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天使がいました

 私のおなかの音は、パーティーの最中だと言うのに、とっても響きました。


 皆さん、固まっていましたが、

「ふはっ」

 まずレオ様が吹き出し、慌てて、両腕で顔を隠します。多分、大声で笑いたいのを我慢しているのでしょう。紳士、淑女は声を上げて笑わないものなのです。すみませんが、何とか堪えて下さい!


「え、ええと、カサンドラ嬢はおなかが空いているのか、な」

 ジャスティン殿下が口元をヒクヒクさせながら、何とかそう言いました。それから、お腹を拳でグッと押しています。笑いを殺そうとしているようです。ほんとにすみません!頑張って下さい!


「き、緊張のせいで、朝食が食べれなかったようです」

 朝ごはんを馬鹿みたいに食べ過ぎたせいで、リバーに嘘をつかせてしまって、ごめんね!


 ええとー、こんな時でもやはり無表情のシュナイダー様はもういいですね。


 最後は下を向いて、震えていたサラ様です。

 そのサラ様、意を決したように顔を上げ、

「私もおなかが空いてしまってるんです。何か食べに行きましょうか」

 と、にっこり笑って言いました。て、天使ですか?


「は、はい。あ、ありあとうございまし」

 と、私がサラ様にお礼を言うと、

「そ、そこで、また『ども噛み』とか、勘弁してっ・・・くはっ・・・あ、ありあとうって・・・」

 レオ様はついには片膝をついて、震え始めました。大袈裟ですよ!


 私はサラ様と豪華な料理が並べてあるテーブルのところへ来ました。

「はい、どうぞ」

 サラ様が取り皿を取って下さいます。

 私は受け取ると、

「あ、あ・・・ありがとうございま・・・」

 『す』が出ませんでした。


 私は俯きました。何故でしょう。もちろん、今までだって、失敗したら、落ち込んでいましたが、今日は朝から失敗続きのせいか、余計辛く、惨めです。

 私の前に完璧な令嬢であるサラ様がいるからでしょうか。もう帰りたいです。


「カサンドラ様は何が好き?」

 と、サラ様が優しい声で言いましたので、私はおずおずと顔を上げました。

「アンバー公爵家のローストビーフは最高よ。ダンレストンのスイーツはどれもオススメ。ああ、カーライル公爵家はチーズのお料理やケーキが美味しいわよね。次はダンレストンで交流会が行われるの。絶対来てね。我が家自慢のスイーツを食べていただきたいもの。特別にカサンドラ様の好物をシェフに伝えておくわ」

 サラ様はそう言うと、可愛らしくウインクをしました。

「サラ様・・・」

 私がもう参加したくないと思わせないように、また行きたいと思うように言ってくれているようです。

 本当に天使がいらっしゃいます!


「仲良くしてくださったら嬉しいわ。年の近い女の子がいないものね。レオンハルト殿下にはシュナイダー様もリバー様もいらっしゃるでしょう?私たち女の子も楽しくやりましょうね」

「は、はい」

 私は何度も頷きました。

 ですが、困りました。サラ様の笑顔が霞みます。私、悪役令嬢なのに、泣いてしまいました!情けなさのせいでなく、あまりのサラ様の優しさに感動してしまったのです!


 サラ様は困ったような顔をしながらも、周りに気付かれないよう、ハンカチでそっと私の涙を拭って下さいましたが、

「キャス!」

 レオ様が血相を変えて、やって来ると、「泣いてるのか?笑ったりして、悪かった」

 ・・・レオ様。いいのです。ですから、あまり大騒ぎしないで下さい。悪役令嬢としては泣いているところを見られたくないです。ポンコツでも意地はあります。


「キャス・・・」

 レオ様が私を抱きしめました。

「!」

 サラ様はギョッとすると同時に真っ赤になります。

「レオしゃま、ちょ・・・」

 さすがにダメです!

 私はレオ様から離れようとしましたが、レオ様はしがみつくようにしていて、剥がれません!

「れ、レオしゃま、離してくださぃー、お願いでしからー」

 ですが、レオ様が離れてくれるわけもなく、私の頬を撫でると、目元に唇を寄せ、涙を吸いました。


「ん?」


 涙を吸いました?吸ったって・・・ええっ?!

 私はレオ様の肩を押してから離れますと、

「れ、れ、れ、レオしゃま、今にゃにを」

「私はキャスが泣いているところなんて見たくないからな。吸ってやったぞ」

 レオ様は何が嬉しいのか楽しいのか分かりませんが、にっこりと笑っています。


 はいいいいぃっ?!この人、おかしいですっ!セクハラ王子と呼ばれても仕方なくないですか?!これからは陰で呼んでやります!

 涙を止めるためにキスしたり、吸っちゃうなんて、信じられませんっ!


 ふと周りを見ると、他の方々が唖然としながら、私たちを見ていました。

 私、人に注目されるのが苦手です。

 ですから、私はもう何が何だか分からなくなってしまいました。

 ああ、頭に血が上ってしまう・・・ああ、目の前がくらくらします・・・。

「きゃー!」

 サラ様が悲鳴を上げました。

 サラ様、今日、初めて会ったばかりなのに、ほんとにすみません・・・。


 私、気絶してしまいました。普通、人って、滅多に気絶なんかしませんよね?私、この世界に生まれて・・・何度目の気絶でしょうか・・・?




 ちなみに、失敗ばかりの私でしたが、何故か、パーティーに参加していたおじさま、おばさまの人気者になっていました。

 目つきの悪い、我が儘そうな令嬢が口を開けば、『ども噛み』し、その後、真っ赤になりながら、満面の笑みになる様子がとても可愛いらしいと評判になったそうなんです。


 こういう評判は悪役令嬢としては微妙ですが、この世界にもギャップ萌えってあるんですね!



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