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性格の問題

 私の前にはお人形さん『にんにんさん2号』が横たわっています。全体的に青紫色に変色しています。

 『にんにんさん2号』は解毒魔法の練習用のお人形さんです。もちろん、私専用です。どうでもいいことですが、一応、女の子です。

 道具(注射器に近いですが、木製でおもちゃのようなちゃちな作りをしています)で、毒をお人形さんの体内に注入すると、その毒に反応し、青紫色になってしまうのです。


 私、3分前から解毒魔法をかけているのですが、全く変化がありません。

 私の額には汗が滲んでいます。

 3分間ずっと魔力を送り続けるのは大変なんです。

「はい。一旦、止め」

 と、スターリング先生が言いましたので、私は魔力を送るのを止めると、椅子に深くもたれました。

「全然ダメだ・・・」

 『にんにんさん2号』は青紫色のままでした。少しの変化もありませんでした。


 研究のため、学園から特別に許可をもらい、解毒魔法の習得に向けて、一人だけ、他の生徒さんよりも早く教えてもらっているのですが、全く上手くいきません。

 目に見えている怪我を治すのと違って、イメージしにくいのです。解毒魔法は難しいです!

 私、早くも壁に当たってしまったようです!早過ぎます!

 スターリング先生にお褒めの言葉をいただいた時は、高い魔力量を誇るカーライル家のお陰だなんて言いつつも、こんな残念な自分にも得意なものが出来たと内心喜んでいたのですが、人生は甘くないです!


 私ががっくりと落ち込んでいると、

「授業中ですよ。顔を上げなさい」

 と、スターリング先生がやや厳しい口調で言いました。

「はい・・・」

 私はのろのろと顔を上げると、私を見下ろしているスターリング先生に向かって、「何の変化もありません・・・教えて下さった通りにやっているつもりなのですが・・・どうしてなんでしょうか」

 すると、

「つもりですか」

 と、スターリング先生はどこか刺のある言い方をしました。

「え、あ、はい」

「なら、どうして、上手くいかないのでしょうね?」

「・・・私には才能がないのだと・・・考えが甘かったようです・・・」

 と、私はそう言うと、また俯きましたが、

「だったら、研究なんて止めなさい。貴女の問題はその性格でしょうね」

 と、スターリング先生はそっけなく言うと、さっさと他の生徒さんのところへ行ってしまいました。

 私はその背を呆然と見送りました。


「はあー・・・」

 私、教室に帰りながら、溜め息をつきました。

「疲れましたか?」

 一緒に歩くシュナイダー様が言いましたので、

「いえ・・・人生って、本当に甘くないなと思って・・・」

 と、私が答えますと、

「苦労されてるみたいですね」

「はい・・・。それにスターリング先生を怒らせてしまったようで・・・」

 あの後、一度も私のところへは来てくれませんでした。


 シュナイダー様は頷くと、

「近くの席ですから、少し聞こえましたよ」

「私、頑張ってるつもりです。何故、解毒魔法に性格が関係あるのですか?私、スターリング先生が何を言いたいのか分かりません」

 と、私が不満げに言いますと、

「私もスターリング先生の意見に同意しますね」

「え・・・」

「子供の頃に、リバーに注意されていたことがあるのではないですか?思い出してみてはどうですか?」

「?リバーに・・・?」

「私の祖父のことがきっかけで、カサンドラ様が病気による苦痛を和らげる研究をしたいと思って下さったこと、私は嬉しく思っていました。ですが、しなくてもいい苦労するだけでしょうから、止めてしまっても、文句は言いませんよ。・・・では、これで」

 シュナイダー様もそうそっけなく言うと、行ってしまいました。

 私はまた呆然とシュナイダー様を見送りました。



 私はその後、スターリング先生とシュナイダー様の言葉を何度も思い返していました。・・・お二人は何が言いたいのでしょう?

 3時限が終わって、教室に帰りながら、思い悩んでいた私でしたが、ハッと我に返りました。

 お茶の時間です!レオ様のところへ行かなくては!


 私が急いで、空き教室のベランダに行くと、ベランダの隅っこでレオ様が体を丸めるようにして、座っていました。

 私がレオ様の近くに行き、

「レオ様?」

 と、声を掛けると、レオ様が顔を上げました。

 やや顔色は悪いですが、震えていませんし、呼吸も荒くありません。

 私はホッとすると、レオ様の隣に座りました。


 ホッとしていたのですが、

「・・・?」

 レオ様はいやにぼんやりしています。話し掛けるのをためらうくらいです。

 今日は闇の力は大人しくしているように見えるのですが、このぼんやりさん具合はどうしたのでしょうか?

「レオ様?眠いんですか?」

 と、私が思い切って、声を掛けてみますと、

「え・・・あ、いや」

「体は辛くないですか?」

「キャス・・・」

「はい?」

「今頃、何を言っているんだろうと思われるかもしれないが・・・」

 レオ様はやや俯くと、「すまなかった」

「は?」

 ・・・何がすまなかったんですか?

「ルークの祖父さんのところに行っている間、あんな短い手紙しか返さなくて・・・本当にすまなかった」

 レオ様はそう言うと、頭を下げました。


「?!」

 えええっ?!本当に今頃どうしたんですか?!「れ、れ、レオ様。やめて下さい!もう気にしてませんから!」

「キャスはそればっかりだな。怒っていいんだぞ。私はキャスを傷付けることばかりしてるのに・・・」

「でも、レオ様は短いですけど、ちゃんと手紙をくれたじゃないですか。私、レオ様が元気だってことが分かれば、それで良かったんですから」

 と、私がそう言って、へらっと笑うと、

「キャスはお人好しだな」

 と、レオ様は言ってから、膝に額をくっつけるようにして、体を丸めると、「キャスは馬鹿だ・・・」

「・・・レオ様?」

 何だか凄く落ち込んでいるようです。「レオ様。私とレオ様は生涯の友じゃないですか。そんなに気にしなくていいんですよ?」

 私はレオ様の頭を撫でました。

 ふぉー。レオ様の髪、サラッサラです。癖のある私の髪とは違い、指通り滑らかーです。

 それにしても、この落ち込みようも闇の力のせいなんでしょうか?心配です。

 何て私が思っていると、

「キャス・・・」

「はい?」

「キャスはシュナイダーが好きなんだよな」

 また決め付けるように言いますね。と、私は思いつつ、

「私、シュナイダー様のことは・・・」

 と、言いかけて、

「や、やっぱりいい!聞きたくない!」

 と、レオ様が声を上げます。

「は・・・でも」

「いいから!口を閉じていろ!」

「はい!」

 私、慌てて、口を閉じました。

 ・・・レオ様、変です。


 私はその後もしばらくレオ様の頭をなでなでしていました。

 こうやって、レオ様に触れていると、何だか心が暖かくなります。

 でも、もっと撫でて。と、言うようにレオ様が頭を傾けてくれた時、胸がきゅーっと苦しくなりました。・・・猫さんのように可愛いらしいからですかね?

「キャス・・・」

「・・・」

「キャスの初恋はシュナイダーなのか?」

「・・・」

「今でも好きか?」

「・・・」

 レオ様は顔を上げて、

「どうして黙ってるんだ?」

「だって、口を閉じてろって、言ったじゃないですか」

 と、私が言うと、レオ様はジロッと私を睨んで、

「へ理屈言うな」

「はあ?」

 ・・・どうして、私が怒られるんですか?


 私は納得がいきませんでしたが、

「初恋と言えば、初恋は実らないものではないですよね?」

 ローズマリー様がそんなことを言っていましたが、そんなことはないと思うのです!

 レオ様は首を傾げて、

「何だそれは?」

「ちまたでは、初恋は実らないと言われているのです。そんなことはないと思いませんか?」

「・・・」

 レオ様は眉を寄せて、「結ばれるとは、結婚すると言う意味か?」

「そうです!」

「それは初恋同士か?片方だけの場合はどうなるんだ?」

「え・・・」

 私、きょとんとして、「さ、さあ。そこまではちょっと・・・」

「そんなことを言ってたら、誰も結婚出来ないぞ。例えば、恋をせずに結婚したとする。王族や貴族ではその場合が多いだろう?それで、そのうちお互いに好きになったら、初恋同士と言うことになるだろう?それも実ったと言える」

「なるほど!では、初恋が実らないなんてことはないんですね!」

「そうだ」

「レオ様、頭いいですね!」

「頭の良さの問題か?」

 レオ様は首を傾げます。

「では、レオ様の初恋は実るんですね」

「え・・・」

「え。じゃありませんよ。ローズマリー様と結婚したら、レオ様の初恋は実るのです」

 ところが、レオ様はまた膝に額をくっつけると、


「・・・ローズマリーは初恋ではない」


「え?」

 私、きょとーんとしてしまいました。


 じゃあ、誰なんですか?!



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