二人だけの時間
シュナイダー様がどこかへ行ってしまい、残された私とレオ様は、一言も喋らず、お菓子をいただいていましたが・・・。
「・・・」
「・・・」
そのうち、紙袋の中のお菓子がなくなり、手持ち無沙汰になった私は自分の世界に入り(?)、レオ様は自分の周りの草をぶちぶちと引き抜いていましたが、ふと手を止めて、
「おめかししてるじゃないか」
「え?」
私はレオ様の顔を見ますと、レオ様も私を見てから、顎をくいっと上げて、
「髪。・・・シュナイダーのためにめかしこんだのか?」
「そ、そういうわけじゃ・・・」
と、私は言いつつも、赤くなりました。
「どうだか」
レオ様は鼻で笑ってから、「それに、ずいぶん凝ってるな。誰にやってもらったんだ?不器用が出来る髪型じゃないだろう」
・・・失礼ですね。と、私は思いましたが、
「メグにやってもらいました」
シュナイダー様に動きやすい恰好で来るよう言われていたので、じゃあ、せめて、髪型は可愛くしましょうよ。と、メグがやってくれたのです。
メグは何やらうきうきしていました。詳しく話を聞かせなさいよ。と、言っていました。
「メグ?」
「マーガレット・フォスター様です。私の前の席の方です」
「ああ。一緒に湖に落ちた娘か。最近、親しそうだな」
「お、お友達になってくれたんです」
私は赤くなりながら、「初めての女の子のお友達です」
「良かったな」
「あ、ありがとうございます」
私がぺこんと頭を下げますと、レオ様がぽつりと、
「・・・悪かった」
「はい?」
「その、あの喧嘩と言うか、言い合いをした時に、他の生徒に近付くななんて言って・・・」
レオ様は本当に申し訳なさそうで、いつもはキリッとした眉が下がっています。
私は首を振りますと、
「いいんです。私も言い過ぎましたから」
「・・・」
レオ様はまたぶちぶちと草を引き抜きながら、「・・・そ、そんなに嫌だったか?」
「はい?」
「だ、だから」
レオ様は赤くなると、「ひ、膝枕とか、抱きついたりとか・・・そういったことをだ」
「は・・・」
「そんなに嫌がっていたとは知らなかった。いくら、子供の時とは言え、それも悪かった。た、ただ、私にとってはいい思い出で・・・だから、キャスにそんなに嫌がられていたとは思わなくて、ショックだったと言うか・・・」
レオ様はそう言いながら、凄い勢いで草を引き抜いていきます。やめてあげて下さい!
「レオ様・・・」
私はそんなレオ様をまじまじと見つめていましたが、「ふふっ」
「!」
レオ様はカッと赤くなると、「何が可笑しい!」
私はくすくす笑っていましたが、
「嫌ではありませんでしたよ。レオ様、可愛かったので」
「か、可愛いって・・・」
「ただ本当に恥ずかしかっただけなんです。レオ様、自分が注目されてることとか全く気にしないでしょう?」
「・・・確かにそうだな」
「でも、私は違うので、本当に恥ずかしかったんですよ?」
「そうか。悪かった」
「でも、あの、5歳の時にカーライル家から王城へ帰る時にレオ様が私にしたことは・・・私、その当時はそんなに気にしていなかったんですけど、年を重ねるごとに、なんて言いますか・・・そう。怒りがふつふつと・・・」
私はぶちっと草を引き抜きました。
レオ様は顔を引きつらせますと、
「そ、そうなのか?」
私は何度も頷きますと、
「そりゃ、私だって、女の子ですから、ああいったことは将来を誓い合った殿方としたいって思うじゃないですか。それなのに、なのに・・・なのに・・・」
今度はレオ様が私の顔をまじまじと見つめてから、
「キャスも普通の娘だったんだな」
と、感心したように言いました。
「何だと思ってたんですかっ。もう往復ビンタしてやりたいくらいですよっ」
と、私が怒って言いますと、
「いいぞ。いくらでも。それでキャスが許してくれるなら」
「?!レオ様?!」
往復ビンタですよ?分かってます?!
「キャスと挨拶くらいしか出来なくて、ずっと、辛かったから。それなら、叩かれた方がましだ」
「・・・」
あのー、ファーストキスを奪われたから、今までぎこちなくなっていたわけじゃないんですけど・・・。と、私は思っていましたが、「分かりました」
私は立ち上がりますと、レオ様の前で膝を付きました。
「いきますよ」
「いつでも来い」
と、レオ様は言いますと、顔を前に突き出すようにしてから、目をぎゅっと閉じました。
「・・・」
綺麗な顔をしてるなあ。と、私は思いつつも、レオ様の両方のほっぺをつねりました。
「?」
レオ様は目を開けますと、「にゃにをしりゅ」
私は笑いながら、
「レオ様のほっぺ伸びますよ」
「むむ」
私はレオ様のほっぺを伸ばしたりしていましたが、手を離しますと、
「これで良いです!さあ、私のほっぺもやっちゃって下さい!」
「はあ?」
「どっちも悪かったと言うことで、キレイサッパリ終わらせましょう!」
「・・・」
レオ様は私をじっと見つめていましたが、「レディの顔をつねることは出来ない」
「えー」
真面目か!
「だいたい子供の頃のことに関しては、キャスは全く悪くないだろう。だから、キャスをつねったりしない。絶対」
と、レオ様は言い張りました。
「そうですか・・・分かりました」
私は納得することにしました。
私がお茶をいただいていますと、また草をぶちぶちと引き抜いていたレオ様が、
「キャス。変わったことはなかったか?」
「変わったこと?」
私は首を傾げます。
「何でもいいんだ。嫌な目に遭っていないかとか」
私はしばらく思い返していましたが、
「何もないですよ?」
こうやって、レオ様と仲直り出来ましたし、メグともお友達になれました!あ、アーロンもお友達です!
悪役令嬢の役目を全く果たせていないことに若干焦っていますが、学園生活は思っていたより楽しいです!
レオ様は私の顔を見つめていましたが、
「なあ。キャス」
「はい?」
「何かあったら、必ずルークに言えよ。リバーだって、今までのようにキャスの傍にいられるわけじゃない。もちろん、私だってそうだ。だから、いつも傍にいるルークに何でも話せ。それから、何かあったら、自分だけで何とかしようなんて思うなよ。無茶なことだけは絶対にするな」
「は、はい・・・」
「キャスが頼りないからとか、いや、頼りないことには違いないが、そういうことだけで言ってるんじゃない。本当に心配なんだ」
「はい・・・」
何がそんなに心配なのか、私は意味が分かりませんでしたが、
「約束だからな」
レオ様があまりに真剣な顔をして言いますので、私は何度も頷きました。
ですが、レオ様との約束を私は破ることになってしまうのです。




