メグ、怒る
いきなりですが、今回の課外授業はダンスです!
現在、私たちはレオ様とローズマリー様のダンスを見学中です。
ダンスの先生がお二人に見本を見せてあげて下さい。と、頼んだんです。
「はぁ・・・」
もう溜め息が出るくらいうっとりしますよ!
お二人とも、息がピッタリで、流れるように優雅に踊っています。
ローズマリー様はダンスが得意なんですね。ステップは軽やか。一つ一つの動きに全く無駄がなく、指先まで意識して踊っているようです。ですから、ローズマリー様のダンスはとても美しいのですね。
レオ様はそもそも運動神経が抜群ですから、踊れるだろうとは思っていましたが、上手過ぎて、びっくりしました!さすが、王子様ですね!
レオ様はローズマリー様を上手くリードしつつも、ローズマリー様を美しく見せることを一番に考えているようです。
そうかー、レオ様と踊っているから、ローズマリー様は更に美しく見えるのですね。
お二人のダンスが終わって、舞踏場には割れんばかりの拍手が起こりました。
皆さん、うっとりしてましたよ!レオ様とローズマリー様がお似合いだと言うことは皆さん、嫌って言うくらい、分かったでしょうね!
て言うか、レオ様もローズマリー様も息一つ上がってませんよ。ここまで完璧過ぎると、若干、イラッとします。
その後、私はパートナーのルークと踊っていましたが、
「あっ!」
ルークは私の足を踏み、
「ん?!」
私はルークの爪先をこーんと蹴り、
「あれ?!」
ついには音楽と全く合わせることが出来なくなりました!
私とルークが踊るのをやめ、お互い首を傾げていますと、
「シャウスウッド君、ロクサーヌさん。他のペアの邪魔ですよ」
と、ダンスの先生に注意されました。
「「す、すみません」」
私とルークは隅っこに移動します。
すると、先生も首を傾げながら、
「おかしいわね。2人共、振りはちゃんと頭に入っているようだし、ステップもおかしくないのに・・・全く合わないわねえ」
「「はあ・・・」」
レオ様とローズマリー様と違って、私とルークは大して踊っていないのに、異常に疲れています!
「そうだわ」
と、先生はポンと手を打って、「試しに上手な人と踊ってみたらいいと思うわ。レイバーン君!ヒューバートさん!」
レオ様とローズマリー様を呼びました。げっ!
レオ様とローズマリー様がこちらを見ます。
「申し訳ないけど、この二人とペアを交換してくれないかしら。もちろん、ずっとでは・・・」
と、先生は言いかけましたが、その前に、
「嫌です!」
私は手を挙げますと、
「私、ルークでないとダメなんです!私、ルークでないと、ダメな体なんです!」
レオ様とローズマリー様の邪魔をしてはなりません!
「自分もです!」
ルークも手を挙げますと、「カサンドラ様の専属騎士である自分は何があっても、カサンドラ様から離れません!」
私とルークは必死に訴えました。
先生はもちろん、他の生徒の皆様も唖然としています。ん?
先生は溜め息をつきますと、
「分かりました。そんなにお互いがいいなら、無理に引き離すわけにはいきませんね」
良かったです!
私とルークは満面の笑みになりましたが、
「ですが、このままでは合格点はあげられませんよ」
「「?!」」
何ですと?!
「それから、ロクサーヌさん」
「はい?」
「仲がいいのは結構だけど、もっと良く考えてから、発言をしましょうね」
先生はそう言いますと、パンと手を叩いて、「皆さんー、再開して下さーい」
皆様、ダンスを再開します。
私もルークと向き合って、
「ねえ。もっと良く考えてから、発言を・・・とかって、先生が言ってたけど、どういう意味かしらかね」
「さあ・・・」
ルークも首を傾げます。
私も首を傾げていましたが、ふとレオ様がこちらを見ていることに気付きました。
私、カサンドラ・ロクサーヌ、レオ様とローズマリー様の邪魔をしないよう頑張りましたよ!と、言うように、私は笑顔を見せましたが、レオ様は思いっ切り無視しました。あれ?
課外授業の時間が終わり、私とルークは本当に大して踊ってもいないのに、へとへとになって椅子に座っていましたが、
「ちょっとー!!」
メグが凄い勢いで歩いて来ますと、「そこのへっぽこコンビー!何やってんのー!」
形相も凄いです!ひぃっ!
私とルークは怯えますと、慌てて立ち上がり、お互いを前に押しやっていましたが、
「な、何ですか?」
と、結局、私が聞きました。すると、メグが目を吊り上げて、
「何ですか?はあ?私が怒っている理由が分からないの?あなたたち、お馬鹿さんなの?あなたたち、考える頭はないの?あー!全くもうっ!呆れて物が言えないわよ!」
「言ってますよ?」
と、ルークが言いますと、メグは本当に物凄い目で睨んで来ました。
私とルークは震え上がりました。
それから、メグは私とルークを椅子に座らせ、その前に仁王立ちになります。ひぃーっ。
「キャス。何故、レオンハルト殿下と踊るのを嫌がったの?」
「はい!それはお二人の邪魔をしたくないからです!」
「そんなにいい返事はいらないのよ!踊ればいいでしょうが!楽しそうに踊って、ローズマリーさんに見せつけてやりなさいよ!」
「で、でも・・・」
「それから、ルーク。貴方もたまにはレオンハルト殿下を妬かせるくらいのことをしなさいよっ!」
「そ、そんな」
「こういう場合はあなたたちが、下手でもどっちでもいいのよ!うふふ、きゃっきゃと踊れば、それだけでお互いに気になるものなのよ!自分ではない誰かと楽しそうに踊ってたら、嫉妬心くらい湧くでしょう?!そう思わない?!」
私とルークはハッとしますと、
「「思います!」」
私、お馬鹿さんでしたー!
「でもまあ、そんなことより、あなたたちのダンスはひどいわ」
と、メグはややヒートダウンして、「ルークが全くダメ」
「自分ですか?」
「はい。自分ですよ」
と、メグはキッとルークを睨んで、「貴方は全くキャスをリード出来ていない。レオンハルト殿下は周りのペアの動きも把握しながら、ローズマリーさんを上手くリードしていたわ。それに何より王子様であるレオンハルト殿下が引き立て役に回っていた。なのに、貴方はどうよ?自分のことでいっぱいいっぱいになってるじゃないの。全然周りが見えていないじゃないの」
「め、面目ないです・・・」
ルークは肩をすぼめます。
「それに貴方はねえ、ダンスなんて軟弱なもの、騎士になる自分には必要ないって、思ってんじゃないの?やる気が全く感じられないのよ。ダンスは貴族の嗜み!ダンスを笑う者はダンスに泣くわよ?!分かった?!主君を見習いなさい!」
「はい!」
ルークはとっても良いお返事をしました。
「キャス」
今度はメグは私を睨みました。
「は、はい・・・」
「貴女、もしかして、リバー様としか踊ってない?」
「はい!リバーと踊った時は完璧でしたよ!父とも踊ったことはありますが、リバーは僕以外の人と踊らなくていいんだよ。と、言いました!私とリバーは仲良しですからね!」
と、私が言いますと、メグは鼻を鳴らして、
「あなたたち双子は脳内にお花畑でもあるんじゃない?ちょうちょが呑気に飛んでるんでしょうよ。はいはい。死ぬまで仲良くやってなさいよ。全く・・・リバー様はキャスのことになると阿呆になるわね。それを喜ぶ信者がいるのもどうかしてるわ」
「し、失礼な!リバーは阿呆ではありませんよ!お姉ちゃんはリバーの悪口は許しませんよ!」
と、私、言い返しました!たまにはやります!
ところが、
「悪口どうこうの話じゃないのよ!あなたたち双子だけで世の中回ってんじゃないのよ!」
メグが一喝します。ぎゃー。「あのねえ、どこの世界に弟だけと踊る公爵令嬢がいるのよ。もし、誰かにダンスに誘われたとして、私は弟としか踊りませんから。って、貴女、断れるの?」
「うっ・・・無理です・・・」
「そうでしょう?だったら、リバー様のように自分に上手く合わせてくれる人だけじゃなく、ルークのようにろくにリード出来ない人と踊る可能性もあるんだから、それに引っ張られないよう、慌てないよう、もっと上手にならないとダメよ。社交界に出れば、公爵令嬢はどんな時も堂々としてなきゃいけないのよ。相手が悪いなんて言い訳は通らないわよ。いい加減、カーライル公爵家の令嬢に相応しい威厳を持ちなさい!」
「はい!」
私も良いお返事をしました!メグの言う通りです!
「あ、そう言えば、リバー様は色んな方と踊っていたらしいわよ?パートナーを一人に絞ったら、皆が可哀相だからね。とか言って」
「何ですと?!」
お姉ちゃんには僕とだけなんて言っておいて、リバーは色んな方と踊ったんですか?おまけにそんな遊び人のような台詞を言ったんですか?「うっ・・・リバーがお姉ちゃんを裏切りました・・・」
「男なんて、そんなものよ」
と、メグは私の肩に手を置いて、「本当にそんなことより、ダンスを何とかしなきゃね」
「メグ・・・どうしましょう・・・」
「しょうがないわね。放課後、練習しましょう。私がルークの相手になるから」
「私は?」
と、私が自分を指差しますと、
「・・・しょうがない。アレックスに頼むわ。ルークのダンスも見てもらいましょう。あの人、レオンハルト殿下よりも上手いと思うから」
「アレックスが?!」
あのレオ様よりも?!凄いですね!
「あ、変なところを触られたら、足を踏みなさいね」
「・・・」
えー・・・。
こうして、放課後、メグによるダンスの特訓が始まることになります。私はアレックスと踊ることになるのですが、そのせいでまたレオ様と・・・はぁ。




