ヒロイン、何を言う
お茶の時間がやって参りました!
前にレオ様と話した玄関にローズマリー様を呼び出し?うん?呼び出したでは、ほんとに悪役令嬢ですね。あ、ローズマリー様に来ていただきました。・・・どっちでもいいですね。
ですが!今回は悪役令嬢としてではなく、アーロンの友達として、お話するのですからね!
私とローズマリー様はじっと見つめ合っていましたが、
「あ、貴重なお茶の時間を私のために申し訳ありません」
私は頭を下げました。
「いえ。とんでもございません」
ローズマリー様も頭を下げました。
「ですが、レオ様は怒ってませんかね。私が邪魔をしてしまって」
「怒るだなんて・・・それに最近はお茶の時間にあまりご一緒することはないので」
「え?そうなんですか?」
ローズマリー様は頷きますと、
「お茶の時間はリバー様とシュナイダー様に色々と教えていただく時間になっていますし、レオンハルト様はお手紙を書く時間などに当てたいと言っておりました」
そうなんですか?!お二人は常にご一緒かと思っていました!
・・・ですが、レオ様は酷い筆不精ですもんね。そりゃあ、お茶の時間も使わないといけませんね!
私が心の中でうんうんと頷いていますと、
「ロクサーヌ様。私にお話があるんですよね?」
「はい?」
私がきょとんとしますと、ローズマリー様もきょとんとしましたが、
「あの、朝から私のことをずっと見てらしたようですから・・・初めはレオンハルト様かと思いましたが、私の背中にすごく視線を感じていたので・・・」
き、気付いていたようです!
「え、ええ。そうなんです。あの、昨日の私がアーロンを好きだと、いや、そんな感じのことを私がポロッと言ってしまったことなんですが。アーロンは大事なお友達ですが、その、殿方として、好きと言うわけではないんです。な、何となーく、ヒューバート様には誤解して欲しくないなーと、思いまして」
「それでわざわざ・・・」
「え、ええ。私、そういうことが気になってしまって。ほら、私、病的なまでの神経質でもありますし。あははっ」
と、私は無理やり笑いましたが、
「あれはレオンハルト様の嘘ですよね?」
と、ローズマリー様は言いました。
「え」
「初めは信じていたのですが、アーロンと親しそうにされているところを何度かお見掛けしましたし、いつも健康なご様子で、ごく普通に授業を受けてらっしゃいますから、さすがに無理があると思いまして」
ですよねー!無理がありますよねー!
「あ、で、でも、レオ様は嘘をついたわけではなく、私は本当に、人見知りですし、そ、その」
な、何て言えばいいのでしょうか!私が内心困っていますと、
「分かりました。嘘ではなく、レオンハルト様がちょっと大袈裟に言ってしまったと思うことにしますから」
と、言って、ローズマリー様は微笑みました。あ、ありがとうございます!
「実は私もロクサーヌ様にお話したいことがあるのです」
「え」
「アーロンのことなんです。・・・昨日、ロクサーヌ様と楽しそうにしているところを見ることが出来て、安心しました。実はアーロンはこの学園に入ることを迷っていたんです」
「えっ。アーロンは全属性持ちですよ?何を迷うことがあるんですか」
と、私が驚くと、ローズマリー様は頷いて、
「アーロンは王室付きの魔術師になりたいのです。ですが、自分には無理だと思い込んでしまっていて・・・そのせいで、いっそ、学園には通わない方がいいと思ったのです。それに、アーロンは平民ですから、貴族家からの生徒が多いこの学園で上手くやっていく自信がなかったのだと思います。ですが、学園に通わないなんて、せっかくの才能を無駄にしてしまいますし、アーロンの魔術師になりたいと言う夢も叶いません。ですから、そうならないよう、私やアーロンのご両親、そして、私の両親の皆で説得をして、アーロンもやっと入学すると決めてくれたのです。ほとんど渋々と言った様子だったのですが、入学してみれば、アーロンはリバー様やシュナイダー様と親しくなって、更にロクサーヌ様とも親しくなりました。以前よりも明るくなったと感じ、私も安心していたのですが・・・」
「・・・ですが?」
「気になることがあるのです」
「気になること・・・?」
「はい。アーロンはロクサーヌ様やリバー様、シュナイダー様と一緒の時はとても楽しそうにしていますが、たまにアーロンが一人の時に見掛けると、どこか辛そうな顔をしているのです。何かあったかと聞いても、何も答えてくれませんし、お休みの日に会おうと誘っても断られるのです。ですから、もし、ロクサーヌ様が何か知っているのならと思いまして・・・何かご存知ではないでしょうか」
「・・・アーロンのことが心配なんですね」
「はい。子供の頃、この黒髪と黒い瞳のことで、何て言いますか・・・同じ年頃の女の子のお友達が全く出来なくて、いつも一人だったんです。そんな私を元気付けてくれて、傍にいてくれたのはアーロンだけなんです。ですから、アーロンに何か辛いことがあるのなら、力になりたいんです」
「・・・」
アーロンが辛いのは、ローズマリー様とレオ様が仲睦まじいからなんですよね。ですが、そんなことは言えません。「・・・私には理由は分かりませんが、アーロンにだって、話したくないことはあると思うのです。もう少し様子を見ることにしませんか?私、アーロンのことを気をつけて見てみますし、お休みの日とか、もう無理矢理にでもアーロンを誘ってみますから。あ、それから、ルークやリバー、シュナイダー様にも気にかけてもらうよう頼んでみますから、安心して下さい」
と、私が言いますと、ローズマリー様は目を潤ませて、
「ありがとうございます!よろしくお願いします!」
私に向かって、何度も頭を下げました。
私に頭を下げていたローズマリー様でしたが、
「申し訳ありません・・・」
ハンカチを取り出すと、目元を拭いました。
こんな仕草も可愛らしいです!ウサギさんみたいです!庇護欲って言うんですかねー!そういうものが掻き立てられます!レオ様はこういうところが良いのでしょうかねー!
私がそんなことを考え、脳内で一人盛り上がってましたが、
「それからまだお話はあるのです」
「はい?」
「私に対して、他の生徒の方々が何も出来ないようにして下さったのはロクサーヌ様ですよね?」
「えっ!」
な、何故それを?!
ローズマリー様は私の表情をじっと見ていましたが、
「リバー様とシュナイダー様は何も言っていません。ご存知だと思いますが、一度、同じクラスの方々に取り囲まれてしまった時、私、少し言い返してしまいましたので、あの一度でぱったりとなくなるのはおかしいなと思っていたんです。・・・その後、リバー様とシュナイダー様が良く行動を共にしてくださるようになったのですが、そのこともあまりにタイミングが良過ぎると思っていたんです」
「・・・」
た、確かに・・・。で、ですが、「それがどうして私だと?」
「私を取り囲んだ方々に直接聞いたのです。一度でやめた理由が分かれば、おのずと誰が助けて下さったのか分かると思いましたから」
「ち、直接?!」
「もちろん、最初は話し掛けても、目も合わせてくれませんでした。ですから、毎日挨拶をしてみたのです。もういい加減にしてと怒られたこともありましたが、そのうち嫌々ながらも挨拶を返してくれるようになったんです」
「ず、ずいぶん、根気がいったでしょう」
「はい」
ローズマリー様は苦笑いして、「それから、私は皆様の観察も同時にしていましたので、皆様が好きそうな話題を提供し、会話に入れてもらうことに成功しました」
「!」
凄い!
「そして、最後は祖母と母に頼んで、お菓子を送ってもらい、皆様をお茶にお誘いしました」
そこまで言ったローズマリー様はにっこり笑って、「リバー様から、『情報が欲しければ、相手の懐に入れ』と言われていたので、私なりに考えた作戦を実行したのです」
「?」
ん?!今、ローズマリー様が黒い笑顔を浮かべたような気がしましたが、気のせいですよね?!
私は目をこすっていましたが、
「そのお茶の時に一度きりで止めた理由をやっと聞くことが出来たのです。『リバー様の派閥に睨まれたから、止めざるを得なかった』と。皆様は悪い方ではありませんでした。ただロクサーヌ様に対する憧れが強かっただけだったんです」
「・・・はあ・・・」
何故、私なんかに憧れるんでしょうねー・・・。
「そして、またお菓子を持参して、特に熱心なリバー様の派閥の方々に話を聞きにいったのです。そうしましたら、『私たちは貴女の為にやっている訳ではありません。偏にリバー様のお姉様のためなんです。私たちは、お姉様がレオンハルト殿下と結ばれることなど全く望んでおりません。お姉様はリバー様とお二人で、末永く幸せに暮らすのです。絶対に誰にも邪魔はさせません。貴女がその邪魔をしない限り、私たちが貴女の敵になることはありませんので、そのことを良く覚えていて下さい』と、おっしゃられました」
「ー・・・」
私、眩暈がしました。
リバー派閥の方々はちょっとおかしいです!!
「そう言えば、同じクラスの方々も今では『リバー様とお姉様を見守る会』に入ったそうですよ。良く活動内容を話して下さいます」
そんな会があるんですか?!活動内容はあまり知りたくないです!!
私は頭痛までして来ましたが、
「何故、ロクサーヌ様はそのような事をして下さるのですか?もちろん、本当に感謝しておりますが、そこまでして下さる理由がないと思うのですが・・・」
と、ローズマリー様が聞きましたので、私はドキッとして、
「ご、五大公爵家の一員として・・・」
と、ごまかそうとしましたが、「あ、いえ、それだけではなく、恋するレディの応援をしたいと思ったのです!」
私、思い切って言ってやりました!
すると、ローズマリー様は真っ赤になって、
「こ、恋するとはどういう意味でおっしゃって・・・そ、そんな」
うろたえているようです!その姿も可愛らしいです!
「あ、あの、レオ様のことが好きなんですよね?もちろん、お友達としてではなく」
「・・・」
ローズマリー様はやや俯きますと、「・・・好きです」
と、言いました。更に真っ赤になります。
「そうですか・・・」
私、また小躍りしたいくらいでしたが、その衝動をグッと堪えました。
ところが!
「ですが、3年間、レオンハルト様の友人として過ごした事を良い思い出として、卒業したら、きちんと諦めるつもりでいます」
「?!」
何ですと?!
私が驚愕していますと、
「レオンハルト様は学園を卒業したら、王太子殿下となり、そして、国王陛下となられる方です。そんな方のお相手になれるはずがありませんから、思い続けても仕方ないと思うのです。それなら、最初から離れていればいいと思われるかもしれませんが、レオンハルト様は友人として、とても優しくして下さいますから、それが嬉しくて、距離を置くことがなかなか出来ないんです」
と、ローズマリー様は悲しげに言いました。
「で、ですが、ローズマリー様はその髪と瞳を持っていますし、全属性持ちですし、諦めることなんてありませんよ!」
と、私は言いましたが、ローズマリー様はゆっくり首を振って、
「それを持っているからと言って、私がリリアーナ様になれるわけではありませんから。そして、私が例えロクサーヌ様と同じ公爵令嬢だったとしても、レオンハルト様の傍にいられるに相応しい人間だとは思えません。それにレオンハルト様がそれだけの理由で私を妃にしたいと思うでしょうか」
「それはもちろんそうですが、レオ様がヒューバート様を妃にしたいと望んでいたとしても諦めるのですか?レオ様はいつもヒューバート様とずっと一緒にいらっしゃいますでしょう?好意のようなものはちゃんと持たれていると思うのですが」
「・・・」
ローズマリー様は少し俯きますと、「いいえ。レオンハルト様は別の女性をずっと求めています。その方のことが好きなんです。ただ、その思いが恋だとは気付いていないだけではないでしょうか。レオンハルト様はその方のことになると、感情的になってばかりいるのに、何故気付かないのか不思議でなりません。・・・でも、周りにいる人間の方が気付いてしまうことってあるのかもしれませんね」
「ま、待って下さい!レオ様に他にそんな方がいるわけがないですよ!」
私は仰天して、思わず、大声を上げてしまいました。
そんな私をローズマリー様はじっと見つめました。ん?何ですか?
ローズマリー様は私からやや目線を反らせますと、
「もっと早くレオンハルト様の気持ちに気付くべきでした。・・・見て見ぬ振りが出来たらいいとどこかで思っていたせいかもしれません。やはり、卒業まで引き延ばしても、結局、辛いだけですから、2年生に上がるまでには気持ちの整理をつけておきたいと思います。2年生になればクラスも別れるでしょうから、忘れられると思います」
「そ、そんなに早く結論を出さなくても・・・」
私、困ります!
ローズマリー様は微笑んで、
「初恋は実らないと良く言いますから」
「!」
ぬ?!この世界でもそんな迷信があるのですか?!
「ですが、レオンハルト様に恋をしたことは後悔していません。辛いこともありましたが、本当に優しくしていただきましたから、私、幸せでした。後はレオンハルト様の幸せを祈るだけです」
「!!」
・・・こ、この台詞知っています!
ゲームでローズマリー様は身分違いを憂い、レオ様を諦めるようとする時に良く言う台詞なんです!
『私、傍にいられるだけで幸せでした』、『レオンハルト様が幸せなら、私はそれで良いのです』とかってねー!
私、悪役令嬢なのに、直に聞いてしまいましたー!
その後、ローズマリー様はリバーやシュナイダー様の元に行ってしまいました。
『貴族名鑑』を暗記しなくてはならないと言っていました。ひぃっ!リバーとシュナイダー様は一体、ローズマリー様をどうするつもりなんでしょうか?
そ、それよりもレオ様を諦めるとローズマリー様は言いました!大変です!




