憧れのシュナイダー様
今回、キャスが一人で語っているだけです。
「お嬢様。少しじっとしてくださいね。ウエストを測りますから」
「はい」
現在、来月にあるアンバー公爵家で開催されるガーデンパーティーで着用するドレスの採寸中です。
侍女さんにまるでコマのように回されているみたいです。目が回ります。私は背が伸びるのが早いし、同じドレスを着ていくわけにはいかないし、と言うことで、ちょくちょくこういったことをしなくてはならないと思います。正直面倒です。
それにしても、ガーデンパーティーなので、あまり格式張ったものにはならないそうですが、今回が五大公爵家の交流会への初参加となりますから、既に緊張しちゃってます。レオ様とまた会えるのは嬉しいのですが、そんなもの(失礼)では帳消しにならないくらい緊張しています。なぜなら・・・。
ガーデンパーティーで3人目の攻略対象キャラと会えるからです!
おまけに『野崎明日香』のお気に入りだったキャラなのです!!
生身の人間として、動いているシュナイダー様が拝めるのです!!!
おっと、興奮のあまり、名前が出てしまったので、私のお気に入りであるシュナイダー様のご紹介を本人登場の前にしてしまいましょう。
シュナイダー様、シュナイダー・グラント様は五大公爵の一つ、アンバー公爵家の令息で、次期公爵となる方です。正確には、シュナイダー様の御祖父様が現公爵ですので、次の次になります。
ちなみに前カーライル公爵で、私たち双子の御祖父様は早くに亡くなっております。父、アンドレアスは私たちから見ると、御祖父様世代の中で一人、年若いと言うことになります。お父様も大変なんですねー。あのお茶目なお父様からはそう言った苦労は感じませんが。
話をシュナイダー様に戻します。
シュナイダー様の外見は、髪は珍しい水色で、瞳は琥珀色です。そして、ここ重要です。シュナイダー様は眼鏡をかけているのです!私、眼鏡男子好きです!ぎゃー!恥ずかしいー!
ところがです。シュナイダー様は『カサンドラ・ロクサーヌ』にいい感情を持っていません。何故なら、レオ様はカサンドラにいじめられたことを、シュナイダー様にだけ打ち明けているからです。
シュナイダー様のお母様は、現国王陛下、つまり、レオ様のお父様の妹君ですので、お二人は従兄弟同士で、ほぼ生まれた頃からご一緒でした。ですから、レオ様はカサンドラのことを話したのでしょう。
と、言う訳で、私、大変不本意ではありますが、憧れのシュナイダー様に嫌われなくてはなりません。
嫌われなくてはなりませんが、残念なことに、レオ様に対して、悪役令嬢として、何一つやっておりません。おまけに、レオ様が王城に帰る時、嫌がりました。泣きました。更にお友達だと思っています。私は、何をしているのでしょう。
レオ様も私のことは嫌ってはいないと思います。まあ、『ども噛み病』を発症している挙動不審な女がいる。と、話しているかもしれませんが。
ここで、レオ様に何も出来なかったしわ寄せが来てしまいました。
私、どうしたらよいのでしょうか。
やはり、ガーデンパーティーにて、何かをする必要があるのでしょうが、何をすればいいのかさっぱりです。
おっと。ゲームにおけるシュナイダー様の攻略法もお話さねばなりませんね。
ずばり、『天然ドジっ子』です。どこかで見たような・・・と、思われるでしょう。そうです。レオ様と同じなんです。
『魔法学園でつかまえて』の制作スタッフは手抜きしているとしか思えません。ですが、頷ける理由ではあります。
シュナイダー様は無表情キャラで、よっぽどのことがない限り、表情どころか、感情が動くことはないのです。
ですので、ヒロインの予想外の行動に感情を揺り動かされ、ついには笑うようになるのです。シュナイダー様の笑顔は貴重で鼻血モノです。
攻略が簡単過ぎる乙女ゲームとして有名な『魔法学園でつかまえて』ですが、シュナイダー様は一番攻略が難しいキャラなのです。まず笑うまでに時間がかかりますし、好感度も上がりにくいです。
それに何よりライバルが強力なんです。もちろん、カサンドラではありません。ライバルについてはまたお話します。
にしても、カサンドラは忙しいですよね。リバーとレオ様のルートでお邪魔キャラとして君臨し、シュナイダー様にも嫌われる必要があるのですからね。こんなポンコツ悪役令嬢には本当に厳しいです。
シュナイダー様に会えるとガーデンパーティーを楽しみにしておりましたが、こうなると憂鬱なものでしかないですね。
悪役令嬢としての役目もありますし、『ども噛み』持ちは、挨拶すら大変なのですから。
「はあー・・・困りますた」
私は溜め息混じりに呟きました。
「奥様・・・」
私の採寸をしてくれていた侍女さんが、母、マリアンナに・・・「お嬢様が独り言を始めてしまって、採寸が進まないのですが・・・」
と、泣き付きました。母は溜め息をつきますと、
「しょうがないわね。あの子が落ち着くまで、休憩してちょうだい」
「恐れ入ります」
侍女さんは丁寧に頭を下げてから、「お嬢様は何か悩んでらっしゃるのでしょうか」
と、心配そうに言いましたが、
「あら、心配しなくていいのよ。キャスは独り言が得意なだけだから」
と、母は笑いました。
「あ、そうでしたね。何の心配もございませんね!」
侍女さんも笑顔になりました。
私、もちろん、そんなやり取りは聞こえてませんでしたが・・・。
独り言が得意って、そんなこと普通ありますか?!




