三人寄れば何とやらと言いますが
「お待たせしました!」
私が図書室へやって来ますと、
「遅いわよ」
メグは文句を言いましたが、「また面白そうなのを見つけたわ!この図書室は本当に素晴らしいわ!」
と、嬉しそうに恋愛小説を私に見せます。何でしょう。メグって、可愛いですね!
「カサンドラ様ー・・・」
メグと机を挟んで、向かい側に座っているルークがぐったりとしながら、「メグさんが恋愛小説の読み聞かせをするんですよ・・・。頼んでもいないのに・・・」
「暇だって言ったじゃないの」
と、メグはむくれます。
「そんなことより、聞いて下さい!」
私はルークの隣に座りますと、「ローズマリー様がレオ様を諦めると言ったんです!」
「そんなことよりは失礼だけど、本当に?」
「ローズマリー様は殿下のことが好きではないのですか?!有り得ませんよ!」
「ルーク。声が大きいですよ。・・・だいたい私は諦めると言ったんですよ。好きなのに、諦めるんですよ」
「何故ですか?」
ルークが不思議そうに首を傾げました。
「レオ様は王太子になるから自分は相応しくないとローズマリー様は言っていましたが、更にびっくりしたことに、レオ様には他に好きな方がいると言っていたんです!」
「他に?一体、誰ですか?殿下は・・・失礼ながら、アナ、あ、いや、基本、女性嫌いですし」
「そうなんですよね・・・」
レオ様は子供の頃にシーア様の我が儘ぶりを目にし過ぎたせいで、女性嫌いになってしまったんですよね。
ゲームなら、カサンドラのせいで、女性不信になるのですが・・・ここも変わってしまってますよね。
今は、シーア様と兄妹として、上手くいっているのに、そこは治らなかったんですよね。シーア様の我が儘ぶりはいかほどだったのでしょうか?
それにしても、ローズマリー様に出会わなかったら、レオ様は一生独身だったかもしれませんね。ひぃっ。
ですから、何とかしなくてはなりません!
「絶対、ローズマリー様の誤解だと思うのですよ」
「でも、この学園には女性がたくさんいるでしょう?あなたたちの知らない出会いがあったのかもしれないわ」
「「なるほど!」」
「でも、ローズマリーさんを好きでもないのに、あんなに一緒にいるのもおかしいし・・・うーん」
と、メグが唸ります。
うーん。と、私とルークも唸ってましたが、
「はぁ・・・」
メグが溜め息をついて、「あなたたちって、本当に頼りにならないわよねえ。レオンハルト殿下とは長い付き合いでしょうに。本当にへっぽこコンビよねえ」
私とルークはむっとしますと、
「「レディがへっぽこなんて言っちゃダメです!」」
と、言いましたが、メグはやっぱり私たちの声を無視して、
「でも、ローズマリーさんが身を引こうとしたら、レオンハルト殿下も焦って、思いを伝える可能性もあると思うのよね」
「なるほど」
「どのみち、私たちにはどうしようもないわよ」
メグはお手上げと言うように両手を上げます。
「どうしようもないって、困ります!本当にローズマリー様がレオ様を諦めたら、どうするんですか!」
と、私が訴えますと、メグは眉を上げて、
「何故、キャスが困るのよ。貴女って、レオンハルト殿下とローズマリーさんが結ばれないと貴女の人生が終わるかのような勢いの時があるわよね」
そうですよ。でなきゃ、私がこの世界に生まれた意味がないくらいに思ってますよ!全く悪役令嬢の役目を果たしてない上に、レオ様とローズマリー様が結ばれなかったら、私、どうすればいいんですか?!
・・・とは、言えませんので、
「た、ただ、生涯の友であるレオ様の幸せを願ってるんですよ」
と、言いますと、メグは鼻を鳴らして、
「だいたいレオンハルト殿下がはっきりしないのが悪いんでしょう。失礼だけど、なっさけない方よね」
「殿下を悪く言わないで下さい」
ルークがムッとします。
「あら、本当のことでしょう?最後まで、自分からは本心を全く明かさないで、あわよくば、女性の方に気付いてもらおうとか、先に思いを告げてもらおうとする男性がこの世には多過ぎるんですよ。自分から告白すら出来ないくせに、勝手な嫉妬をする男性もいるでしょう?だから、『別の男性とちょっと話してたくらいで、絡んで来るんじゃないわよ!』、『この子はあんたの物じゃないんだから、何したって自由でしょうが!いっちょ前に束縛するな!』、『お前だって、他の女といちゃいちゃしてるくせに勝手なことを言うな!』、『散々嫌な態度を取ったくせに、一言謝ったくらいで、許されると思ってんのか!』・・・って、言ってやりたくなるのよねー」
「・・・」
メグ・・・レディが口に出してはいけない台詞がいくつか出て来ましたよ!
「また恋愛小説の話ですか?」
と、ルークが呆れますと、メグは澄ました顔になって、
「一般論です。最近の男性は情けないんですよ。あ、そう言えば、リバー様やシュナイダー様はローズマリーさんに色々と教えているけれど、婚約者でない以上、限界があるでしょう?レオンハルト殿下もそれは分かっているでしょうに、いまだはっきりとした態度を取っていない。そうよね?・・・リバー様やシュナイダー様はそのあたりをどう思っているのかしら」
「2人は基本、レオ様の意志を尊重するタイプですし・・・」
と、私がルークに同意を求めるように見ますと、ルークは頷きましたが、
「カサンドラ様の言う通りではありますが、リバーとシュナイダーは自分なんかより、ちゃんと殿下に意見を言えるし、殿下が間違っていれば、きちんと注意することが出来ると思いますよ。・・・自分は2人もどこかおかしいと思っています」
「リバーとシュナイダー様がおかしい?」
「最近、どこかに2人で出掛けていたんですが・・・えらくきちんとした格好をしていたんですよね。ですから、王城に行ったのではないかと自分は思ったんですよね」
「2人ともそれぞれのお父様に会ったんじゃなくて?」
と、メグが聞きます。
「それなら、カサンドラ様を誘うでしょう。カサンドラ様は王城には行っていないでしょう?」
「ええ。父は私を連れて行かないと怒りそうですし・・・あ、でも、内密な話があるのなら・・・」
私は誘わないでしょう。と、私は言かけましたが、メグはキラッと瞳を輝かせて、
「元放蕩者が娘を溺愛するっていう設定もいいわねー」
「「・・・」」
私とルークがジトッとした目でメグを見ますと、メグは咳ばらいして、
「そ、それで、ルークは何故2人がおかしいと思うの?えらくいい格好をしてたからって、おかしいことはないでしょう」
「・・・殿下に知られたくないみたいだったからですよ。自分たちの部屋は同じ階にありますが、リバーとシュナイダーはいやに殿下の部屋を気にしながら、急いで、階段を降りて行っていましたからね。明らかにおかしいでしょう」
「確かにおかしいですね。レオ様に黙って、王城に行くのも変ですし」
「ルークは2人に聞かなかったの?」
「いや、あの2人が何かしているとしても、いちいち詮索はしませんよ。家のことで動いているのかもしれませんし」
「貴方って、意外とちゃんとしているのね」
と、メグが感心しました。
「意外とは何ですか。意外とは」
「・・・」
私もルークと同じで、2人のすることに関心を持ってはいけないと思っています。同じ五大公爵家の一員だとしても、次期五大公爵の2人と自分では全く立場が違いますからね。
「なんにせよ、レオンハルト殿下が動かないことにはどうしようもないわね。2年生に上がるまでは時間があるし、慌てる必要はないんじゃない?ローズマリーさんが諦めたくないと思う可能性だってあるはずだし」
と、メグは言いましたが、私は納得出来ず、
「そんな悠長な・・・」
「しょうがないでしょう。私たちに人の気持ちを操ることなんて出来ないんだから」
「あ、そうです!私がレオ様にローズマリー様が諦めようとしていることを話したら、レオ様も自分の気持ちを伝えるのではないですか?」
私はいい考えだと思いましたが、
「キャス。それはダメよ。貴女がそこまでしてはいけないわ。そんな権利はないでしょう。それにローズマリーさんがそれを望んでいると思う?違うでしょう?」
と、メグが厳しい口調で言いました。
「・・・そうですね」
メグの言う通りです・・・。私、お馬鹿さんです・・・。
私が肩を落としていますと、
「いい考えがあります!」
と、メグが声を上げました。
「メグさん、図書室では静かにしましょうよ」
と、ルークが注意しましたが、やっぱりメグは無視して、
「ローズマリーさんに、私、オススメの恋愛小説をお貸しすることにしましょう。恋を諦めることはないと言うメッセージが暗に伝わるようにね!」
と、言いますと、恋愛小説が並んでいる棚へと張り切って行ってしまいました。
「「・・・はぁ・・・」」
私とルークは脱力しました・・・。
メグやルークに相談しても、良い考えは浮かびませんでした。
このままローズマリー様がレオ様を諦めてしまったら、私はどうしたらいいのでしょうか。
ちなみにメグはローズマリー様に恋愛小説を何冊か貸してあげたそうです。
ローズマリー様は喜んでくれたそうですが、『レオ様のことを諦めないで』と、言うメッセージは果たして、伝わるのでしょうか。
もしや、メグは恋愛小説好きを増やしたいだけだったりなんてことはないでしょうね?




