傍迷惑な双子
後半からシュナイダー様視点になります。
翌朝。私は昨日と同じように男子寮の前まで来ましたが・・・。
「うわー」
私は目を見張りました。
昨日、レオ様とシュナイダー様が6日振りの登校でしたので、そんなお二人の姿をいち早く見ようと、レオ様派・シュナイダー様派の方々が集まっていましたが、今日はそれを上回る数の生徒さんが男子寮の前で今か今かとリバーが現れるのを待っているのです。
そうなんです!リバーは今日から復帰するのです!
それにしましても、
「どうしよう・・・」
昨日もちょっと恥ずかしかったのですが、こんな大人数の前でとなると、更に恥ずかしいです。
後にしようかな・・・と、一瞬、思いましたが、私だって、リバーの姿を誰よりも早く見たいのです。誰よりも早く話がしたいのです。
ですから、心を決めて、玄関に向かおうとしたまさにその時、黄色い歓声が上がりました。
玄関からリバーが出て来たのです。
私はそのリバーの姿を見た途端、涙が溢れて、
「リバー!!」
と、叫んでいました。
リバーはこんなにたくさんの生徒さんがいると思わなかったようで驚いていましたが、私の声に気付いて、こちらを見ました。
「キャス!」
リバーは声を上げると、駆け出しました。
「リバー!」
私もまたリバーの名を呼ぶと駆け出しました。
もう恥ずかしいなんてことは頭にありませんでした。リバーしか見えませんでした。
リバーの元へ走っていた私でしたが、
「ぎゃっ」
何かにつまずいてしまい、前のめりになって、倒れていきそうになりましたが、
「キャス!」
腕が伸びてきて、私の体をその腕が抱き留めました。
私は転ばずに済んで、ホッとしましたが、私を抱き留めてくれた人の顔を見上げました。
「そんなに走るからだよ」
私を見下ろしながら、リバーは苦笑いしました。
「り、リバー」
更に更に私の目から涙が溢れ出て、「うわああああんっ!」
私はリバーにしがみつきながら、声を上げて泣きました。
リバーは私を抱きしめると、
「キャスは困ったお姉さんだなー。何もそんなに泣くことないだろう」
「だ、だって、私が馬鹿なことをしてしまったばっかりに、リバーは8日も謹慎になって、成績も『不可』になって、いっぱい、いっぱい、迷惑を掛けてしまったんだものっ。ごめんなさいっ。リバー。本当にごめんなさいっ」
リバーは私の髪を撫でながら、
「まあ、正直、キャスには言いたいことはたくさんあるけど、ここまでの処分になったのは僕が未熟だからだよ。・・・五大公爵は感情に左右されてはならない。お父様にはそう言われていたのに、怒りですっかり頭から抜け落ちてしまったんだからね」
「でも・・・」
「それに僕は初めてマーカス・ゴードンと会話を交わした時、あまり良い印象を持てなかった。いや、気分が悪い男だとすら思っていた。なのに、今回のことを防げなかった。全て僕の落ち度だ。・・・だから、そんな自分に一番、腹が立っていたんだと思う」
「リバーは悪くない・・・」
「まあ、もう誰が悪かったかなんて言うのはやめよう」
リバーは私の体を少し離すと、ハンカチで私の涙を拭いながら、「聞いたよ。全クラスを謝罪して回ったんだってね」
「う、うん。私には謝ることしか出来ないから・・・」
「正直、驚いたよ。見られなかったのが残念だ。・・・偉かったね」
私は首を振って、
「偉いだなんて・・・だって、私、自分で謝罪する機会を下さいなんて言っておいて、皆の注目を浴びた途端、逃げ出したくなってしまったの。吐きそうになったくらいだったの」
「うわ」
リバーは眉をしかめて、「もし、そんなことになっていたら、カサンドラ・ロクサーヌはこの学園に名を残していたかもしれないね!」
「冗談じゃないわよ!もう!」
私は軽くリバーの胸を叩きましたが、「・・・私、リバーの姉として、カーライル公爵家の人間として、ちゃんとしなきゃいけないと思ったの。今だけは逃げちゃダメだって思ったの。だから、何とかやり遂げられたんだけど、話したいと思っていたことを全部話すことが出来たのか自分でも分からないくらいで・・・。私、やっぱりダメな子だよね」
私は肩を落としましたが、リバーは首を振って、
「そんなことないよ。きっと、キャスの気持ちは皆に伝わっているよ」
「だといいんだけど・・・」
私はそう言ってから、8日振りに会うリバーの顔をじっくり見ました。・・・あれ?「・・・ねえ、リバー?やつれて・・・ううん。顔が引き締まったみたいよ?」
更にハンサムになってます!
「ああ」
リバーは前髪をかき上げてから、「反省室って、全くすることがなかったんだよ。それで仕方ないから、ずっと、体を鍛えてたんだ」
「まあ・・・」
そう言えば、腕も胸も更に硬くなったような気がします。と、言う事は、更に脱いだらスゴイ状態になってしまっているのですね!ぎゃっ!
ですが・・・。
私はうーんと唸って、
「何だか反省室に入った意味がないような気がするんだけど・・・だって、反省してないでしょう?」
リバーはにやりと笑って、
「だから、次期五大公爵の反省として、体をいじめてたんだよ。十分、反省になったと思うんだけどな」
私は吹き出してしまうと、
「物は言いようね!」
リバーは声を上げて笑うと、また私を抱きしめて、
「もちろん、キャスの弟としては、全く反省してないけどね!」
私もしっかりとリバーを抱きしめ返すと、
「そんなことを大きな声で言わないの!」
と、注意しました。
それから、私とリバーは笑い合っていましたが、あっとリバーが声を上げてから、私の体を離すと、
「・・・キャス。話しておかないといけないことがある」
いやに低い声でしたので、私は心配になりますと、
「ど、どうしたの?・・・あ、まさか、反省室には幽霊が出るとか?」
リバーは身震いすると、
「もっと、怖いよ。お母様から鳥が飛んで来たんだ」
私はごくりと息を呑むと、
「お、お母様、なんて?」
「『その1。二人とも、反省文50ページ書くこと。その2。長期休暇の間、キャスが20周、リバーが50周、屋敷周りを毎日走ること』」
「ぎゃあっ!」
20周を毎日ですか?!お母様はスポ根ドラマに登場する鬼監督さんみたいですね!
「『その3』」
「まだあるんですか?!」
「『キャスは毎朝ミルク粥を食べること』」
「い、嫌です!」
私は思わずそう返してしまいましたが、
「『拒否権はありません。・・・その4。私の説教を楽しみにしてなさい。以上』」
「・・・」
「・・・」
「・・・リバー、お母様の説教、最長何時間?」
「1時間。キャスは?」
「酒樽事件の2時間。・・・じゃあ、3時間くらいかしら?」
「いや、5時間はいくんじゃないかな。多分、すっごく怒ってるよ・・・」
「・・・」
「・・・」
私とリバーは家に帰った時のことを思うと、憂鬱になりましたが、
「「頑張ろう!」」
励まし合うようにお互いを強く抱きしめました。
帰省した時のことを思うと、早くも疲れを感じてしまいました!
お互い支え合わないと、とても立っていられません!
私とリバーは長期休暇を楽しみにしていいのか分からなくなってしまいました。
−−−−−−
私たちはしっかりと抱きしめ合っているカサンドラ様とリバーを玄関から見ていました。
そんなお二人をリバーの派閥の方々はうっとりと見ています。・・・失礼かとは思いますが、リバーの派閥の方々は変です。
私の方はやや嫉妬心を覚えていましたが、私の隣にいる殿下が、
「やっぱりな・・・」
と、呟きました。
「・・・?」
何が『やっぱり』なんでしょうか?
殿下は続けて、
「まったく傍迷惑な双子だな。・・・キャスの奴、注目されるのが苦手なくせに良くもまああんなことが出来るものだ」
とても不機嫌そうに言いました。
・・・殿下も嫉妬をしているのではないでしょうか?
「まるで何年振りかの再会のようですね・・・」
アーロンはどこか遠い目をしながら言いました。
・・・さすがのアーロンも呆れているようです。
「美しい姉弟愛ではないですか!羨ましい限りです!」
ルークだけは何故か感激しています。
・・・貴方が妹さんたちとあんなことをするとは思えないのですが?
とりあえず、私たちがお二人のところへ行くと、
「皆さん!おはようございます!」
そう挨拶したカサンドラ様はリバーが戻って来たお陰かまるで輝くような笑顔です。
悔しいですが、リバーが復帰しない限り、カサンドラ様がこのような笑顔を見せることはなかったでしょう。
私たちが口々に挨拶をした後、
「キャス。今日、ランチを一緒にしようね。(説教も含めて)話したいことがたくさんあるからね」
「ええ!もちろんよ!(説教するでしょうし)時間がいくらあっても足りないわね!」
「そうだね・・・お茶の時間は罰と言う名の手伝いがあるし、放課後は8日間何も出来なかった分、訓練をしなくちゃいけないから、キャスとあまり一緒にいられなくて残念だよ」
リバーは溜め息混じりにそう言うと、私たちに顔を向けて、「と言うわけで、僕とキャスは二人だけで、ランチを取りますから、絶対に邪魔しないで下さいね」
リバーは黒い笑みを浮かべながら言いました。
『絶対』を強調したのは思い過ごしではないでしょう。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
ただただ呆れる私たちを置いて、カサンドラ様とリバーは仲良くお喋りをしながら行ってしまいました。
その後、校舎に向かって、私と殿下が並んで歩いていると、
「シュナイダー」
殿下が前を歩くカサンドラ様を見つめながら、「・・・終業式の日はまだ帰らないだろう?」
「ええ。その次の日に帰る予定にしています」
「なら、時間をくれないか。話がある」
「話・・・」
私は殿下と同じ様にカサンドラ様を見ると、「話とはカサンドラ様のことですか?」
殿下はこれでもかと眉をしかめて、
「いちいち当てるな。いちいち言うな」
「すみません」
全く悪いとは思っていませんが、一応、謝ると、「何故、終業式の次の日なんですか?」
「・・・シュナイダーより前に話をしなければならない人がいる」
殿下は厳しい表情をしています。
「・・・そうですか」
私はそれが誰なのかすぐに分かりましたが、もちろん、口には出しませんでした。
殿下はカサンドラ様への思いを自覚したせいか、謹慎中の5日間はどこか思い詰めたような表情をしていましたが、昨日の朝に会った時はすっきりした表情に変わっていたのです。
殿下は一昨日、王城に帰っていました。
兄君であるダンズレイ公爵様にカサンドラ様のことを相談したのではないかと思います。
・・・殿下の話は、多分、私にとってはいい話ではないでしょうね。
気が重くなった私は殿下に気付かれないようにそっと溜め息をつきました。
本当に傍迷惑な双子で、申し訳ありません。
双子はこれから更に仲良くなります。多分、ウザいと思われるかと・・・。
レオ様は何かしら決心をしたようです。




