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災い転じて

 写生会が始まりました!


 私とマーガレット様は湖の畔にいます。

「あのー、良かったのですか?丘の方が景色がいいと思うのですが・・・」

 湖のお魚さんが見たいなあ。と、私がつぶやいたのを聞いたマーガレット様が『では、湖の近くに行きましょう』と、言って下さったのです。

「丘は人が多いですし、皆さんと一緒だとつまらないでしょう。ここでいいのです」

「そうですね」

 私は丘を見上げました。確かに丘にはほとんどの生徒さんがいるようです。


 それにしても、マーガレット様は良く私なんかと組んでくれる気になったものですね。

 マーガレット様も同じクラスには親しいお友達はいないようです。悪役顔は近寄り難いのでしょうか。お互い苦労しますね。

「あ、でも、マーガレット様は恋人さんがいらっしゃいますよね」

「何ですって?」

 マーガレット様がじろっと私を見ました。ひぃっ。怖いです!

「あ、あにょ・・・ランチを良く一緒にされてる方がいるじゃないですか。金髪のハンサムさん」

「ああ。アレックスのことですね。アレクサンダー・ラングトリー。実の父の弟さんの息子で、セントクロフト伯爵家の跡取りなんです」

「従兄弟さんですか。確かにちょっと似てますね」

 と、私が言いますと、またマーガレット様は私をじろっと見て、

「やめて下さい。あんな軽い男と似てるだなんて。あ、気をつけた方がいいですよ。手当たり次第に声を掛けるような男ですからね。100メートル以内近付かない方がいいですよ。貴女って、無防備そうですし」

 100メートルはあんまりじゃないですか?と、思いつつ、

「はあ。ご心配していただいて・・・」

「べ、別に心配なんかしていません」

 マーガレット様はスケッチブックに向かいました。

 私も絵に集中することにしました。


 しばらくして、

「ふっ」

 マーガレット様が吹き出しました。ぬ?

「あははっ。貴女、何それ。湖?水溜まりじゃないの。あはははっ。赤ちゃんの方がもっと上手よー」

 マーガレット様は笑いながら、私のスケッチブックを指差します。むうっ。

「マーガレット様だって、昼間の湖なのに、赤やらオレンジで色を塗る必要なんかないじゃないですか!どこにピンク色が必要なんです?!」

「か、勝手に見ないで下さい!」

「そっちだって勝手に見たじゃないですか!」

「衝撃的な絵がたまたま目に入っただけです!」

「私だって、色彩感覚がおかしい絵が目に飛び込んで来たんです!」

「色使いが斬新なだけです!」

「私の絵だって個性的なだけなんです!」

 私とマーガレット様は言い合いをしながら、絵を仕上げていきました。


「まだ時間があるわね」

 絵を仕上げたマーガレット様が言いました。

「あ、あの桟橋からお魚さんを見ましょうよ」

 私はやや古びた短い桟橋を指差します。

「魚なんて興味はないですけど、いいですよ」

 それから、私とマーガレット様は桟橋を歩きながら、

「そう言えば、お部屋に飾ってあったレオンハルト殿下が描いた魚ですけど、名前はなんですか?」

「めだかさんです。図鑑に載ってないので、勝手につけました」

 マーガレット様は鼻で笑って、

「貴女、名付けのセンスもないんですね」

「むぅ。失礼です」

 私はむくれましたが、マーガレット様は気にも止めず、桟橋から湖を見下ろします。

「あ、小さな魚がいますよ」

「!」

 もしかして、めだかさんですか?!

 私が喜々として、マーガレット様の隣に並び・・・。


 ミシッ・・・と、音がしました。


「「?」」

 私とマーガレット様が顔を見合わせた次の瞬間、


 バリバリバリーッ!と、大きな音がして、足元の木が崩れ落ちていきます!


「きゃーっ!」

「ぎゃーっ!」

 私とマーガレット様は湖に落ちてしまいました!


「はあっ」

 私は水面から顔を出してから、「マーガレット様?!」

 と、声を上げました。

 その次の瞬間、マーガレット様も水面から顔を出しましたが、足や手をめちゃくちゃに動かして、

「わ、わた、泳げなっ、助け、てっ」

 私は泳ぎをながら、

「マーガレット様!落ち着いて!」

 と、声を掛けましたが、

「助け、て、ごぼっ」

 マーガレット様は浮いたり沈んだりして、私の声が聞こえない様子です。

 私はマーガレット様の後ろに回りますと、

「暴れないで!私が・・・ぎゃっ!痛っ!」

 私の顔や胸、それから、足にもマーガレット様の肘や踵が当たります。その痛さに私は怯みましたが、このままではマーガレット様が溺れてしまいます。何とかしなくてはいけません。


 私は息を吸い込むと、

「マーガレット・フォスター!!暴れるなー!!」

 と、思い切り叫びました。

 マーガレット様がハッとして、暴れるのを止めました。

「私が引っ張っていきますから、顎を上げて、力を抜いて下さい!」

 マーガレット様はすぐに私の言う通りにしてくれました。「そうです!落ち着けば、大丈夫ですからね!」

 私はマーガレット様の首に腕を回しますと、岸に向かって泳ごうと、思い切り水を蹴りましたが、ガッ!と、音がして・・・。


 あれ?私、今、地面を蹴りましたか?


 私、試しに立ってみました。

 すると、水の高さは私の肩くらいまでしかありませんでした!

「ま、マーガレット様!足が着きますよ!」

「え?」

 マーガレット様はきょとんとしましたが、マーガレット様も立ちますと、「あ、あら。ほんと」

「・・・」

「・・・」

 私とマーガレット様は顔を見合わせました。


「ぷっ」


 どちらかともなく、吹き出しますと、声を上げて笑いました。


「やだわ!私ったら・・・あはははっ!」

 と、マーガレット様は濡れた顔を拭いながら、「焦っちゃったわ!ごめんなさい!もー、やんなっちゃう!あはははっ!」

「しょうがないですよ!私も必死で全然気付きませんでした!あはははっ!」

 私とマーガレット様が笑っていますと、


「何をやってるんだ!!」


 と、怒鳴り声がして、私とマーガレット様がそちらを見ますと、怒りのあまりか顔を真っ赤にしたレオ様が立っていました。



 レオ様はその後、私とマーガレット様を引き上げてくれましたが、お礼を言う間もなく、

「さっさと着替えて来いっ」

 と、やや乱暴に言いますと、さっさと行ってしまいました。

 私はさずかにレオ様の態度にムッとしてしまうと、

「何なんでしょうね。あんなに怒ることないのに。マーガレット様、何だかすみません」

 すると、マーガレット様が何故か溜め息をついてから、

「気付かなかった?レオンハルト殿下、凄く息を乱してたわよ。貴女が湖に落ちたのに気付いて、必死でここまで走って来たのよ。なのに、私と呑気に笑ってたでしょう?頭に来たのよ」

「え・・・」

「確か丘の方にいたはずですよ」

「・・・」

 私は丘を見上げます。すると、ローズマリー様の姿が認められました。でも、ローズマリー様の髪の色がなければ誰か分からなかったと思います。それくらい距離が離れているのです。それなのに、レオ様はあの短時間で走って来てくれたのです。「レオ様・・・」

「いい加減、仲直りしたらどうですか?」

「で、でも・・・」

「余計なことでしたね。ともかく、着替えましょう」

「は、はい」

 私はもう一度丘を見上げましたが、レオ様の姿はまだ見えませんでした。


 それから、私とマーガレット様はスターリング先生に断りを入れてから、寮に向かいます。

 制服も靴も重くて仕方ありません。

 服を着たまま泳ぐって、大変だなあ。と、私が思っていますと、

「貴女、泳げるんですね。令嬢としては珍しいですね」

 と、マーガレット様が言いました。

「はい!お魚さんになりたくて、頑張ったのです!」

 お魚さんになりたくて、泳ぎの練習をしていたのは前世でのことですが。

 しかし、マーガレット様が微妙な顔をしていることに気付いた私はさすがにまずいと思いますと、

「も、もちろん、子供の時の話ですよー。体が覚えていて良かったです。あはははー」

 笑ってごまかそうとしましたが、マーガレット様が立ち止まりました。

「マーガレット様?」

 マーガレット様は私に向き合って、

「助けてくれて、本当にありがとうございました。私、冷静さを失ってしまって、本当に恥ずかしいです」

「そんな。泳げないなら仕方ありませんよ」

「そうだわ。私、蹴ったりしたと思うけど、大丈夫かしら」

「ああ!大丈夫ですよ!」

 私はちょっとスカートを上げて、「あれ?」

「まあっ!」

 マーガレット様は顔を強張らせて、「アザだらけじゃないですか!」

 ・・・マーガレット様の足が相当強く当たったようです。


 マーガレット様はしゃがんで、私の足の状態を見ながら、

「靴だったから、こんなになってしまったんだわ。すぐに医務室にいかないと」

「大丈夫ですよ!言わば、名誉の負傷です!お友達を助けるのは当然ですから!」

 と、私が言いますと、マーガレット様は顔を上げて、

「お友達・・・」

 はっ!

「すっ、すみません!私、調子に乗りました!忘れて下さい!」

 私は慌てて頭を下げましたが・・・・・・「でも、あにょ・・・お友達になれたらなあって思ってます・・マーガレット様には叱られてばかりで、あ、もちろん、私が全部悪いのですが・・・言い合いをしていても、楽しいのです。だから、お友達になりたいです・・・」

 私は頭を下げたまま、正直な気持ちを話しました。

 すると・・・。

「・・・いいですよ。お友達になってあげても」

「えっ?!」

 私は仰天して、顔を上げました。


 マーガレット様はにっこり笑って、

「一緒に湖に落ちたよしみで」

 私は呆然としていましたが、我に返りますと、

「わ、私のことをキャスと呼んでくれますか?!」

 マーガレット様は赤くなりつつも、

「では、私のことはメグと呼んで下さい。・・・キャス」

 私は満面の笑顔になりますと、

「はい!メグ様!」

 ところが、マーガレット様はこれでもかと頬を膨らませてから、

「普通、そこで『様』は要らないでしょう!まったくもうっ!貴女って人は!ぶち壊しだわ!」

 と、言いますと、ぷりぷりしながら、歩いて行きます。


「メグー。待って下さーい!」

 私は後を追いました。


 ・・・レオ様。生まれて初めて、女の子のお友達が出来ました。私、本当はレオ様とたくさんお話がしたいです。





 基本、運動が苦手なキャスが実は泳げるという設定は、連載当初から考えていたのですが、やっと披露する機会があって、良かったです。

 前世では本当に魚のようになりたいと思い、良く泳いでいました。水泳なら、ぼっちでも出来ますからね。

 前世のことなので、体が覚えているわけがありませんが、そこは深く考えないでいただけたらなと思います。


 マーガレット様がキャスのお友達になりました。・・・ちょっと見直してくれたからかもしれません。

 次話からは『メグ』と表記されますので、よろしくお願いします。ローズマリーとごっちゃになる時がありましたので、助かりました。



 最後にレオ様はめちゃくちゃ走りましたので、膝がっくがくでした。でも、キャスの前では平気な振りをしていました。男の子ですね。




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