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何なの?!(メグ視点)

 リバー様がキャスを貶すような発言をし、ローズマリーさんにまるで恋しているかのような熱っぽい目をしていることに戸惑っていた私ですが、ルークもシュナイダー様もこれと言って、何の反応もしません。

 ローズマリーさんは顔を赤らめるわけでもなく、何事もなかったかのように、

「マーガレット様もそうですが、やっぱり、金色の髪って、美しいですよね。私、本当に憧れます。黒髪なんて、重苦しいだけですもの」

 と、悲しげに溜め息をついたので、

「そんなこ」

 と、私が言いかけると、

「そんなことありませんよ。とても艶やかで絹のように美しい髪ではありませんか。その瞳も聡明さを感じさせますよね」

 シュナイダー様はうっとりとしています(多分)。はあっ?!

 

 これにはローズマリーさんも唖然として、言葉を失いました。

「シュナイダー、一体、どうしたんだ?」

 さすがのレオンハルト殿下も驚いている様子です。

 シュナイダー様はローズマリーさんに目を向けたまま、

「私だって、美しい物はちゃんと褒めますよ」

 ちょっと、ちょっと!レオンハルト殿下の方を見ましょうよ!


 ローズマリーさんは居心地が悪くなったのか、

「り、リバー様、早速、食器等を見せていただきたいのですが」

 すっかり困惑してしまっているようです。

「ああ。そうだね。じゃあ、行こうか」

 リバー様が先に歩き始めて、ローズマリーさんがついて行くと、その後をシュナイダー様とルークまでついて行きます。

 ・・・そんなに必要かしら?ルークなんか行ったって、役に立たないでしょうに。なんて、私が思っていると、

「あ、あの、ローズさんって、呼んでいいですか?」

 と、ルークが遠慮がちに言いました。・・・はい?

「はい。もちろんです」

「良かった!では、ローズさんはルークと呼んで下さいね!」

「で、ですが・・・」

「お願いします!」

「は、はい。分かりました。ルークさん」

「ありがとうございます!ローズさん!」

 ルークの嬉しそうな声が廊下に響きました。


「・・・」

 一体、何なの?

 ルークったら、ローズマリーさんに対して、ちょっと馴れ馴れしいんじゃないかしら?

 いえ、普通の方ならそこまで思わないんですよ。私はアレックスのような遊び人を知っていますからね。あの馴れ馴れしさは、ある意味尊敬するくらいですからね。

 ですが、ルークはキャスが言うところの『レオ様馬鹿』ですから、そのレオンハルト殿下の想い人であるローズマリーさんのことを『ローズさん』と呼ぶことを恐れ多いと思いそうな人なのに、一体どうしちゃったのかしら?

 

 私はそんなことを考えていたけれど、ハッとしました。

 今、リビングルームには私とレオンハルト殿下しかいません!さすがに二人きりは気まずいわよね?!

 わ、私も台所に行きましょう!

 私はそそくさとリビングルームから出ようとしましたが、やはり一声掛けた方がいいかしらと思い直し、振り返りました。

 すると、レオンハルト殿下はキャスとリバー様の絵をまだ見ていました。何だか熱心に見てるようだけど・・・?5歳からの付き合いなのに、何が珍しいのかしら?

 ・・・でも、何だかとても優しい表情をされているわね。そっとしておいた方がいいみたい。


 私が台所に入ると、ルークとローズマリーさんしかいませんでした。

「リバー様とシュナイダー様は?」

「広間と控室として使う部屋の窓を開けに行きました」

 と、ルークが答えました。

「そう」

 3人して、ローズマリーさんにくっついているのかと思ってたけど、安心したわ。

「食器があり過ぎて、悩みますね」

 ローズマリーさんが溜め息をついてから、「それにしても、こんな立派なお屋敷があまり使われないなんてもったいないですね」

「公爵家ともなると、一応、王都に屋敷を構えないといけませんからね。カーライル公爵家の当主は一度も愛人を囲ったことがないから、別宅が使われないとも言われていますが」

 と、ルークが言って、ローズマリーさんが真っ赤になります。

「ルーク!レディの前で何てことを言うの?!」

 と、私が怒ると、ルークはひいっ!と、のけ反りましたが、

「い、いやー、一度好きになると一途な家系なんですよー。と、言いたかっただけですよー。あははー」

「笑い事ではありません!紳士として、どうかと思うのだけど?!」

「す、すみません」

 ルークは頭を下げました。

「全くもう」

 私はむくれましたが・・・「・・・」 

 カーライル公爵家は一度好きになると一途な家系・・・。

 確か、リリアーナ様と思いを寄せ合っていたカーライル公爵様もリリアーナ様がフェリクス様と結婚してしまった後も、思い続けていたようなんですよね。しつこ・・・い、いえ、一途だったんですね。まあ、アレックスのように移り気な男よりましですよね。

 でも、そんなアレックスも、キャスに対しての態度が今までの女性とはちょっと違うような気がするのだけど、気のせいかしら?本気になったなんてことないでしょうね?・・・まさかね。


 私はふとローズマリーさんの黒髪を見ました。

 そう言えば、ローズマリーさんはリリアーナ様と同じ容姿だけど、リバー様も当時のカーライル公爵様と同じ金色の髪に青い瞳なのよね。

 なら、ローズマリーさんとリバー様が結ばれたら、長い時を経て、リリアーナ様とカーライル公爵様が結ばれるってことになるんじゃないかしら。・・・あら、素敵ね。

 私、つい、にやりとしてしまいましたが、我に返ります。

 ああ。私ったら、またやってしまったわ。

 恋愛の要素が目の前に転がっていたら、すぐに拾って、恋愛小説の世界と繋げたくなってしまうんです。それで、しょっちゅうキャスやルークに呆れられてしまいますから、気をつけないと。

 ですが、物語の世界は夢や希望、そして、愛に溢れているでしょう?だから、私は憧れてしまうんです。

 ・・・だって、現実なんて、虚しいものでしかないんですもの。特に私とお母様にとっては。


 私がキャスに協力しようと思ったのも、レオンハルト殿下とローズマリーさんが身分違いの愛を成就させることが出来たら、現実も捨てたものではないと思えるはずだと思ったからです。

 私はキャスやルークと違って、お二人の幸せを純粋に願っているわけではありません。

 ・・・ただ、自分が満足したいだけなんだと思います。


「マーガレット様。見て下さい」

 と、声がしたので、私はハッとすると、ローズマリーさんの方を見ました。

「素敵だと思いません?」

 ローズマリーさんはマーガレットの花が描かれたカップと皿を私に見せながら言いました。

「ええ。可愛らしい食器ね」

「食器はこれにします」

 ローズマリーさんは満足げに言いました。

「これをですか?」

「はい。実は部屋に飾るお花はアナスタシア殿下とサラ様の好きなピンク色と黄色でまとめようかと思っているのですが、何かマーガレット様の好みの物も取り入れたいと思っていたんです。それで、このノートに」

 ローズマリーさんは水色のノートを手に取って、「マーガレット様は小物には必ずマーガレットの花の刺繍をしていると書いてあったものですから」

「まあ・・・」

 キャスったら、良く見てるのね。ぼうっとした子だと思っていたのに。「花を刺繍するのも、名前自体も私には似合わないんだけど、マーガレットは私の亡くなった父がつけてくれた名前だから、特別なんです」

「似合わないなんて、そんなことありませんよ。マーガレット様にぴったりの素敵なお名前ですよ。きっと、お父様も素敵な方だったんでしょうね」

「・・・ええ」

 ・・・5歳の頃に父は亡くなりましたが、父のことは良く覚えています。父の穏やかな笑顔がとても好きでした。

 父はほとんど家にいたはずなのに、日中、顔を合わせることはありませんでした。母は大事なお仕事をしてるとしか言いませんでしたし、今は父に代わって、セントクロフト伯爵家を継いだアレックスのお父様も多忙なようですが、何をされているかは分かりません。

 ・・・あの家は何か裏があるような気がするのだけど、気のせいかしら?


「マーガレット様?」

 気付けば、ローズマリーさんが心配そうに私を見ていました。

 いけない。今日はぼんやりしっぱなしだわ。

「ごめんなさい。つい考え事をしてしまって」

「私がお父様のことを言ったからでは・・・」

「そんなことはないわ。その食器を使うのでしたら、人数分あるか数えましょうか。あ、スプーンはどんなものがあるんでしょうね。探しましょうか」

「あ、いえ、申し訳ないですよ」

「これくらいのお手伝いはさせてください。当日も何かあったら、遠慮なく言って下さいね」

「アナスタシア殿下と親しくされているんですよね。あまり頻繁にお会い出来ないでしょうから、私のことは気にせず、お茶会を楽しんで下さい。マーガレット様はお客様なんですから」

 ローズマリーさんはそう言って、にっこり笑いました。

 私も笑みを見せると、

「ありがとうございます。お茶会、きっと、上手くいきますよ」

「はい。頑張ります」

 ・・・お茶会が上手くいけば、レオンハルト殿下も正式に結婚を申し込むはずよね。

 ローズマリーさんの頑張りが報われたら良いのだけど。



 その後、お茶会の会場となる広間のテーブルと椅子をローズマリーさんの指示で男性陣が移動させたり、花瓶を運び込んだり、広間にも控室として使う部屋にまで、キャスとリバー様の絵があったので、『ほんと勘弁してよ』と、リバー様がうんざりしながら、絵を全て撤去したりと、忙しく動きました。

 今日、準備出来ることが全て終わり、皆がリビングルームに戻ると、

「後は帰るだけになりますが、お茶とお菓子を用意していますから、一休みしましょう」

 ローズマリーさんがバスケットを持って来ながら、言いました。あら。いつの間に。


 すると、

「僕が」

「私が」

「自分が」

 リバー様、シュナイダー様、ルークの3人が我先にとバスケットを持ってあげようとローズマリーさんの元へと行こうとしましす。

 ですが、

「大丈夫です!」

 ローズマリーさんは急いで、テーブルの上にバスケットを置きました。

 3人が眉をしかめます。

 ・・・いい気味だわ。と、私が思っていると、 

「皆、今日は変だな」

 と、レオンハルト殿下が言いました。


 変?!変どころじゃないでしょう?!この3人、明らかにローズマリーさんに気があるじゃないの!貴方、鈍いんじゃないの?!目はついてるの?!

 ・・・と、私は言ってやりたいのを必死に堪えると(レディですし、おまけに王子様相手にそんなことは言えません)、

「お、お菓子は何かしら。御祖母様とお母様のお手製かしら。あのチョコレートタルトを食べて以来、すっかりファンになってしまったのよ!」

 と、無理に明るく言いました。つ、疲れる!

「ありがとうございます」

 ローズマリーさんは頭を下げましたが、「ですが、すみません。このお菓子は叔母の嫁ぎ先のスイーツのお店の物なんです。当日のお菓子もお願いしてるんです」

「そうなんですか。楽しみね」

 と、私は言いつつ、しまりのない顔をしているルークに鋭い視線を送りました。

 ルークはそれに気付かず、

「是非、お店を教えて下さい!母に美味しいと広めてもらえば、繁盛間違いなしですよ!お任せ下さい!」

「まあ、ありがとうございます」

「・・・」

 ルークのお母様って、何者よ。キャスはとんでもなく顔が広い方ですよ。と、言ってましたけどね。

 それにしても、ルークったら、でれでれしちゃって。キャスに言い付けてやるわ!


 それから、ローズマリーさんはしつこく手伝いを申し出たシュナイダー様に渋々手伝ってもらい、お茶とお菓子の用意を終え、椅子に座ろうとすると、

「どうぞ」

 リバー様がすかさず椅子を引きました。いつの間にローズマリーさんの背後にいたのかしら?

「ありがとうございます」

 ローズマリーさんが椅子に座ったかと思いきや、リバー様が背を屈めて、ローズマリーさんの耳元で何やら囁きました!きゃーっ!近すぎないっ?!

 私は驚愕していましたが、

「・・・そうですね。気をつけます」

 ローズマリーさんはうろたえることも赤らめることもなく、小声で答えました。

 あんな耳元で囁かれたら、リバー様の派閥の方は、皆、気絶するんじゃないかしら?私だって、赤くなるかもしれないわ。

 リバー様は素知らぬ顔で、椅子に座ると、

「レオ様。皆様、喜んでくれると思いますよ。完璧に準備出来ましたからね」

「そうだな」

 レオンハルト殿下は頷いてから、「ローズマリー、本当に良く頑張ってくれて、ありがとう。当日も頼む」

 と、ローズマリーさんに向かって言うと、

「ありがとうございます。頑張ります」

 ローズマリーさんは笑顔になって言いました。頬はピンク色に染まり、瞳はキラキラと輝いています。

 ・・・3人にちやほやされても、心が動いた様子なんて全くなかったのに、レオンハルト殿下の一言だけで、こんなに華やいだ表情になるのだから、レオンハルト殿下しか目に入らないのね。恋って、凄いのね。・・・私には一生縁がないでしょうけど。


 お茶の間、ルークがローズマリーさんを持ち上げるようなことばかり言って、頭に来るったらなかったわ。シュナイダー様も大袈裟に同意するのよ?!何なの?!

 おまけにリバー様はキャスを小馬鹿にするようなことをまた言うしっ!

 そうしたら、ローズマリーさんが、『あんなにお綺麗で優しいお姉様に対して、あまりに酷くないですか?』と、リバー様にきつい口調で言うものだから、驚いたわね。

 でも、『姉を貶すのも、僕だけの特権だし』なんて、リバー様は堂々と言ってのけたものだから、ローズマリーさんも私も言葉を失ったわ。

 そう言えば、花瓶の配置のことで、二人は言い争ってたわね。はっきり言って、大した違いじゃないと私は思ったけれど、二人共、真剣そのものだったから、私たちは口を出せなかったわね。ローズマリーさんはリバー様相手だとぽんぽん言い返すのよね。



 お茶を終え、それぞれで戸締まりを確認してから、やっと!カーライル公爵家の別宅を後にすることが出来ました!本当に疲れました!これって、気疲れよね?!


 ローズマリーさんに色々聞きたかったのだけど、結局、私もローズマリーさんも馬車に乗って、そう時間が経たないうちに眠ってしまいました。



「メグ!お帰りなさい!どうでした?!」

 寮の部屋にやっと帰って来たかと思ったら、キャスがやって来ました。

「・・・元気ね。キャスは何をしてたの?」

「図書室でアーロンとずーっとお喋りしてました!もちろん、話題は歴史です!それしかないの?なんて、言わないでくださいね!」

 キャスはご機嫌のようです。

「・・・」

 私、何だか無性にほっぺをつねってやりたくなったけど、堪えました。

 そんな私を見ていたキャスは首を傾げて、

「メグ?疲れてます?キャラメル食べますか?今日はチョコレート味を持って来ましたよ?」

 ・・・あら。新味ね。ちなみにキャラメルは王都で飛ぶように売れているそうです。カーライル公爵様は商才もあるようですね。さすがですね。

「ええ。いただくわ。お茶も淹れてちょうだい。火事に気をつけてね。爆発させないでね」

「はい!気をつけます!確認は怠りませんよ!一に確認、二に確認、三四がなくて、五に確認です!」

 そう言って、キャスは意気揚々とキッチンに向かいました。・・・大袈裟なのよ。


 今日は本当に疲れたのよ。

 貴女の弟さんが、貴女を貶すし、ローズマリーさんを熱っぽい目で見るし、異常に接近するし!

 ルークも『ローズさん』って呼んじゃうし、いちいち持ち上げることばっかり言うし!

 シュナイダー様も『美しい物は褒めますよ』なんて言うし、うっとりして(多分)、ローズマリーさんを見るし!

 皆して、ローズマリーさんをちやほやするのよ?!おまけにレオンハルト殿下の前でよ?!おっかしいと思わない?!


「お茶会は成功すると思うわよ」

 私はお茶を一口飲んでから言いました。

 ・・・うん。キャスもお茶が上手に淹れられるようになったわね。私の特訓のお陰ね。そうだわ。次は刺繍を教えましょう。

「そうですか!良かった!」

 キャスは満面の笑顔です。


 ・・・結局、キャスには何も話せませんでした。


 だって!


 私だって、何が何だか分からないのよー!!


 ほんっとうに何なの?!!



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