ヒロインの騎士
食堂でレオ様とローズマリー様は仲良くランチ中です。
お二人は本当に楽しそうなのですが、周りからは敵意や好奇心の目を向けられています。
それでも、ローズマリー様は堂々としています。さすがです!恋は人を強くするのですね!
あれ?今日はアーロンがいませんね。どうしたんでしょう。遠慮しているんでしょうか。
ですが!・・・今日に限っては良かったのではないでしょうか。
何故なら・・・。
食堂の出入口付近のテーブル席から黄色い声が上がりました。
リバーとシュナイダー様が現れたのです!二人とも凛々しいですよ!一瞬にして、場の空気が変わったようです。
二人はレオ様とローズマリー様を見ますと、そちらに向かって、脇目も振らず歩いて行きます。
「どうした?」
二人に気付いたレオ様が顔を上げると、
「殿下。ご一緒してもよろしいでしょうか」
と、シュナイダー様が言いました。
「ああ。もちろん」
レオ様は空いている席を手で示しましたが、ローズマリー様の方は二人の雰囲気に戸惑ったようで、
「わ、私、お邪魔なのでは・・・」
と、言いながら、腰を浮かします。
「いえ。貴女とご一緒出来る幸せを殿下だけではなく私とシュナイダーにも与えて下さったら、嬉しいのですが」
と、リバーはにっこり笑って言いました。
「えっ」
ローズマリー様はびっくりしたのか目を丸くさせました。
当然のことながら、レオ様が怪訝な目をリバーに向けましたので、
「誤解なさらないで下さいね。将来、レオンハルト殿下に仕える人間として、殿下の大切なご友人とお近づきになりたいと思ったまでの事ですから」
と、シュナイダー様が言いました。
「ええ。そうなんですよ」
リバーは大きく頷いて、「私とシュナイダーは五大公爵家の一員です。・・・王族方の盾である私たちは」
リバーはそう言いながら、ローズマリー様を敵視していた方々を射るような目で見ると、
「殿下の大事な方を守ることも役目だと思っていますから」
シュナイダー様は胸に手を当て、ローズマリー様の右側に立ってから、
「何かありましたら、私たちに何でも遠慮なく言って下さい。アンバー公爵家と」
リバーも同じ様に胸に手を当て、ローズマリー様の左側に立つと、
「カーライル公爵家は貴女の味方です」
まるで王妃様を守る騎士のようです!
リバーもシュナイダー様も素敵ですよ!
そんな一連のやり取りをテラスから見ていた私は拍手したいのを堪えてましたが、
「リバーもシュナイダーもノリノリですね。渋々、了承したとは思えないくらいですね」
と、隣のルークが言いました。
「役者さんの才能があるかもね」
台本は私が書きました。
二人は家名を出すのはちょっと・・・と、難色を示しましたが、今回だけお願いします!と、私が必死でお願いすると、何とか折れてくれました。
あー、それにしても、美しい4人が奇跡の共演ですよ!チケット、即完売ですね!(?)
ですが、足りません!
「ルークとアーロンがいたら、完璧なのに・・・。ルーク。今から行って、『自分も守ります!』って、言って来てよ」
「カサンドラ様が一人になってしまうじゃないですか。ローズマリー様の事もお守りしますが、自分は出来る限りカサンドラ様の側にいます」
「でも、ルークだって、レオ様と一緒にいたいんじゃないの?」
「いいんですよ!騎士になったら、生涯殿下に張り付きますんで!」
ぼっちは慣れてますが・・・ルークの気持ちはやはり有り難いもので・・・。
「ありがとう。ルーク」
と、私はお礼を言いますと、「さて、私たちは裏庭に行きましょうか!」
「はい!」
私とルークはランチボックス持参で食堂に行き、食堂のおばさまに詰めてもらって、裏庭で食べるのが最近の定番となっています。食堂のおばさまと仲良しになりました!
その後、リバーとシュナイダー様が目を光らせてくれるようになり、ローズマリー様は何事もなく、レオ様との関係を深めているようです。良かったです!
リバーとシュナイダー様はクラスが違うのに、守れるのか?と、思われるかもしれませんが、リバーには男女問わず、熱烈な信奉者がおりまして・・・『僕のお願いを聞いてくれたら嬉しいんだけど・・・』なんて、リバーが言うだけで、何でもやってくれるんですよ!はっきり言って怖いです!私、リバーの姉だと言うだけで、リバーの信奉者の方々に最敬礼されるんですよ!うちの弟は何なんでしょう!ただ笑っているだけなんですよ?!黒い笑みだと分かってるんでしょうか?!
ともかく、リバーの信奉者の方々にもローズマリー様を守る為に協力していただいていると言うわけなんです。
それから、シュナイダー様は同性人気が凄いですね。寡黙で何事にも動じないところが渋くて、カッコイイ!と言われているそうです。でも、ただの無表情なんですけどねえ。ちょっと誤解があるようです。渋くて、カッコイイには同意しますが。
もちろん、レオ様の人気も凄いです。レオ様はただそこに存在しているだけで、人を引き付ける力のようなものがありますからね。
けして、多くはありませんが、ローズマリー様に憧れている方々もいます。レオ様と身分の差を乗り越えて、結ばれてほしいと願っているそうです。こんな方がもっともっと増えてくれるといいですね。
と言うわけで、学園では、レオ様派、リバー派、シュナイダー様派の三大派閥が出来上がってしまっています。数では、何とリバー派が一番多いです。・・・本当に恐ろしい弟です。
ちなみにルークですが、ルークは私の護衛としてしか認識されてません。十分、整った顔立ちをしているのに・・・。何だかごめんね!
そんなリバーとシュナイダー様も週に一回は私とルークと一緒に裏庭でランチをします。現状報告会と言ったところですかね。
「変わったことはない?」
と、私は聞きました。
「ないよ。大丈夫。皆、本当に良くやってくれてるから」
と、リバーは言うと、にっこり笑います。
「私、何かお礼をした方がいいのかもしれないわね」
「うーん。あ、お姉様に笑っていただけたら、幸せです!って、言ってたよ」
リバーは肩をすくめて、「さすがに意味が分からないよ」
「ちょっと大袈裟な方たちね・・・」
さすがの私も呆れてしまいます。
リバーを教祖様のように思ってるんですからね。
「ただ、諦めているかと言えば、そうではないと思いますよ。カサンドラ様は殿下と会話をされていないでしょう?」
と、シュナイダー様が言いました。
うっ・・・。もうかれこれ一ヶ月近くになりますが、レオ様とは挨拶くらいしかしません。
「それをローズさんのせいだと思っている方がいるんですよ」
ん?ローズさん?
「し、シュナイダー様はローズマリー様のことを、ローズさんと呼んでるんですか?」
「え?ええ」
シュナイダー様が頷きます。
わ、私、ずっと『カサンドラ様』なのに・・・がーん。
私はショックを受けつつも、
「リバーは何て呼んでるの?」
と、聞きますと、リバーは首を傾げて、
「ローズだけど?」
ぎゃああああーっ!
レオ様に忠誠を誓っている二人ならローズマリー様の側にいても大丈夫だと思っていましたが・・・。
本当に大丈夫なんでしょうか?!




