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地上に降り立った悪魔

 私、柄の悪い生徒に連れて行かれてしまったアーロンを助けるべく、アーロンのお友達のグレゴリー・ベイントンさんと共に、玄関に向かっています。外に出て行ったそうなんです。

「あ、あの、一体何人の人がアーロンを連れて行ったんですか?」

 私はグレゴリーさんに聞きました。

「6、いや、7人くらいだったと・・・」

「そんな・・・アーロンはたった一人なのに・・・」

 大勢で寄ってたかってなんて許せません!


 私とグレゴリーさんはようやく玄関を出ました。学園は広過ぎます!まったくもうっ!

 私、気が早り過ぎて、グレゴリーさんより先を行っていましたが、

「ろ、ロクサーヌ様、待って下さい、こっちです」

 グレゴリーさんは私が行こうとしていたのと、反対方向を指差しました。

「あ、すみません!」

 ・・・あ、こっちに行くと、私とレオ様が過ごしているベランダの真下になります。

 日当たりが良くて、気持ちはいいのですが、玄関から遠く離れているので、誰も来ないのだとレオ様は言っていました。だから、レオ様も静かに過ごせると思い、あの場所を選んだのでしょう。


 そのベランダの下も通り過ぎ、私とグレゴリーさんは走っていましたが、グレゴリーさんが急に止まりました。

 私は肩で息をしながらも、

「あ、アーロンが?いたんですか?」

「いえ・・・ですが、声が聞こえます」

 と、グレゴリーさんは言うと、用心深く私の後方を見てから、角からそっと頭を出し、向こうの様子を伺いました。

「あっ」

 と、グレゴリーさんが声を上げました。何ですか?!

「見せて下さい!」

 私はグレゴリーさんを押し退けると、角から顔を出しました。そして、「ああっ」

 私は思わず、口を覆ってしまいました。


 アーロンが2人の男子生徒に壁に押し付けられています。そんなアーロンのお腹をあの3人組の中でとても体が大きく、この7人の中でもリーダー格らしい男子生徒が殴っています。まるでアーロンをボクシングのサンドバッグ代わりにしているかのようです。

 アーロンのお腹を何度も殴っていた男子生徒は一旦殴るのを止め、どうだと言うように胸を張りました。残りの男子生徒から拍手が起こりました。

 その間にぐったりとしていたアーロンは激しく咳込んだ後、またぐったりとしました。

 そんなアーロンを見て、男子生徒たちはげらげら笑います。

「おい。誰か代われよ」

 と、アーロンを壁に押し付けている男子生徒が言いましたが、リーダー格の男子生徒が、

「待て、待て。あと、10発やらせろ。いや、10秒で何発殴れるか、やってやる。誰か計れよ」

 と、言いながら、また殴る構えをしました。

 私はギュッと拳を握り締めると、

「あの、助けを呼んだ方が」

 と、言うグレゴリーさんの声を無視して、


「ぎゃああああっ!」


 私は叫びながら、アーロンの元へと走りました。

 その声に気付いた男子生徒たちが振り返ります。

「アーロンを離せー!!」

 私は他の生徒には目もくれず、リーダー格の生徒に体当たりをしました。

 さすがに体が大きいだけあって、リーダー格の生徒はよろけただけでしたが、体当たりした私の方は地面に倒れてしまいました。

 ぐったりとしていたアーロンでしたが、

「キャス様?!」

 倒れた私に気付いて、声を上げました。

「な、何だこの女、頭がおかしくなったのか?」

「うう・・・」

 私は衝撃で眩暈がしていましたが、

「なんか予定が違うけど、いいんじゃないか?この女、連れて行こうぜ」

 リーダー格の生徒がそう言いながら、私を起こそうと肩を掴んだので、私はその手を逆に掴むと、がぶーっと噛みつきました。


「うわっ」

 リーダー格の生徒が悲鳴を上げました。

 それから、噛み付いた私を引き離そうと、他の男子生徒たちが私の髪や腕を引っ張りましたが、私はけして離れませんでした。

「痛いだろうが!離せ!」

「ううっ」

 お前もアーロンの痛みを思い知れ!絶対離してなんかやらない!

 私は更に強く噛み付きました。


 ところが・・・。

「いい加減にしろっ!」

 リーダー格の生徒が私に噛み付かれていない方の腕を振り上げて、拳で私の右頬を殴りました。

 その衝撃で私の体が横に飛び、頭から壁に激突しました。

 私の体は糸が切れた操り人形のように、その場にくずれ落ちました。


「キャス様あっ!」

 アーロンは私の側に来ると、「キャス様!キャス様!しっかりして下さい!」

「あ・・・」

 私は重くなる瞼を何とか開けて、私を呼ぶアーロンを見ようとしましたが、その目の端に何かが飛び込んで来ました。


「キャス!」


「カサンドラ様!」


「な・・・?」

 何故、リバーとシュナイダー様とルークが空から降って来るんですか?


 リバー、シュナイダー様、ルークの順で無事地上に降り立ちました。

 リバーは倒れている私に目を遣ると、

「ルーク。飛び降りたばかりで悪いけど、スターリング先生を連れて来て。シュナイダー。キャスを見てやって」

「「はい」」

 ルークが向こうに凄い速さで走って行き、シュナイダー様はポケットからハンカチを出しながら、私の元へ駆け寄って来ます。

「し、シュナイダー様・・・」

 シュナイダー様は膝をつくと、

「動かないで下さい。出血しています」

「え・・・」

 私は何とか手を伸ばして、額に触れました。

 ぬるっと濡れた感触があり、その手を見ると、赤く染まっていました。血を見た私は気を失いそうになりましたが、


「逃げるな!!」

 リバーの鋭い声が辺りに響き渡りました。


「この場から逃げたら、どうなるか分かってる?足の骨の一本か二本くらい覚悟した方がいいと思うんだよね」


 リバーのいやに穏やかなその声は逆に私をゾッとさせました。

 リバーは指の関節を鳴らしながら、更に・・・。


「お前らさ、鬱憤が溜まってるんだろ?だから、こんなことしたんだろ?だったら、俺がまとめて相手してやるから、来いよ。魔法は使わないから、お前らでも、俺に勝てるかもよ?逃げるより、ずっといいだろう?おら!とっととかかって来いよ!」


「・・・?」

 今、喋っているのは誰ですか?私の可愛い弟ですか?

 私はふと思い出しました。・・・お父様は一度キレたら手がつけられなくなります。

 庭の大きな木を一撃で倒したり、書斎を2回破壊したこともあります。あ、馬車を破壊したことも・・・。

 リバーもそんな父の血を受け継いでいるはずです!ぎゃあああっ!


 私は治療しようとするシュナイダー様の手を掴むと、

「し、シュナイダー様、お願いです、リバーを止めて・・・」

 と、お願いしましたが、

「私、命が惜しいので、嫌です」

 シュナイダー様はそうきっぱりと拒否しました。ええっ?!

「そ、そんな・・・」

「それよりもカサンドラ様の怪我です。お願いですから、じっとして下さい。・・・リバーのことは大丈夫ですよ。さすがに殺しはしませんから」

 ちっとも大丈夫じゃありません!

「うう・・・」

 リバーを止めなければと思いますが、私はいつ気を失ってもおかしくない状態です。頭も瞼も酷く重いです。ついでに頬が燃えるように熱いです。


 目を開けていられなくなり、瞼が閉じようとした時、シュナイダー様の肩越しに銀色の髪が見えました。

 こんな時なのに、太陽の光を受けて、きらめく銀色の髪を美しいと思ってしまいました。


「レオ、さ、ま・・・」

 レオ様も来てくれたんだ・・・。

 ああ。良かった。レオ様ならリバーを止めてくれる。

 私は安心して、瞼を閉じました。



 完全に気を失う前・・・。


 木の棒か何かが折れたような鈍い、いえ、それよりももっと嫌な音がした後、『ぎゃあああっ』と、誰かの悲鳴が上がりました。


「どのみち骨なんか折ってやるけどな!あはははっ!お前ら全員、この世に生まれたことを後悔させてやるよ!」


 ・・・リバー。お願いですから、無茶なことをしないで下さい・・・。


 でないと、お姉ちゃんの方がこの世に生まれたことを後悔してしまいそうです・・・。



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