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ヒロインが進む道

「どうぞ」

 ローズマリー様が私の前に香りの良いお茶が入ったカップを置きました。

 悪役令嬢であるこの私、どういうわけかローズマリー様のお部屋にお邪魔しています。

 暖色系を基調とした、とても落ち着くお部屋です。

 私の部屋はあっさり過ぎるかな?と、今更のように私は思っていましたが、我に返って、

「ありがとうございます。いい香りのお茶ですね」

 ローズマリー様は一人掛けのソファーに座ってから、

「祖母が配合した茶葉なんです。精油やら薬草やら何でも配合したがる人なんです。この茶葉はシュナイダー様やリバー様にもお分けしたんですが、気に入っていただけたようです」

 シュナイダー様だけでなく、リバーも自分でお茶を淹れます。喉が渇いたら、水でいいや。・・・そんな姉と違って、リバーはお茶の時間をきっちりと取ります。

 それにしても、リバーもシュナイダー様もローズマリー様と親しくなったようですね。

 前は何とも思っていないと言っていましたが、その頃より一緒に過ごす時間がずっと増えたでしょうから、今は気持ちが変わっているかもしれません。

 ルークが言っていたようにダメな私とは違い、ローズマリー様のことは期待しているようですし・・・。

 メグの話では、リバーとローズマリー様は全く気が合わないらしく、たまに口論になるそうです。

 基本、フェミニストな(あくまで表面的にですが)リバーが女性に対して、きついことを言うのは珍しいことです。リバーはそれだけローズマリー様に心を許しているのではないでしょうか?

 でも、リバーもシュナイダー様もレオ様に忠誠を誓っていますし、まさか、ローズマリー様を好きになるとは思えませんが・・・いえ、恋愛は別だと思うかもしれません。

 シュナイダー様はともかく、リバーがレオ様に遠慮して、好きな女性を諦めるタイプには思えないんですよね。


 と、言うことは・・・ひぃっ!


 私、レオ様とローズマリー様をくっつけることしか考えていませんでしたが、私は悪役令嬢として、リバーとローズマリー様の邪魔をする役目もあったのです!

 すっかり忘れていました!

 もしかしたら、リバーにあの台詞を言う時が迫っているのではないでしょうか!

 そうです!

 『魂の片割れである私を裏切らないでね』です!

 噛まないように練習しておくべきでしょうか?


「あのー、ロクサーヌ様?どうされたんですか?」

「はっ」

 はたと我に返りますと、自分の考えに没頭していた私をローズマリー様が心配そうに見ていました。

 し、しまった!ローズマリー様の前で自分の世界に入っていました!

 私は慌てますと、

「も、申し訳ありません!そうです!ヒューバート様のお話の続きが気になっていまして!では、続きをどうぞ!」

 私にいきなり話を振られて、ローズマリー様はびくっと体を震わせましたが、

「は、はい、で、では」


 ローズマリー様はリバーとシュナイダー様に、『王室付きの魔術師になれたらと思っているのですが、どう思われますか?』と、相談したそうです。


 すると、リバーはシュナイダー様と顔を見合わせてから、ローズマリー様を見ると、

『僕たちに意見を求めているんだよね?だったら言うけど、なれたらと思っているって、何?なれたらいいなでなれたら、誰も苦労しないよね?夢を持つのは勝手だけど、僕には3、4歳の子が、将来、お嫁さんになりたいと言っているのと同じようにしか聞こえないんだけど?』

 ひぃー・・・。


 シュナイダー様はリバーにもう少し言い方と言うものがあるでしょうと注意してから、

『王室付きの魔術師になるのは最も難しいと言われています。騎士ももちろん簡単ではありませんが、遥かに次元が違うと思った方がいいでしょう。五大公爵の補佐役でもありますし、更に、採用された時点で準男爵位を賜りますから、希望者は毎年千人を越えます。定員は決まっていませんが、ここ何年かは1人だけの採用に留まっていたかと・・・あ、去年は1人も採用されてませんでしたね。人手が足りないとしても、中途半端な人間に任せるわけにはいかないからです。試験官は五大公爵が務めます。皆、厳しい目を持っていますし、要求は高くなります。それをローズさんは分かっていますか?』


 ローズマリー様はリバーたちに相談する前に調べていたので、『もちろん分かっています』と、答えました。

 リバーはそんなローズマリー様を疑わしげな目で見てから、

『卒業しても、レオ様の傍にいたいから魔術師になりたいなんて、そんな甘ったるいことを思っているわけじゃないよね?そんなのは長続きしないよ。レオ様が他の女性と結婚したら、ぷっつり切れるだろうね。レオ様の妃の護衛をすることもあるよ?ローズに耐えられるかな?』

 と、意地悪げに言って・・・。


 ぎゃあああっ!


「弟が申し訳ありません!」

 私は頭を下げました。

 ローズマリー様は驚くと、

「ロクサーヌ様が謝ることはありません。どうか、頭を上げてください」

「リバーったら、そんな失礼なことを・・・」

 だいたいレオ様のお妃様はローズマリー様でしょう?婚約させる気満々だったくせに、何故、リバーはローズマリー様にそんなことを言うんでしょう?


「お姉様の前で失礼だとは思いますが、リバー様のあまりに意地の悪い言い方に、頭に来てしまって・・・何が何でもなってみせますと言ったんです」

 と、ローズマリー様は言ってから、恥ずかしそうに顔を赤らめましたが、私を真っ直ぐ見て、「ロクサーヌ様には誤解されたくないのですが、レオンハルト様の傍にいたいからと言うような、そんな浮ついた理由で王室付きの魔術師になろうと思ったわけではありません。確かに私はレオンハルト様とお会いしなければ、王室付きの魔術師になりたいと思うことはなかったと思います。アーロンは幼い頃から、王室付きの魔術師になりたいと言っていて、私はそれをずっと聞いていましたが・・・男性がなるものだと思い込んでいましたから」

 ・・・レオ様の傍にいたいからが理由でも私はいいと思うのですが。それにどうして私には誤解されたくないのでしょう?なんて、私は思いつつも、

「それなら、何故・・・あのー、娘の私から見ても、五大公爵様方は本当に多忙ですが、その補佐役となると、更に大変だと思いますよ?」

 ローズマリー様は頷いて、

「はい。それはシュナイダー様も・・・」


『一つ、いいですか?採用試験は22歳まで、計5回挑戦出来ます。一回で合格するのは稀で、3回目で合格するケースが一番多いそうです。3回目で合格したとして、その頃には二十歳。合格した後、見習期間の1年は息つく間もない程、雑用を回されますし、当然、毎日訓練があります。見習期間が終了後、3年間、国境を警備する任務に着くことになりますが、その間、任地を転々とすることになります。ですから、見習期間を合わせると、4年間はプライベートな時間など全く取れないでしょう。その多忙な4年間が終わった頃には24歳になっています。・・・一般的に言われている婚期は確実に逃します。身内の方々や周囲の人間は良く思わないでしょう。私自身はもう時代遅れだとは思いますが、貴族令嬢として生まれた以上、そう思われるのは仕方のないことですよね』

『貴族令嬢は見合う相手と結婚し、子供を産み育て、屋敷を切り盛りしていく・・・それに一生を捧げるのが当然とされているから、ローズはその当然だと思われていることと正反対のことをするわけだから、周りの理解を得ることは難しいかもね。僕の母も姉がここを卒業したら、すぐにでも結婚させるつもりでいるようなんだよね。結婚することが姉の幸せだと思い込んでいて、姉には特別なことなんてして欲しくないと思っている。もちろん、僕と父が姉の結婚なんか阻止するけど、全く、母の考えは厄介だよ。でも、この世界では母の考えの方が常識なんだよね。・・・ローズのご両親がローズの将来をどう考えているかなんて分からないけど、人と違うことをすると言うことは生半可な気持ちでは無理なんだよね』


 そう言えば、私も結婚せずに、修道院に入り、研究をしたいと思っています。・・・私も世の常識とは違うことをしようとしているのです。

 母が私を誰と結婚させようとしているのかは分かりませんが、母は私の目標を良しとしないと言うことになるんですね。


『・・・それに、女性で王室付きの魔術師になった方は今まで一人もいません。当然女性だからと甘く見てはくれませんし、相当苦労されると思います』

 シュナイダー様はそう淡々とお話した後、ローズマリー様を見据えて、『覚悟は出来ていますか?』

 

「私は出来ていますと答えました。近年、全属性を持って生まれてくる人間は年々減っています。この国でも、王族方以外は同じです。シュナイダー様から聞きましたが、現在、王室付きの魔術師でも全属性持ちの方はたった2名だそうです。だからと言うわけではありませんが、自分の力をこの国の為に役立てることが出来るのではないかと思ったのです。自分の力を最大限に活かすことの出来る道に進みたいと思ったのです」

 ローズマリー様はそこまで言ってから、私に断って、お茶を一口飲みました。

 それから、また話を再開します。

「レオンハルト様は王室付きの魔術師が五大公爵様方に頼りきりになっている現状を何とかしたいと思っています。それから、魔術師、騎士の地位が低すぎることも懸念しています。特に現在の国王陛下は貴族院の議員のことばかり重んじていますし、実際に五大公爵様方と接することが多い現場の方々の声が直接国王陛下に届くことが全くない状態です。議員の声ばかり聞いているから、五大公爵様方を軽んじるのだとレオンハルト様はおっしゃっていました。ただ、魔術師は働きによっては、議員になれる伯爵位を賜ることが出来るのに、今まで伯爵位まで上り詰めた方は一人もいません。それは、魔術師にとって、五大公爵様方の存在は絶対的であって、だからこそ、頼り切ってしまう。何でも五大公爵様に頼っていては、それ以上の成長は見込めない。五大公爵様方の味方にすらなれず、結局、孤立させてしまっている・・・。ですから、レオンハルト様はもっと高い意識を持つ優秀な人材を求めています」

「・・・」

 レオ様はそんなことまでローズマリー様に話しているのですね。

 と、言う事はレオ様はローズマリー様に妃として、自分を支えて欲しいと思っているのでしょうね。

 なのに、ローズマリー様は王室付きの魔術師を目指している・・・。いいのでしょうか?


 私が首を傾げたくなるのを我慢していると、

「私、以前は女性である私が、国のために出来ることなんて、何もないと思っていました。ですが、レオンハルト様やリバー様、シュナイダー様と関わるようになって、皆さんのお話を聞いているうちに、人事にしていいのかと思うようになったのです。レオンハルト様はお父様である国王陛下と戦ってでもこの国を変えたいと思っています。リバー様とシュナイダー様はそんなレオンハルト様を生涯支え、共に戦っていくのだと言う強い決意を見ていて感じます。そんな皆さんを見ていて、私も何か出来たらと思うようになったのです。何が出来るかと考えた時に、皆さんの意志を伝えていけたらと思ったのです。王室付きの魔術師になって、仲間に、後に続く方たちに一緒にこの国を変えていこうと伝えたいんです」


 そう話すローズマリー様の瞳は輝いていて、全く迷いはない・・・そう私に思わせたのです。


 

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