メグはずっとお友達です
メグにげんこつを落とされたアレクサンダー様は頭頂部をさすりながら、
「畜生。遠慮のない女だな」
と、言って、舌打ちしました。
「人前で脱ごうとした男が良くそんなことが言えるわね」
メグはぷりぷりしながら、「自己紹介くらいしなさいよね。失礼でしょう」
「あ、そっか」
アレクサンダー様は手をポンと打ってから、姿勢を正すと、「セントクロフト伯爵家アレクサンダー・ラングトリーです。以後お見知り置きを」
アレクサンダー様が丁寧に頭を下げましたので、
「カーライル公爵家カサンドラ・ロクサーヌです。お見掛けしたことはあったのですが、お話出来て嬉しく思っています」
私も丁寧に頭を下げました。
「自分は」
と、ルークが言いかけましたが、その前にアレクサンダー様が私に向かって、手を差し出しましたので、あ!握手ですね!と、思い、私がその手を両手で軽く握ろうとしましたところ、ぐっと右手を引かれました。えっ?!
そして、アレクサンダー様はまた私の手の甲にキスをしたのです!ぎゃあああっ!
「なっ、何をするんだ!」
と、ルークが声を上げますと、
「ほら、ちょろい」
アレクサンダー様はげらげらと笑いました。
「くっ・・・」
ルークは膝を叩いて、悔しがると、私をジロッと見て、「カサンドラ様も気をつけて下さい!」
「は、はい・・・すみません」
私は頭を下げました。
「馬鹿なことやってないで、帰りなさいよ。邪魔よ」
メグはアレクサンダー様を睨みましたが、アレクサンダー様は私とルークの前に置いてある恋愛小説を見て、
「何?恋愛小説の普及活動?」
「ち、違うわよ!二人が興味があるって言うから、オススメの小説を見繕っただけよ」
・・・メグ、嘘を言わないで下さい。
ですが、
「メグは恋愛小説がお友達だったからさ」
アレクサンダー様は分かっているようで、「たまには付き合ってやってよ」
「恋愛小説がお友達?」
私とルークがメグを見ますと、メグは真っ赤になって、
「アレックス!余計なことを言わないで!」
と、言いましたが、アレクサンダー様は笑いながら、
「こんなんだし、プライドが高いから、自分からお友達になって下さい。なんて言えなかったんだよ。おまけに目つきが悪いし、威圧感があるだろう?怖がられるんだよ」
「・・・」
メグの気持ち、分かりますよ!
「更に義理の父親の評判が悪いからね」
「ああ・・・」
・・・バドレー公爵様のことですね。失礼ですが、そうでしょうね!
「カーライル公爵家に取って代わろうなんて、世界がひっくり返っても無理だってこと全く分かっていないから、失笑を買ってたんだよね。・・・あ、でもここ何年かは大人しいな。どうしてだろう?」
アレクサンダー様は首を傾げます。
「・・・」
・・・ふふ。私の父のお陰ですよ。
「それはともかく、あの父親のせいで、本当にいい迷惑だったわ」
と、メグがむくれました。
アレクサンダー様は頷いて、
「そのせいで、メグやおばさんまで疎外されちゃってね。メグはアナスタシア殿下と親しくなるまで、全く友達がいなかったんだよ」
「そうなんですか・・・」
メグも苦労して来たんですね・・・。
「素直じゃないし、たまに可愛いげのないことを言う時があるけど、悪い人間ではないから、愛想尽かさないでやってね」
アレクサンダー様はまるでメグのお兄さんのようです。
私は大きく頷いて、
「もちろんです!メグはとってもいい人ですから!私、メグが大好きです!ずっと、お友達です!」
と、声を上げますと、メグは真っ赤になって、
「き、キャスったら、やめてよっ」
アレクサンダー様は愉快そうに笑って、
「良かったね。メグ」
メグはそっぽを向きますと、
「き、キャスは物好きね」
「物好き同士でお似合いじゃないですか」
ルークは笑いました。
「ほんとね」
私も笑いましたが、メグに優しい目を向けているアレクサンダー様に気付きますと、「アレクサンダー様もいい人ですね!」
「は?」
アレクサンダー様がぽかんとします。
メグは声高らかに笑いますと、
「遊び人がいい人なんて言われたら、おしまいね!キャスは貴方に全く興味がないようね!お生憎様!」
「う、うるさい」
アレクサンダー様はちょっと赤くなりましたが、私に向かって、「カサンドラ嬢のためなら、いくらでもいい人になるからね。だから、まずはお友達からだね。いいよね?愛しのカサンドラ嬢」
「・・・」
・・・いちいちウインクしないで下さい。
「まあ、立ち直りの早いこと」
メグは呆れました。
アレクサンダー様、いえ、アレックス(そう呼ぶようにしつこくお願いされました・・・)は、その後、デートがあると言って、帰って行きました。『本命はカサンドラ嬢だよ』と、言って、またウインクしました。・・・うーん。
そして、アレックスは私、メグ、ルークの全く実りのない作戦会議が行われる図書室にたまーに顔を出すようになります。
ちなみに・・・。
「これを読んでたら、リバーに冷やかされそうですね」
と、ルークがメグに押し付けられた本を裏返したりしながら言いました。
ルークは恋愛小説を読むことにしたようです!ルークと恋愛小説・・・全く似合いません!
「大丈夫です!」
メグはジャーン!と、布製のブックカバーを取り出して、「お手製のブックカバーです!これをつければ、何の本か分かりませんよ!これで安心でしょう!」
・・・メグはとっても得意げにしています。もう何も言わずにおきましょう。
「おおー」
ルークは感嘆の声を上げてから、「是非貸して下さい!」
・・・それでいいんですか?
その3日後・・・。
「ねえ、キャス。ルークが恋愛小説を読んでるんだけど、急にどうしたんだろう?大丈夫かなあ」
と、リバーがとても心配そうに言いました・・・。
思いっ切り、ばれてますよ!




