初恋の人
『ローズマリーは初恋ではない』
そうレオ様が言ったので、私、きょとーんとしていましたが、
「えっ!レオ様の初恋はローズマリー様ではないのですか?!」
と、声を上げてしまいました。
「・・・」
レオ様は体を丸めたままですので、顔が見えません。
「じゃあ、誰なんですか?私が知ってる人・・・あ、サラ姉様ですか?!」
レオ様はパッと顔を上げると、
「違う!何だって、兄上の婚約者を好きにならなくちゃいけないんだ!」
「そ、そうですね。すみません。で、では・・・」
それから、私は知っている女性のお名前を挙げていきましたが、レオ様は全て『違う』と言いました。疲れました・・・。
「分かりません!」
ギブアップです!「レオ様、意地悪しないで教えて下さい!」
「意地悪なんかしていない。それに絶対教えない」
と、レオ様はつれなく言いました。
「えー・・・」
私はがっかりしましたが、「でも、レオ様が初めて好きになった方なら、とっても素敵な方なんでしょうねー・・・私が目指しているような完璧な令嬢なんでしょうねー・・・」
私があれこれ想像しながら言いますと、
「ぶはっ」
レオ様が吹き出しました。何故?!
「・・・レオ様?私、おかしなこと言いました?」
「くくく・・・」
レオ様、めちゃくちゃ震えてますよ?!
「あのー、レオ様?笑いたいなら、思い切り笑っていいですよ?」
私はそう言うと、レオ様の震えている肩をぽんぽんと叩こうとしましたが、レオ様はガバッと体を起こして、
「あははっ」
おなかを抱えながら、大笑いします。
何がそんなに可笑しいんですか?!
「あーあ」
レオ様は笑うのを止めると、「どこがそんなに良かったのかな・・・」
「完璧な令嬢ではないのですか?」
「まさか」
レオ様は鼻で笑うと、「完璧に程遠い女だ。・・・挙動不審だし、鈍感だし、抜けてるし、思い込みが激しいし、押し付けがましいし、不器用だし、鈍臭いし・・・」
私は眉を寄せますと、
「一体・・・その方のどこが良かったのですか?」
レオ様なら、より取り見取りなのに・・・。
すると、レオ様はとても優しい表情になって、
「・・・さあな。でも、その娘のことは本当に好きだったな」
そう言った声もとても優しくて・・・。
「ー・・・」
私は驚きました。
・・・レオ様がそんな恋をしていたなんて知りませんでした。
きっと、大事な思い出なんでしょうね。
誰かなんて、もう聞かないでおきましょう。
それに・・・何だか、胸がもやもやすると言うか、少し落ち着かない気分になるのです。
私とレオ様は5歳の時からお友達です。なのに、私にはレオ様の初恋の方が誰なのか分かりません。
私の知らないレオ様がいる気がして、ちょっと寂しいのです。
レオ様がローズマリー様と過ごしていた間のことも、レオ様が全く教えてくれなかったこともありますが、私には知りようのないことです。でも、寂しいだなんて感じたことはなかったのに、不思議です。
私がそんなことを考えていると、
「私の初恋が実ることはないだろうな・・・」
レオ様はぽつりと言いました。
「レオ様・・・」
・・・何だか寂しそうです。初恋の方のことが本当に好きだったのでしょう。
もし、レオ様がその方と結ばれたら、当然、ローズマリー様と結ばれることはありません。もう乙女ゲームや悪役令嬢どころではありません。
なのに、寂しそうなレオ様を見てしまった時、レオ様が幸せなら、誰と結ばれてもいいのではないかと私はそんな風に思ってしまいました。
その後、『時間が来たら、起こせ』と言って、レオ様は寝てしまいました。
・・・また眠れなかったのかな?と、私は思いつつ、立ち上がりました。
それから、何となく下が見たくなって、ベランダの柵に肘をついて、身を乗り出すようにして下を見ると、
「あ」
アーロンが歩いています。
上からなので顔は見えませんが、頭で分かります!アーロンは素晴らしいキューティクルなんです!私の父もそうだったのですが、アーロンに比べると、若干落ちますね!やっぱり年には勝てませんね!(仕方ありません)
そう言えば、ローズマリー様も素晴らしいキューティクルなのですが、そういう地域なのでしょうか?
私、これでもレディですので、大声で呼び掛けるわけにはいきませんから、アーロンの姿を目で追っていると、
「あれ・・・」
アーロンが向かって行く先には、あの3人組がいました。まるでアーロンを待ち構えているように見えます。
あれですよ!私とアーロンが歩いていたら、じろじろ見て来たり、冷やかすように口笛を吹いたり、私とお話したいとか言って、私の腕をいきなり掴んだりしたあの3人組です!
ゴードン様のお陰であれ以来、私の前に一度も姿を現していませんでした。
3人組はにやにやしています。失礼かとは思いますが、私、あのにやにや笑いがとっても嫌なんです。
・・・前世で私を騙していた元彼のお友達を思い出してしまうからです。
案の定、アーロンは3人組の前に来ました。すると、1人がアーロンの肩を親しげに叩きます。
アーロンはあの3人組と親しいのでしょうか?
すると、
「キャス?」
レオ様が私を呼んだので、私は振り返りました。
「あれ、レオ様、もう起きたんですか?」
と、私が言いますと、レオ様は眉をしかめて、
「キャスが近くで、バタバタしているからだ。気になって眠れない」
「す、すみません」
下を見るには、背伸びしないといけなかったのです。
レオ様は眠そうな顔をしながらも、「それで、何を熱心に見てたんだ?」
「あ、その、アーロンが・・・」
「アーロン?」
レオ様は首を傾げてから、立ち上がると、下を見ましたが、「いないぞ?」
「え?・・・あれっ?」
もういなくなってます!「おかしいですね・・・」
「見間違いじゃないか?この下はあまり人が来るような場所じゃないぞ」
「でも・・・」
・・・私、ぼーっとしてますが、見間違うわけはありません。
気になります。アーロンに直接聞いてみましょう。




