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目覚め

 今とは違う自分になりたい。

 誰かに必要とされる存在になりたい。

 生まれ変わったら、そう、生まれ変われたら。


「うにゃー・・・」

 野崎明日香は目覚めた。

 毎日考え、願っていることを、今日は夢で、まるで祈るようにつぶやいていた。

 生まれ変われたらなんて、馬鹿なことだ。今、これからだって、変わることは出来るのに。でも、自分は何もしていない。

 そう思って、情けなくなると、明日香は『馬鹿みたい』と声に出して言ったが、


 自分の耳に入って来たのは、

「びゃきゃみちゃい」

 ・・・だった。


「?!」

 明日香はびっくりしたと同時に起き上がろうとしたが、上手く行かず、また体がベッドに沈んだ。

 寝ぼけているせいだろうか。いや、頭はしっかりしているし、体だって軽い。明日香は何となく腕を伸ばした。

「んにゃ?」

 腕の長さは短く、開いた手は小さい。

「ー・・・?!」

 今度はちゃんと体を起こし、シーツをどけて、足を見ると・・・やっぱり短い。


 どういうこと?!もしかして、あれですか?!犯罪組織に子供にされちゃいましたか?!困ります!私は、あれに、板に車輪みたいなのがついたやつには乗れません!


 明日香は部屋を見渡して、鏡に気付くと、苦労しつつ、天蓋付きベッドから降りて、鏡の前に立った。

 その鏡の中にいたのは、美しい天使だった。

 豊かな金髪。陶器のようにつるりとして、透き通るような白い肌。雲一つない青空のように澄んだ瞳。


「にゃにぃぢんでしゅきゃ?(何人ですか?)」


 明日香がそう言ったきり、呆然としていると、部屋のドアがノックされた。ハッとした明日香は振り返ると、金髪が印象的なすらりとしたまるで女神のように美しい女性が中に入って来た。

 明日香は更に呆然となる。

「どうしたの?まだ眠い?」

 美しい女性はにっこり笑って・・・更に女神度が増した。


 明日香は呆然としつつも、女性の頭のてっぺんから爪先(長いスカート?に隠れて、爪先は見えないが)まで、何往復も眺めた。

「あらあら、そんなに見てー、お母様に何かついてる?」

 女性はそう言って、薄い紫色の瞳をくるりと回した(とても愛らしい・・・)。

「もう少し寝ましょうね」

 女性が明日香の前にやって来ながら、「ね、カサンドラ?」

 と、言った。


 その次の瞬間。

「ー・・・?!」

 多分、『カサンドラ』が鍵だったのだろう。

 とてつもなくたくさんの記憶に、情報が、まるで光の矢のように明日香の全身に突き刺さってきた。

 あまりの情報量の多さに、頭は重くなり、目が眩む。


 そのまた次の瞬間、明日香は完全に意識を手放したのだった。



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