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無表情と笑顔作戦

 カーライル家の面々とレオ様は、アンバー公爵家のお屋敷の中に入りました。

 今日はガーデンパーティーですが、私たちは馬車移動してきたので、用意してもらった部屋で服装などを整える必要があるのです。

 私が物珍しさで、キョロキョロと辺りを見回していると、母に止められました。と、その時、

「アンバー家にようこそ!」

 おなかに響くような声がして、私は思わず、リバーにしがみつきました。

 玄関の正面に位置する扉から、ぞろぞろと人が出てきました。

「アンバー公爵様、アンバー公爵夫人、スターブ伯爵様、スターブ伯爵夫人、スターブ伯爵様のご長男のシュナイダー様よ」

 母が素早く教えてくれます。

 私はリバーにしがみついたまま、私たちの向かいに立ったシュナイダー様を見つめました。


 本物です!動いているシュナイダー様です!感動です!

 ええ、私、感動しております。

 ですが・・・何と言いますか、いや、それよりもびっくりしています。シュナイダー様は5歳にして、顔が既に出来上がっているのです!リバーもレオ様も将来、超絶イケメンになる片鱗が既にありますが、幼い可愛らしさの方がまだ勝っています。なのに、シュナイダー様はもうゲーム開始時の15歳の顔、そのものです。あどけなさのカケラもありません。こんなことがあるのでしょうか!恐ろしい5歳児です!


 そして、私たちの父、アンドレアスに話し掛けられても、全くの無表情。

 レオ様に親しげに肩を叩かれても、安定の無表情。

 父譲りの人懐っこい笑顔をリバーがふりまき、アンバー公爵夫人、スターブ伯爵様、スターブ伯爵夫人がつられるように笑顔になっても、やっぱり無表情。


 ・・・ん?私は自分から一番遠くにいる老紳士に目をやります。

 何とびっくりです。アンバー公爵様も無表情なのです。シュナイダー様は御祖父様譲りの無表情でした!何と言うか、この元いじめられっ子のポンコツ悪役令嬢がアンバー公爵夫人、スターブ伯爵夫妻に優しくしたい気持ちになります!

 

「長女のカサンドラです」

 と、父が私を紹介します。

 おっと、無表情観察はこれくらいにしなければなりません!私も挨拶しなくてはなりませんからね!

「は、はじめまして。カサンドラと申しまふ」

 案の定、『ども噛み』発動です!ですが、ここでうろたえてはなりません!お母様発案の『ども噛みしても、動じず、満面の笑顔になりなさい作戦』、つまり、『笑ってごまかせ作戦』、決行です!

 私は母や侍女さんがしてくれた特訓のお陰で何とか習得した満面の笑顔を浮かべます。

 私、前世ではあまり笑ったことがありませんでした。ぼっちが笑うと、一人で笑っている危ない人認定されますからね。ですから、笑顔習得はなかなか難しいかもしれないと不安でしたが、今の私は両親、リバーのお陰で笑うことが出来ています。ですから、笑わないといけない時には、リバーと遊んで楽しかった時のことを思い出すようにしています。そしたら、こんな自分でも笑えるのですから、不思議ですね。


「まあー。可愛らしいこと。どちらもお父様とお母様の良いところを受け継いでますわね」

 アンバー公爵夫人がにこにこと笑いながら言いました。

「カーライル公爵様が天使のように可愛いとおっしゃるのも分かりますわね」

 スターブ伯爵夫人もにこやかに言います。

 おおー。作戦成功のようですね。『ども噛み』がなかったことになってます。皆さんの心が広いからかもしれませんが。


「そうでしょう!本当に可愛くてしょうがないんですよねー!」

 父がしまらない顔になって言いました。

 その時、すかさず母が私に目配せします。私はそれを見て、笑みを不自然でないように消しました。

 母が言うには、いつも笑っていては、『笑ってごまかせ作戦』の効果がないとのこと。笑顔も安売りしてはいけないと言うことですね。さすが、厳しい社交界を生き抜いているだけありますね。



「シュナイダー。こっち来い」

 レオ様がシュナイダー様を私たちのところへ引っ張って来ます。

 うっひゃあっ!ち、近くに来ます!どうしましょう!

 レオ様がシュナイダー様の肩を叩きながら、

「キャス。リバー。シュナイダーはアンバーのじいさんに似て、無表情だが、悪い奴ではないんだ。だから、仲良くしてやってくれ」

 うっひょいっ!シュナイダー様と仲良くですと?!まじですか?!

「ほら、シュナイダーも何か言え」

 シュナイダー様は小さく頷きますと、

「・・・シュナイダー・グラントです。よろしくお願いします」

 と、抑揚のない調子で言いました。声も無表情とか!

「リバー・ロクサーヌです。お会いできて嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします」

 リバーはにっこり笑って言いました。無表情なんて、リバーにとっては大したことではないようです。挙動不審な姉がいますしね。


「キャス」

「は、はい!」

「キャスも何か言え」

 そ、そうですよね。ご挨拶しなくては。

「・・・」

 いけませんが・・・。

 眼鏡の奥の琥珀色の瞳が私を見ています。

 琥珀色は角度によって、金色に見えるんですね。綺麗です。

 いけません。見惚れてしまうくらい綺麗です。そ、その瞳に私が映っているなんて!緊張しない方がおかしいです!


 と、言うことで、こうなりました。


「あ、あ、あ、あにょ!あああうっ!あうっ!ううっ!」


 ・・・困りました。『ども噛み』どころじゃありませんでした。


 すると、シュナイダー様が・・・。

「申し訳ございません。何とおっしゃったのですか?」

 超安定の無表情で言いました。


 うーん。笑われた方がよっぽどましだなと思う時ってあるんですね。



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