されたように感じて、死にたいと思ってしまったのです。
私は溜め息をつきました。これからどうすればいいのでしょう。レオ様はこれからもルーカスを連れて来るかもしれません。その度に仮病を使うわけにはいかないし、連れて来ないでとも言えません。何よりルーカス本人は何も悪いことをしていないのですから、この私が自分で気持ちを切り換えるしかないのです。ですが、それがいつになるのか分かりません。本当にどうすれば・・・。
私がベッドの側に立って、思い悩んでいると、部屋のドアがノックされました。
誰でしょう?
私が返事をする前にドアが開き、
「キャス」
レオ様が顔を出しました。
なんでしょうか。今、過剰なスキンシップをされたら殴ってしまいそうです。




