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恐ろしい二人(メグ視点)

 お茶会、2日前の放課後。

 教室に私が忘れ物を取りに行くと、ローズマリーさんが一人でいました。

「あら。ローズマリーさん、帰らないの?」

「あ、マーガレット様。レオンハルト様を待ってるんです」

「そう」

 相変わらず、お熱いわね。と、私は思ったけれど、こういうことは婚約が決まってから、言ってあげましょうね。


「いよいよ明後日ね」

 と、私が言うと、ローズマリーさんはごくりと息を呑んで、

「もう今から、緊張してます・・・」

 そうでしょうね。レオンハルト殿下と親しくしていると言っても、シーア様は王女様ですし、ダンズレイ公爵様は五大公爵の一人ですし、サラ様は本当なら王妃になるはずだった方ですものね。緊張して、当然よね。私も迂闊なことは言えないわ。

「準備は万端じゃないの。きっと、大丈夫よ」

 と、私は励ますように言いました。絶対とは言えません。世の中、絶対大丈夫だなんてことはないのだから。


 それから、ローズマリーさんと恋愛小説の話で盛り上がっていると、

「レオンハルト様」

 レオンハルト殿下が現れました。

 私はお辞儀をしましたが、

「・・・?」

 何だか思い詰めたような顔をしているようだけど・・・?

 レオンハルト殿下はローズマリーさんの前まで大股で歩いて来ると、

「申し訳ない!」

 と、言って、頭を下げました。

 私もローズマリーさんも驚きます。

 レオンハルト殿下は頭を下げたまま、

「茶会はやめることにした。本当に申し訳ない」

「やめる・・・」

 ローズマリーさんは呟くように言いました。聞こえていたでしょうが、多分、思わず、口から出てしまったのでしょう。

「ローズマリーを兄上や妹に会わせると言うことは、私とローズマリーが親密な関係だと皆に思わせることになる」

「?」

 ・・・え?別にいいじゃないの。結婚を申し込むのでしょう?


「・・・友人を兄上たちに会わせるくらいなのだからと、軽い気持ちで茶会のことを了承してしまった。全て私に非がある。本当に申し訳ないっ」

 ローズマリーさんはしばし呆然としていましたが、レオンハルト殿下が更に深く頭を下げたことに気付いて、慌てると、

「レオンハルト様。頭を上げてください。困ります!」

 それでも、レオンハルト殿下は頭を上げず、

「本当にすまない。頑張って、準備してくれたのに、無駄になってしまった」

「そんなに気になさらないで下さい。2日前ですし、すぐに叔母に知らせますから」

 レオンハルト殿下はそこで顔を上げると、

「叔母上には菓子を王城へ送ってもらえるよう伝えてくれないか」

「お、王城ですか?!」

「ああ。せめて、菓子を妹や姉上たちに食べてもらうようにするから」

「そうですか・・・。そうしていただけたら、叔母たちも喜ぶと思います。お気遣いして下さって、ありがとうございます」

 レオンハルト殿下は首を振って、

「礼を言う必要などない。ローズマリー。本当にすまなかった」

 ローズマリーさんは微笑んで、

「残念ですけれど、私、緊張のあまり、おかしくなりそうだったんです。助かったと思うようにしますから。ですから、そんなにお気になさらないで下さい」

「・・・ありがとう」

 思い詰めたような顔をしていたレオンハルト殿下がほんの少し表情を緩めました。


「・・・」

 中止だなんて・・・ローズマリーさん、あんなに頑張ってたのに。ただ、助かったというのも本音かもしれないけれど。

 そう言えば、レオンハルト殿下はお兄様の婚約者のサラ様のことをもう『姉上』と呼んでらっしゃるのね。何だかいいわね。

 い、いえ、そんなことはどうでもいいわね。と、私が思いつつ、何となく、教室のドアの方へ目を向けると、リバー様がゆっくりと音を立てないよう、ドアを閉めるところでした。

 リバー様の隣にはシュナイダー様もいます。

 あら?お二人、今、頷き合ったわね。何だか意味深ね。

 ・・・お茶会の中止のこと、レオンハルト殿下は最初にお二人に話したのかしら?



 私はレオンハルト殿下とローズマリーさんのお邪魔だろうと思い、一人教室を出て、キャスとルークがいる図書室に向かおうとしていると、

「ローズさんには可哀相なことをしましたね」

「良く言うよ。この作戦を言い出したのはシュナイダーだろう」

 シュナイダー様とリバー様の声が聞こえて来ました。

「?」

 どういう意味?

 私が声のする方に近付くと、リバー様とシュナイダー様が窓際に立っていました。

「まあ、2日前とは言え、自分から中止を言い出してくれて、良かったよ」

「そうですね」

「ダンズレイ公爵様は残念かもね。たまには兄らしいことをしたい。って、張り切ってたからね」

「ですが、ローズさんが殿下のご兄妹に会わずに済んだことが一番ですよ」

「そうだね。サラ様やアナスタシア殿下と親しくなれば、辛いのはローズだからね」

 そんなお二人の話を私は聞いていましたが、意味が分かりません。お茶会が中止になって、まるで喜んでいるみたい。何故かしら?

 私が首を傾げていると、

「・・・ところで、そこにいるのはメグさんかな?」

 と、リバー様がいきなりこちらに顔を向けました。


「?!」

 私は飛び上がりそうになるくらい驚きました。驚き過ぎて、声が出なかったのは幸いです。レディらしからぬ、声を上げていたかもしれませんからね。

 そんなことより、どうして、私がいると分かったのかしら?

 私がそろーっと、角から出て行くと、

「レディが盗み聞きとは感心しないな」

 と、リバー様が笑顔でそう言いました。

 ・・・その嘘っぽい笑顔は何かしら?

 それより、盗み聞きなんて。と、腹立たしく思った私が、

「人に聞かれるような場所でお話されてる方が悪いのではないかしら?」

 と、言い返すと、リバー様とシュナイダー様が笑いました。まあ!シュナイダー様が笑ったわ!珍しい!


 私とリバー様、シュナイダー様の3人は食堂に移動し、お茶をいただきながら、お話をすることになりました。

「えっ!」

 私は思わず、声を上げてしまうと、

「「静かに」」

 と、リバー様とシュナイダー様が同時に言いました。

 まばらですが、他の生徒もお茶をしています。

「も、申し訳ありません」

 私はお二人に詫びると、「では、ローズマリーさんに正式に結婚を申し込むと言ったレオンハルト殿下を止めるためにご兄妹に会わせる計画を立てたと言うことですか?」

 リバー様とシュナイダー様はまた同時に頷きます。・・・双子じゃないのに、息がぴったりね。


 私はそんなことを思っていましたが、ハッとして、

「で、ですが、リバー様もシュナイダー様もダンズレイ公爵様が国王陛下はレオンハルト殿下がキャスを選ぶのは歓迎しないけれど、ローズマリーさんなら喜ぶとおっしゃっていたと、キャスやルークに言いましたよね?それは嘘なんですか?」

 リバー様は首を振って、

「いや、僕もシュナイダーもキャスとルークに聞かれたことには正直に答えたつもりだよ。大きな嘘はつくけど、小さな嘘はつかない。って、感じかな。あははっ」

 ・・・笑い事じゃないわよ!二人共、信じ込んでたじゃないの!私もですけどね!


 私は憤慨しましたが、怒っても無駄でしょうから、色々と聞くことにして、

「では、最初から、お二人はレオンハルト殿下とローズマリーさんの婚約には反対だったんですね」

「最初からと言うと、違うな。僕たちはキャスから、レオ様がローズを妃にするつもりだと聞いたから、あれこれ世話を焼いたわけだからね。・・・時間の無駄だったけどね。全く、僕たちも暇じゃないのにね」

 リバー様はそう言って、大仰に肩をすくめて見せます。

 シュナイダー様は全くだと言うように頷きました。


「そう言えば、リバー様は『どういうわけか』、ダンズレイ公爵様がローズマリーさんのことを知ったとキャスに言っていたようですけど、お二人がダンズレイ公爵様に知らせたのではないのですか?」

 と、私は言いました。何となく気になっていたんです。

 キャスは『レオ様のお兄様は弟大好きさんだから、ピーンと来たんだと思います!』なんて、お馬鹿なことを言ってたけど、そんなわけないでしょう?誰かが教えたに決まってるもの。

 リバー様はシュナイダー様と顔を見合わせてから、苦笑いすると、

「そう。僕とシュナイダーで王城へ赴き、ダンズレイ公爵様にローズのことを話したんだ。レオ様にローズとの結婚を考え直してもらうための協力をしてもらおうと思ってね。レオ様はああ見えて兄君が大好きな人だし、更に負い目があるから、それを利用することにしたんだ」

「負い目・・・」

 ・・・王位継承権の放棄を迫ったからかしら?

「それに、レオ様は義理の姉になるサラ様に対しても、負い目があるんだよね。加えて、レオ様にしては珍しいことなんだけど、サラ様を尊敬してたりするんだ。だから、その2人から、話をしてもらえたら、レオ様も冷静になって、考え直すはずだと僕たちは考えたんだ。まあ、ともかく、ダンズレイ公爵様やサラ様の手を煩わせずに済んで、良かったよ」

 ・・・話は分かったけれど、おかしくないかしら?

「そんな回りくどいことをしなくてもお二人が直接レオンハルト殿下に意見すれば良かったのでは?子爵令嬢との結婚はやめておけって」

 と、私が言うと、リバー様は首を傾げて、

「いや、僕たちはローズが子爵令嬢だから反対してるわけじゃないよ。それに、ローズに問題があるわけじゃなく、問題はレオ様なんだから」

「は?」

「レオ様は何故かローズを好きだと思い込んでいて、ローズのことになると耳を貸さないんだ。他のことなら、僕たちの意見をちゃんと聞いてくれるのに、ローズのことになると、途端に意固地になる。・・・僕たちはレオ様の家族にローズを会わせることで、ローズとの将来が現実的になるのだとレオ様に分からせたかったんだよ。レオ様は現実から目を反らしている気がしてね。本当は、お茶会の話自体を断ってくれることを期待していたんだけど、甘かったね。僕たちの主君はなかなか強情だったよ」

 リバー様はそう言って、また肩をすくめました。

「・・・?」

 あら?リバー様、おかしなことを言わなかった?『ローズを好きだと思い込んでいる』??どういうこと???

「あ、あの、私、聞き間違いをしたようなんですけど、リバー様、今、レオンハルト殿下がローズマリーさんを好きだと思い込んでいるって、おっしゃいました?」

 と、私が聞くと、

「ええ。聞き間違いではありませんよ。殿下はローズさんのことを女性として、好きなわけではありません。どこまでいっても、好意でしかないでしょう。だから、私たちは殿下を止めることに決めたんですよ」

 と、シュナイダー様が答えました。

 私、当たり前のことではないですか。と、言われているような気がするのだけど、そうなの?常識なの?私の認識が間違っていたの?


 私がぽかんとしてると、

「もしかして、メグさんもキャスに洗脳されちゃってる?ルークもお二人は好き合ってます!って、言い張って、大変だったんだよ。こうなったのも、キャスのせいだよね。・・・全く。この件に限って言えば、キャスは僕たちにとって、邪魔な存在でしかないな。キャスの頭の中は一体どうなってんだか」

 と、リバー様が忌ま忌ましげに言うと、

「本当に。一度、カサンドラ様の頭をかち割って、覗いてみたいですよ」

 と、シュナイダー様は言うと、くくっと、含み笑いをしました。

「それ、いいね!双子なのに、キャスの考えてることがさっぱり分からなくなっちゃったからね!」

 リバー様は大笑いしました。



 このお二人、とっても怖いんですけど?!



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