アンバー公爵家へ
お食事されながらの閲覧はご遠慮ください。
いよいよやって参りました。
本日、アンバー公爵家主催のガーデンパーティーが行われるのです。
アンバー公爵家を目指すべく、私たち双子と、両親は現在馬車の車内におります。
「あ、あれが、移動の祠でしね!」
と、私は声を上げました。
リバーと違って、ほとんどをカーライル公爵家の敷地内で過ごす私。目に見える全ての物が珍しいのです。
私、前世では、都会生まれの都会育ちだったので、何てことのない田園風景も珍しく思います。
思い返してみると、旅行もしたことはありませんでした。両親は共働きで忙しく、家族旅行もなく、修学旅行もどうせぼっちだし。と、言うことで行きませんでした。・・・何て寂しい人生だったんでしょう。
「そうよ。二人は初めて入るのよね」
母、マリアンナが言います。「祠に入る時は窓をしっかり閉めないといけないわよ」
「ぺしゃんこー。になっちゃうからなー」
と、父、アンドレアスは恐ろしいことを楽しそうに言いました。
『移動の祠』とは、祠内の地面に瞬間移動の魔法陣が施されていて、馬車で入って行くだけで、別の場所へ瞬間移動します。
カーライル公爵領から、アンバー公爵領まで、普通に馬車で行けば、一週間はかかります。それが一瞬ですよ!魔法って、本当に便利ですね。
と、言っても、『移動の祠』は移動場所を自由に選べるわけではないので、アンバー公爵家に行くまでには、5回、別の『移動の祠』を経由しなくてはなりません。
父が言っていた『ぺしゃんこ』になると言うのは、瞬間移動には膨大な量の魔力を使います。それを一瞬で放出するとなると、かなりの負荷がかかりますので、魔力を込められた馬車を使わなくてはなりません。そして、それは窓が開いていたら意味がないのです。開いてしまっていたら最後・・・私たちの体が『ぺしゃんこ』になるのです。怖いですね・・・。
馬車と言っていますが、上の理由から、お馬さんは魔法で作られたものです。ヒヒィーンと鳴きませんし、餌も食べません。
ちなみに、父は瞬間移動の魔法を使えます。やろうと思えば、私たちごと移動させることは出来ますが、その後、三日は寝込むことになるそうです。よっぽどの事がない限り使わない方がいいでしょうね。
『移動の祠』を5回経由して・・・(後は説明が面倒なので、色々省略します)
「見えてきたよ」
と、父が指差しました。「あれがアンバー公爵家だ」
「わあー!」
私とリバーは歓声を上げ、
「いつ見ても素晴らしいお屋敷ね」
母はうっとりしていますが、
「ここ、大袈裟なんだよ」
父だけは面白くなさそうに言いました。
何とアンバー公爵家のお屋敷は湖の真ん中にありました。まるで湖に浮かんでいるように見えます。とっても幻想的です!日本のように四季があればそれぞれ違った季節の表情を楽しめたでしょうが、この国は残念ながら、四季はありません。
馬車は立派な橋を渡り、門をくぐります。
あー、私、不安か楽しみのせいなのか何なのか分かりませんが、動悸が激しく、もう吐きそうです。
不安・・・『ども噛み』持ちがパーティーに参加されている方々に挨拶して回るのですから、一日の『ども噛み』回数、新記録達成間違いなしです。
それに、悪役令嬢としての役目があります。昨日からあまり寝ずに考えたのですが、シュナイダー様に嫌われるだけなら、方法はあるでしょうが、両親やリバーに恥をかかせずにやれることとなると、良い考えは全く浮かびませんでした。
楽しみ・・・憧れのシュナイダー様に会えること。レオ様にも会えます。そして、何と、レオ様のお兄様であるジャスティン殿下と婚約者のサラ様も参加されるのです!間近で萌え展開が見られるかもしれません!
こう考えると、楽しみの方が大きいですね!
「うう・・・」
ですが、何だか気持ち悪くなってきました。楽しみがあっても、所詮ポンコツ悪役令嬢です。やはり不安の方が大きいのでしょ・・・う・・・か・・・。
「ねえ、キャス」
窓の外を見ていたリバーがこちらを見て、「向こうの・・・」
と、言いかけましたが、ギョッとしました。
「キャス!どうしたの?!真っ青だよ?!」
私は何とか笑みを浮かべつつ、
「だいじょ・・・」
と、言いかけましたが、「げぼ・・☆÷●%◎※〜〜〜!(自粛します)」
これまで私の失敗などを大きな心で受け入れ、フォローして来たリバーですが、私から離れられるだけ離れると、
「キャスが吐いたーーー!」
と、絶叫しました。
その後、馬車の車内は蜂の巣をつついたような騒ぎとなりました。
良い子の皆さんは馬車移動する前の日の夜はちゃんと睡眠を取りましょうね。
それから、朝食は腹八分目で抑えましょうねっ!
何だかすみません。
今回、笑う要素はない予定でした。
次話、いよいよシュナイダー様の登場です。




