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双子と図書室。その2

 入学してから初めて、学力試験と魔法の実技試験が行われました。

 私、ご存知の通り、治癒魔法しか出来ませんから、もちろん、魔法の実技試験はありませんでした。

 初の実技試験を前に緊張されていた他の生徒の皆様には申し訳ないくらいでしたが、その代わりに連絡係を任され、6棟ある魔法の訓練施設(魔法ドーム)を行ったり来たりしていました。

 ですから、私の可愛い弟の試験を見ることは出来ませんでした・・・。くっ。


 実技試験は先生が作り出す魔物と戦うのです。攻撃魔法はもちろんのこと、補助魔法も必ず1つは使わなくてはなりません。

 メグが言ったように魔物の見た目がとっても怖いんですよね。ゾンビさんだったんです!目玉が飛び出てたんです!見た途端、悲鳴を上げてしまいましたが、後の方は慣れてしまったせいか、何とも思いませんでした。

 ちなみにそれぞれの生徒さんの力量によって、魔物の強さや数を変えます。

 ゾンビさんは見た目が怖いと言うか、気持ち悪いだけで、強さで言うと、下の下なんですよね。移動速度が遅いですしね。

 そんな弱いゾンビさんでも、先生方が自分の魔力を注いであげることで、強くすることが出来るんです。

 次の試験はまた違う種類の魔物が出て来ます。2年生の後期では黒魔術師さんが、3年生の前期ではドラゴンさんが出て来るそうです。



 魔物の見た目に文句を言っていたメグでしたが、

「でも、怖がっていたら、点数なんてもらえないから、戦うしかないわよね。次は魔物の見た目なんかに惑わされないようにしなくては」

 メグはぐっと拳を握りました。おっ。

「メグって、強いんですね」

 と、私が感心しながら言いますと、

「・・・」

 メグは肩をすくめてから、「・・・強くなんかないわ。私は弱虫よ」

 そう言って、ふっと自嘲するかのように笑いました。メグ・・・?

 私とリバーがまじまじとそんなメグを見てしまったので、メグはやや頬を赤くすると、

「れ、レディが強いなんて言われても、嬉しくないの。それだけ」

 すると、

「メグさんは強いと言うより、頑張り屋さんなんですよね」

 と、ルークが言いました。

「え」

 メグは驚いたように目を大きくさせてから、隣のルークを見ました。

「自分はそう思いますよ。メグさんは本当に頑張り屋さんですよ」

「っ・・・」

 メグは更に赤くなると、「な、何言ってるのよ。貴方、恥ずかしくないの?」

「え?恥ずかしくないですよ。どうしてです?本当に思っていることを言っただけなのに」

 メグはそっぽを向くと、

「そ、そんな風だから、こっちだけが恥ずかしいのよね。勘弁して欲しいわ。・・・貴方って、そういうところがキャスに似てるわよね」

「えっ?!カサンドラ様と似てるなんて、自分も勘弁して欲しいです!」

 ルークが本当に嫌そうに言いました。ぬっ?!


 私は文句を言おうかと思いましたが、

「キャス」

 リバーがそれを止めてから、立ち上がりますと、「せっかくだから、何か借りて帰ろうかな。付き合ってよ」

「え、あ、うん」

 私とリバーは何やら言い合いを始めたルークとメグを置いて、本棚へと向かいました。


 私は振り返って、ルークとメグを見ると、

「放っておいていいのかしら?」

「いいんじゃない?」

「・・・ねえ。たまに思うのだけど、ルークとメグって、いい感じじゃない?」

「へえ。キャスでも、そういうことに気付くんだ」

「私、そんなに鈍くないですよー」

「・・・」

 何故、黙るんですか?!

「だ、だって、私、ルークとメグとはいつも一緒だから、気付かない方がおかしいでしょう?2人は自覚してないだけだと思うのよ。メグは自分の人生に恋愛は必要ないとか言ってるし、ルークはレオ様馬鹿だし」

 リバーは本棚に並ぶ本を見ながら、

「メグさんの方はルークのことが気になってるみたいだね。でも、ルークはなあ。何を置いてもレオ様だし、他の女子生徒とも気さくに話すから、今のところ、メグさんだけが特別って感じではないんだよね。・・・・あ、でも、メグさんの話をする時があるな。学園に入ってからはレオ様の話ばかりじゃなくなったよね。そういうところはルークも変わったと思う」

「そんなにメグの話をするの?」

 ルークったら!ぎゃあっ!

「いや」

 リバーはゆっくりと首を振って、「残念ながら、10あったら、1くらいかな。それで、4がレオ様。5がキャス」

「?!」

 私が5ですか?!レオ様よりも上?!「も、もしかして、わ、悪口とか?」

「・・・いや」

 ・・・その間は何ですか?


 ルークに限って、私の悪口なんか言うはずがないですよね。うん。と、自分を納得させようとしていると、

「キャス」

 リバーが私を見て、「ルークとメグさんのことだけど、くっつけようなんてしないようにね。周りがお節介して、変に意識させたら、お互い距離を置きかねないと思うよ。自分の人生に恋愛なんか必要ないなんて言ってるメグさんは特にそうなる可能性がある」

「・・・」

 私はちょっと想像してみて・・・「リバーの言う通りね。分かった!」

 ・・・恋愛小説好きのメグが自分の人生に恋愛は必要ないなんて、矛盾していることを言うのには、何か深い理由があると思うのです。


「・・・いやに簡単に納得したな」

 リバーは呟きつつ、首を傾げましたが、「メグさんと言えば、レオ様とローズのことでキャスに何か言った?」

「え?・・・あ、しばらくそっとしてあげましょうって」

 この間、この図書室でそう言われました。ルークも賛成し、1対2となったので、私、不本意ながら、メグの言う通りにすることにしました。何故か多数決には逆らえないのです!「それでね。ローズマリー様と挨拶してただけで、メグが目を吊り上げながらやって来て、余計なことを言ってないでしょうね?!って、言うの。正直、とっても怖いのよね・・・」

「ふうーん。・・・メグさんは素晴らしいね」

「何が?」

「いや」

「?」

 私も首を傾げましたが、「でも、そっとしておいていいのかしら?お茶会も中止になったままだし、最近、レオ様とローズマリー様は前とは違って、あんまり一緒にいないようだし・・・メグがローズマリー様はアーロンと一緒の方が自然だなんて言ってたでしょう?だったら、もっと一緒にいるべきじゃない?」

 リバーは一冊の本を取り出すと、ペラペラとめくりながら、

「ローズもレオ様とばかり一緒にいたら、交友関係が狭まるだろう?ローズのためにも良くないんじゃないかな」

「でも・・・」

「それにレオ様だって、もう少し他の生徒と打ち解ける必要があると思うしね。『冷酷な氷の王子』なんて言われてるから・・・ふっ。正直、レオ様を良く知ってたら、何それって、笑っちゃうけど、レオ様のことを良く知らなければ、鵜呑みにしちゃうだろうし、なかなか近寄れないだろうね」

「だいたい氷の王子はおかしいわよね。だって、氷の魔法が得意なのはシュナイダー様だもの」

 アンバー公爵家は水や氷の攻撃魔法を得意としているのです!

「そ、そういうことじゃなくて・・・まあ、近寄り難いと思われてるのはシュナイダーもだけど、レオ様は元々女性嫌いなだけで、同性とも話さないなんてことはなかったと思うんだけどね」

「・・・」

 ・・・闇の力のせいかもしれません。

「だからって、僕たちが誰かにレオ様と仲良くしてやって欲しいなんて、頼むのもどうかと思うだろう?子供じゃないんだからさ」

「そうよね・・・レオ様も良く思わないでしょうね」

 ですが、レオ様も闇の力と上手く付き合えるようになれば、気持ちに余裕が出来て、自分から打ち解けるための努力をするようになるのではないでしょうか?


 リバーはまた別の本を取り出しながら、

「・・・でも、このまま放っておくのも・・・あいつに頼んでみようかな」

「え?あいつ?」

「あ、いや、こっちのこと。それにしても、この図書室って、人が来ないね。昼寝にいいね」

「メグの前でそれは言わないでね」

 と、私は言うと、高い本棚を見上げて、「本の匂いって、いいわよね。こうやって、本に囲まれていると、カーライル家の図書室を思い出すの。もちろん、こんなに広くないけど・・・」

 リバーは微笑んで、

「そうだね」

「・・・お父様もお母様も元気かしら。皆、変わりないかしら・・・」

 ・・・うっ。ちょっとしんみりしちゃいます。

「もうすぐ長い休みに入るから、すぐ会えるよ」

 リバーはそう言って、私の頭を撫でました。

「ええ。そうね。楽しみね」

 私もお返しにリバーの頭をなでなですると、

「な、何するのさ」

 と、リバーはちょっと赤くなりました。ぎゃっ!


「もー、リバーったら!可愛いんだから!」

 私がそう言いながら、リバーの頭を両手で撫でようとしましたが、リバーは素早く避けると、

「男が可愛いって言われるのは、嫌なんだけど?!」

 リバーは逆に私の頭を両手で撫でました。と、言うより、私の髪をぐちゃぐちゃにしてしまいました!ぎゃあっ!


「ぎゃー!やめてー!」

 私はリバーから逃げ出しました。「メグー!何とかして下さいー!」

 そんな私を見ながら、リバーはげらげらと笑いました。お姉ちゃんを何だと思っているのでしょうか?!


 ・・・こんな弟ではありますが、リバーは私の自慢です。

 リバーは次期五大公爵として、これから輝かしい経歴を築いていくのは当然のことだと、私は思っていました。

 ですが、私のせいで、リバーはその経歴に早くも傷をつけることになってしまうのです。



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