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出会えて良かった

「ああ。リバーは魔法は満点を目指していたからな。・・・私もだが」

 と、レオ様は言ってから、舌打ちしました。

 王子様が舌打ちなんかしちゃダメですよ!

 私はそんなことを思いつつ、

「だから、リバーは満足してないんですね・・・」

 

 現在、お茶の時間です。

 私とレオ様はいつものベランダにいます。

「ですが、リバーは3つしか属性を持っていませんし・・・十分だと思うのですが・・・」

「確かに私やシュナイダーよりも不利なことに変わりないが、リバーは属性を言い訳にはしないよ。それに採点は属性の数で不利にならないようなっているらしいし、リバーは闇の属性がなくても、高い魔力量でカバー出来る」

 カーライル家は代々属性が少ないのですが、それを補うのが高い魔力量なんです。

 ですから、他の五大公爵家と比べても、実力的には全く遜色ないんです。

「それはそうですが・・・姉としてはあまり無理をして欲しくないと言いますか・・・」

 思い詰めないかと心配なんです!

「リバーはカーライルを超えたいと思っているようだな」

「お父様を超える・・・」

 ・・・それはとても大変なことです。


 何故なら、私の父・・・カーライル公爵こと、アンドレアス・ロクサーヌは凄い人なんです!

 けして、娘のひいき目ではありません!

 父は学園時代に学力と魔法の両方で千点満点をたたき出したことのある化け物なんです!

 おまけに2年の前期と後期、3年の前期の3回も!(3年生の後期は試験がないので、総合順位は発表されません)

 更に、1年生時は比較的、先生の評価が甘いので、総合点が高くなりやすいのですが、2年生からは1年生の時は何だったの?!と、言いたくなるくらい、厳しくなるので、2、3年生時に千点満点を出すのは不可能に近いのです。

「父はちょっと人間離れしていますから・・・」

 と、私が言うと、レオ様は苦笑いして、

「確かにな。カーライルは以前から自信過剰としか思えない発言をする男だと思っていたが、ちゃんとした裏付けがあるわけだから、けして自信過剰ではないよな」

「・・・」

「・・・キャス?どうした?」

 私は俯きますと、

「私とリバーは双子ですから、属性も魔力量も半分になっちゃったんじゃないかって・・・私なんか生まれなければ良かったんじゃないかって・・・何にも出来ない役立たずな私がいるからリバーは無理をしてしまうんじゃないかって・・・」

「キャス」

 レオ様は溜め息混じりに私を呼ぶと、顔を上げた私の鼻をつまみました。

「う?」

「私はキャスのそういう卑屈なところは好きではない。私なんかなんて言うな。生まれなければ良かった人間なんかいない。キャスは役立たずなんかじゃない」

「うう・・・」

「リバーはキャスがいるから頑張れるんだぞ?守りたい物があることは素晴らしいことだと思う。キャスがいなかったら・・・」

「う?」

「キャスがいなかったら・・・」

 レオ様はそこまで言って、目を細めると、「私の人生はとてもつまらないものになっていただろうな。なのに・・・」

「・・・?」

 レオ様は一瞬ですが、とても辛そうな表情を浮かべました。レオ様・・・?


 私がレオ様をじっと見つめていると、レオ様は微笑んで、

「私はキャスと出会えて良かったと思っている。・・・本当にそう思っている。だから、そんなキャスに生まれなければ良かったなんて言わないで欲しいんだ」

 レオ様は私の鼻から指を離すと、「キャス。生まれなければ良かったなんて、二度と言うな。私からのお願いだ」

「レオ様・・・」

「私の願いをきいてくれるよな?」

 私はこくこくと頷きました。

 レオ様のお願いとあらば、何だってききます!


 ですが、レオ様はそんな私を胡散臭い物を見るような目で見てから、

「一応言っておくが、思うこともダメだぞ?口に出さなければいいなんて思ってないだろうな?」

「うっ・・・」

 私はぐっと詰まりました。レオ様は鋭いです!

 レオ様は眉をしかめて、

「キャスはその卑屈なところを何とかしろ」

「は、はい・・・ど、努力します・・・」

「ったく・・・」

「・・・レオ様?」

「何だ?」

 私は笑みを浮かべると、


「私もレオ様と出会えて、本当に良かったです!」

 

 すると・・・。

「っ!」

 レオ様はボンッと音がしてもおかしくないくらい急に真っ赤になると、「ば、馬鹿、何を言うのだ!」

 と、声を上げました。


 あれ?!久しぶりに『のだ』が出ましたよ!

 レオ様はいつの間にか『〜のだ』をやめて、『うむ』も『ああ』に変わっていたのです!どちらも可愛いと思っていたので、出なくなって、残念に思っていました!

 それが出たと言うことは動揺しているようです!とても照れているようです!

 もー。レオ様ったら。ふふ。

「可愛いですねえー」

 と、私がにやにやしながら言うと、

「男に可愛いなどと言うな!」

 と、レオ様は怒って、横から私の首に腕を回して、拳を頭にぐりぐりと押し付けました。

 ぎゃー!レディに何をするんですか?!

「い、痛いです!わ、私、レオ様と同じことを言っただけなのに、何故、私が言ったら、ダメなんですか?!照れてるんですか?!」

「て、照れてなどいない!」

「真っ赤ですよ?」

「赤くない!」

「・・・」

 私は自分の首に回しているレオ様の腕に触れて、「レオ様・・・恥ずかしがらないで聞いて下さい。私、レオ様と出会えて、本当に良かったと思ってます。レオ様は私の初めてのお友達なんです。それまで、私にはリバーしかいなかったから・・・私みたいな子とお友達になってくれて、本当にありがとうございます」

「キャス・・・」

「それに、今も生まれなければ良かったなんて言うなって、言ってくれて・・・私と出会えて良かったって、言ってくれて・・・そんなことを言ってくれるレオ様とお友達になれて、私、とっても幸せです」

「・・・幸せなんて、大袈裟だ」

「ずっと、ずっと、レオ様と私はお友達ですよね・・・」

「・・・」

「・・・レオ様?」

「・・・ああ。ずっと友達だ」

「・・・」

「・・・?キャス?」

「う・・・」

「う?」

 レオ様は私の顔を覗き込んで、目を丸くさせると、「な、何を泣いてるんだ?」

「か、悲しいんじゃないんですっ、れ、レオ様が泣かせるようなことを言うからで・・・ううっ」

「泣く程のことは言ってない!キャスは本当に大袈裟だな!」

「うっ。うっ。す、すみませんー・・・」

「全く・・・今日は涙腺がどうかなってるんじゃないか?」

 レオ様は呆れながら、そう言うと、私の頭に手を置き、自分の方に引き寄せました。丁度、私の頭がレオ様の肩にもたせ掛けるようになりました。

「・・・止めないから、好きなだけ泣けばいい」

 と、レオ様が言ってくれましたので、

「ううっ」

 私は遠慮せず、泣くことにしました。



 レオ様は私が泣いている間、ずっと私の髪を撫でてくれましたので、心地好くなった私は眠ってしまいました。

「すー・・・」

「泣いて、寝るとか・・・赤ん坊だな」

 と、レオ様はまた呆れながら、そう言いましたが、私の頬に残った涙を拭って、


「キャス・・・。すまない・・・。私は、多分、もうずっと前からキャスを友だなんて、思っていないと思う。キャスと出会わなければ良かったと思ったこともあるんだ。・・・キャス。本当にすまない。私はキャスに友だと思ってもらえる資格なんかないんだよ・・・」


 私はレオ様が何を言っているのか、分かりませんでしたが、そのレオ様の低い声もとても心地好くて、私はいつまでも聞いていたいと思いました。



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