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アレックスの見解(メグ視点)

「あー」

 頭が痛い。何て日なのかしら。

 私は一人寮に帰っています。

 キャスにはリバー様とシュナイダー様とお話することになった時点で鳥を飛ばして、『図書室には行けなくなった』と、伝えていました。


「あれ、メグ」

「あら。アレックス」

 女子寮の方からアレックスがやって来ます。「デートだったの?」

「まあね。カサンドラちゃんと護衛は?」

「まだ図書室にいるんじゃないかしら。・・・私、ちょっと考えたいことがあって、先に帰って来たの」

「ふうん。にしても、あの護衛、カサンドラちゃんとずっと一緒にいるけど、良く平気でいられるよね。良からぬことをしたくならないもんかね?」

「は?」

 ・・・この男、まだ明るいうちから何を言ってるの?

「だってさ、カサンドラちゃんって、メグの倍くらい胸が大きいだろう?俺なら、平常心じゃいられないけどな」

 私はギョッとしてしまうと、

「アレックス!何てことを言うの?!おまけに、ば、倍ですって?!」

 そんなに小さくないわよ!と、叫びたいのを何とか堪えてから、「だいたいルークはアレックスとは全く違うわよ!」

「あれ?あの護衛に惚れた?」

 アレックスはにやりと笑います。

「まさか。私の人生に恋だの愛だの必要ないわ」

 ・・・?一瞬、喉に何か詰まったように苦しくなったけど、気のせいよね?


 アレックスは苦笑いして、

「恋愛小説好きが矛盾してるな」

「ほっといて」

 と、私は言うと、帰ろうとしたけれど、

「メグ。どうした?何か疲れてるね?」

 と、アレックスは急に気遣うような口調で言いました。

「・・・」

 アレックスはちゃらちゃらしているように見えて、私が元気がなかったりしたら、すぐに気が付くのよね。

 私はアレックスの深い森のように濃い緑色の瞳を見つめていましたが、

「実は・・・」


 話すべきことではないことは分かっているけれど、まさか、キャスに話す訳にはいかないから、リバー様とシュナイダー様から聞いた話を私はアレックスに話してしてしまいました。

 ・・・私、本当に今までお友達がいなかったので、何かあったら、すぐにアレックスに話していたんです。

「くっ」

 アレックスは吹き出すと、「弟くん、黒いなー」

「アレックス!笑い事じゃないわよ!キャスは本当にレオンハルト殿下とローズマリーさんのために一生懸命頑張っているのよ?」

「そうだとしても、止めるよう説得した方がいいよ。出来るだけ早く」

「どうしてよ」

「だって、王子が惚れてるのはカサンドラちゃんなんだから」


 ・・・はい?


「そうじゃないかと思ってたけど、メグの話を聞いて、確信したよ。そっかー。カサンドラちゃんは王子とローズマリー・ヒューバートをくっつけようとしてたんだ・・・そりゃ、王子も捻くれるわけだ」

「ち、ちょっと、アレックス、待ってちょうだい。レオンハルト殿下はキャスが好きなの?」

「だから、そう言ったでしょ。メグはカサンドラちゃんと近い距離にいるから分からないかもしれないけど、ちょっと離れたところから見てみなよ。王子はカサンドラちゃんがシュナイダー・グラントと親しそうに歩いてるところを見ながら、まるで泣きそうな顔をしてるよ。その隣のローズマリー・ヒューバートはそんな王子を見て、泣きそうな顔をしてる。なかなか面白いよ」

 アレックスは言葉通り、さも面白そうに笑いました。

「面白いなんて失礼よ!」

「本人はそりゃ辛いだろうけど、赤の他人から見たら、そんなものじゃない?メグだって、王子とローズマリー・ヒューバートのこと、恋愛小説の世界と重ねて、楽しんで見てただけじゃない?本気で二人を応援してた?違うよね?メグに失礼なんて言う資格ある?」

「・・・」

 私は首を振りました。

「メグもそろそろ実際の恋愛は恋愛小説のように上手くいくもんじゃないって、知っておかないとね。メグは特にハッピーエンドで最初から相手役が分かっているような話しか読まないけど、恋愛も人生もそんな簡単なものじゃないよ。俺、間違ってる?」

「いいえ」

 私は仕方なくそう答えた。

 ・・・悔しいけれど、アレックスの言う通りだわ。


「でも、本当なのかしら。だって、キャスとレオンハルト殿下は何て言うか、キャスは生涯の友だなんて言ってるけれど、そんな風に思えないほど、ぎくしゃくしているし、昨日だって、レオンハルト殿下と何かあったみたいよ?キャス、目を腫らしていたもの」

 と、言うと、アレックスは今度はぎこちなく笑って、

「それは俺のせいかなー・・・」

「は?」


 私はアレックスから一部始終を聞いて、呆気に取られていましたが、

「あ、アレックス、貴方、王子様に対して、なんて失礼なことを・・・」

「え?でも、王子は『すまなかった』って、謝ったよ?王子はカサンドラちゃんのことになると心が狭くなるみたいだけど、他は寛大だよね。さっすが将来の国王だよねー」

 アレックスは全く悪びれない様子です。

 私は呆れたものの、

「それにしても、レオンハルト殿下って、そんなに酷いことをキャスに言ったの?許せないわね」

「まあ、俺も驚いたけどね」

「まるで嫉妬に狂った男みたいね・・・」

「メグもそう思うだろう?」

「・・・」

 ローズマリーさんがあの3人にあれだけちやほやされているところを見ても、レオンハルト殿下は何の反応もしなかったのに、キャスのことになるとそんなに露骨な反応をすると言うことは・・・「レオンハルト殿下はキャスが好きなの?」

「だから、さっきからそう言ってるだろう」

「まあ!」

 何てことなの?!

 じゃあ、ローズマリーさんが言っていたレオンハルト殿下の好きな人って、キャスのことなんじゃない!なのに、私たちったら、誰かしら?なんて、頭を悩ませていたの!?目の前にいたって言うのに何をしてたのよ!私もへっぽこの仲間入りじゃないの!

 ・・・そう言えば、シュナイダー様はレオンハルト殿下がローズマリーさんを好きになることはないと思った理由を『勘です』としか言わなかったけど、シュナイダー様は気付いてるんだわ!そりゃあ、リバー様の前で本当のことを言えるわけがないじゃない!


 レオンハルト殿下が本当に好きな女性はキャス。このことを疑う余地はもう無いけれど、疑問が無いわけじゃないわ。

「ねえ、待って。レオンハルト殿下はキャスが好きなのに、どうして、ローズマリーさんと一緒にいるの?弄んでるの?」

「あの王子に弄ぶなんて芸当なんか出来るわけないだろう」

 アレックスは笑って、「結婚すれば、弄んだことにはならないだろう?あの王子なら大事にすると思うよ。ただ愛情はあげられないってだけで。メグだって、貴族の結婚に愛情なんか必要ないって、考えだろう?俺だってそうだし、王族は更にその方が上手く行く場合が多い。今の国王だって、五大公爵家の令嬢を宛がわれるのが嫌で、尚且つ、優秀な子を得るために従姉妹である他国の王女を選んだんだから。国王はしょうもないけど、王妃は立派な方だ。愛情抜きで選んだ方が理想的な王妃を得られるんじゃないかな」

「そりゃそうかもしれないけど・・・」

 確かにそう思うけど、ローズマリーさんは愛のない結婚なんて耐えられないと思うわ。・・・そうか。だから、シュナイダー様はレオンハルト殿下からローズマリーさんを離すつもりでいるんでしょうね。


「でも、その前にレオンハルト殿下はローズマリーさんを好きだと思い込んでるらしいのよね。おかしくない?そんなに自分の気持ちが分からない方かしら?」

 アレックスは首を傾げて、

「カサンドラちゃんを好きだと認めたくないとか?相応しくないと思ってるとか?」

「キャスって、そんな大層な人?確かに見た目はいいけれど、中身は残念な人でしかないわよ?」

「酷いなあ。中身が残念でも、あの胸だけで・・・」

 私はアレックスをキッと睨んでから、

「それ以上言うと、殴るわよ?」

 そう言って、拳を固めて見せると、アレックスは傾げるように頭を下げた。

「どーも、すみません」

「まったくもう。男って、しょうもないわね」

「その通り!俺も王子もしょうもない!」

「開き直らないで!レオンハルト殿下を一緒にしないの!」

「えー、王子はしょうもないでしょ。あの王子、多分、昔からカサンドラちゃんのことを好きなんだと思うよ?なのに、他の女を好きだと思い込むなんて、おかしいでしょ」

「は?昔から?どうして、分かるの?」

「愛称呼びがどうとか言ってただろう?」

「え?ええ」

「王子はカサンドラちゃんのこと、『キャス』って、呼んでるけど、護衛もシュナイダー・グラントも『カサンドラ様』と呼んでる。同じくらい付き合いが長いはずだし、カサンドラちゃんは『キャス』と呼んで欲しいみたいなのに、二人は呼ばない。王子が呼ばせないようにしたんだよ。王子が執着して、独占欲をあらわにしていたある方はカサンドラちゃんのことだよ」

「!」

 ・・・そう言えば、ルークが私を『メグさん』と呼んでいることに気付いたキャスがルークに『そろそろキャスと呼んで下さい』って、お願いしたのに、ルークはえらく慌てて、『カサンドラ様は永久にカサンドラ様です!』なんて、意味の分からないことを言って、結局、そのままになっているわ。ルークはレオンハルト殿下に忠実な人だから、いまだに守り続けているのよ。


 ああ。私ったら、こんなことにも気付かないなんて・・・。

 私が一人落ち込んでいると、

「王子は愛称呼びにこだわりがあるみたいだけど、ローズマリー・ヒューバートは愛称呼びしてないよなあ・・・『レオ様』って、呼ぶのもカサンドラちゃんと何故か弟くんだけだし、あ!愛称呼びしたいのもされたいのもカサンドラちゃんだけって、思ってたりして。うわ。もし、そうだったら、王子って、重っ!怖っ!」

 アレックスは身震いしました。 

「・・・」

 その通りなのかもしれない。レオンハルト殿下は本当にキャスが好きなのよ。自覚はないけれど、キャスへの思いはとっても強いんだわ。


「で、どうする?」

 と、アレックスが言いました。

「え?何が?」

 私がきょとんとすると、アレックスは眉をしかめましたが、

「カサンドラちゃんも人の心が自分が思い描いた通りに動くものじゃないってことを、そろそろ知っておかないとね。弟くんに面倒事を押し付けられたと思わずにカサンドラちゃんにそれを教えてあげなよ。特にカサンドラちゃんには強い固定観念があるみたいだしね。王子様は必ずしも理想のお姫様と結ばれるわけじゃないって、教えてあげたら?」

「・・・そうね」

 私は頷きましたが、「ただ、私はレオンハルト殿下の応援をするつもりなんてありませんからね。キャスがローズマリーさんに対して、余計なことをしないようにするためよ。ただ、それだけよ。レオンハルト殿下は嫉妬したからって、言っていいことと悪いことがあるわよ。キャスは色々酷いけれど、そこまで言われるほどではないわ。はっきり言って、邪魔してやりたいくらいよ」

 アレックスはにやにやして、

「メグは友情に厚いなー。カサンドラちゃんが大好きなんだねー」

「そっ、そんなんじゃないわよ!」

「はいはい」

「まあ、一つくらい固定観念を除いてあげてもいいかもね。もう一つ新たな固定観念が植え付けられたようだし」

「?どういう意味?」

「ローズマリーさんと違って、キャスには何の魅力もない。・・・これよ。これで、キャスはレオンハルト殿下に好きだと言われても簡単には信じないと思うわよ?キャスはレオンハルト殿下に謝られたら、許すでしょうし、『気にしてない』とか、言うでしょうけど、頭の中にはずっとその言葉が残るはずよ。・・・キャスは自分に自信のない子だから、絶対言ってはいけない言葉だったのよ」

 私はそこまで言ってから、公爵令嬢としては褒められた振舞いではないけれど、ついつい鼻で笑ってしまうと、「まあ、いい気味よ。自業自得だわ」

「いい性格してるね。まあ、俺も王子があの胸を独り占めするのは許せないしね」

「品のないことを言わないで!」

 と、私は怒りましたが、アレックスはいつもと違って、笑うことなく、

「まあ、新たな固定観念は王子自身がどうにかするべきだよね。・・・どうなるんだろうね。カサンドラちゃんも王子も」

「・・・?」

 ・・・心配してる?アレックスは基本、他人に興味がない人だと思ってたけど(綺麗な女性以外は)。

 そう言えば、どうして、アレックスはここまで色んなことが分かるのかしら?と、私はふと思いました。

 ・・・まるでキャスのことを良く見てるみたいじゃない?


「・・・ねえ。アレックスはキャスのことどう思ってるの?」

「・・・は?」

 ・・・ほんの一瞬だったけれど、固まったわよね?アレックスにしては珍しいことだわ。

「意味が分からないなんて言わないでね」

 すると、アレックスは笑いながら、肩をすくめると、

「勘弁してよ。王子に好かれてるだけじゃなくて、姉離れが出来ない弟くんと恐ろしい父親がいる子なんて、冗談じゃないよ」

「?・・・アレックス、カーライル公爵様を知ってるの?」

 アレックスのお父様は何故か反五大公爵派の議員だから、私はアレックスの前でカーライル公爵様の話をしたことはないのよね。

「いや、カーライル公爵が娘を溺愛しているのなんて、有名な話だろう?」

「まあ、そうよね」

「さて、遅くなったし、帰るか。じゃあね」

「あ、ええ。またね」

 逃げた?らしくないわね。・・・納得は出来ないけれど、アレックスが本心を話すわけがないわね。「アレックス。ありがとう」

 と、私が声を掛けると、アレックスは振り返ることなく、手を振りました。

 ・・・メグが素直にお礼を言うなんて。と、からかわれるかと思ったのに。これも、らしくないわね。



「メグー。お茶会、なくなっちゃいましたねー」

 夕食の時間が来ましたので、キャスと食堂に向かっています。

「そうね。残念ね」

 私は素知らぬ顔で答えました。

「ダンズレイ公爵様に急な仕事が入ったって、リバーが言ってました。五大公爵様方は忙し過ぎます。前から思ってましたが、働き過ぎなんですよー」

 キャスはむくれています。

「そうね」

「まあ、ちょっと延びただけですよね」

「ねえ。キャス?」

「はい?」

「貴女、昨日、レオンハルト殿下に何か酷いことを言われたんじゃない?」

「え・・・」

「貴女、怒ってないの?・・・嫌いにならないの?」

 すると、キャスはにっこり笑って、

「私がレオ様を嫌いになることなんてありませんよ!生涯の友ですからね!」

「そう・・・お人好しね」

 ・・・私だったら、許さないけど。

 あんなことを言われても、許せてしまうのは、キャスもレオンハルト殿下に対して、愛情に近い思いがあるからではないのかしら?


 それにしても、キャスの固定観念をどうやって、取り除けばいいのかしらね。

 とりあえず、キャスが余計なことをしたり、言わないように監視しなきゃ。

 


 ですが、私がレオンハルト殿下の味方になることは絶対にありませんので、あしからず。





 いきなり現れ、何かと活躍してもらったアレックスですが、1年生時の出番は今回で、終了となります。


 2年生で、ある主要キャラと同じクラスになりますので、その時に再登場します。


 アレックスがキャスをどう思っているかについては、最後まで謎のままにしておきたいと思います。



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