見た目で得をする
私がついレオ様がローズマリー様をお妃様にするつもりでいる事を言ってしまい、マーガレット様はとても驚いていましたが、
「子爵令嬢と、将来、国王陛下となる事がほぼ決まっているレオンハルト殿下とではあまりに身分の差がありませんか?」
当然とも言える疑問を口にしました。
「それはローズマリー様は全属性持ちですし、何よりリリアーナ様の伝説があります。カルゼナール王国で、黒髪、黒い瞳の女性を王族方が娶ったことは一度もありません。リリアーナ様は我が国出身の女神です。その女神と同じ容姿であるローズマリー様なら、認められると思うのです」
と、私が力説しますと、マーガレット様はしばらく考え込んでいましたが、ややあって、それもそうかもしれないと言うように頷いてから、
「確かに。リリアーナ様の伝説を信じている人間は多いですものね。レオンハルト殿下がローズマリーさんを娶れば、一気に王族方の人気回復に繋がるでしょうね」
「はい」
私は大きく頷きました。
実は王族方と言うより、現国王陛下の人気はあまりありません。まあ、前国王陛下の人気があり過ぎたのですが。
国王陛下は実直で手堅い政策を打ち出していますが、国民の皆様にとっては退屈極まりないそうです。独自性に欠け、そんなの誰でも思い付くわー。なんて言われています。国王陛下に同情してしまいます。
もう一つ、国王陛下の人気を下げた理由がありますが、それはまたの機会にと言うことで。
「ですが、ローズマリーさんを娶ったことを喜んでくれるのは貴族以外の国民だけではないかしら。貴族だからこそ、身分差のある結婚を良しとはしないと思うのです。昼間、ローズマリーさんを取り囲んでいたのは、皆、爵位のある家の方でした。公爵令嬢であるあなたを差し置いて、レオンハルト殿下の側にいることが気に入らないんでしょうね。あのようなことがずっと続くと考えた方がいいと思いますよ」
マーガレット様はごもっともな意見を言いました。
「そうですね・・・何とかしないと」
私はうーん。と、唸ってましたが、「それにしても、クラスの方々には嫌われていると思ったのですが・・・それは子爵令嬢であるローズマリー様がレオ様に近づくことが気に入らないだけじゃなくて、言わば、私のためにしたってことですよね。何故でしょう?」
マーガレット様は何を分かりきったことを・・・とでも言うように肩をすくめて、
「それは貴女がレオンハルト殿下のお妃候補の筆頭だからでしょう。貴女とレオンハルト殿下の親密さは有名でしたよ」
「えっ?!」
「レオンハルト殿下の寵愛を一身に受けてるとか?毎日のようにカーライル公爵家に通ったり?五大公爵家の交流会ではお互いべったりだったとか?」
それから、マーガレット様は私とレオ様が親密だと思われていた理由を挙げていきました。
私はさすがに赤くなりました。
恥ずかしいです!いたたまれません!やっぱり、レオ様の過剰なスキンシップは良くなかったのです!レオ様のお馬鹿さん!
「まあ、それがなくても、貴女と双子の弟さんは美男美女の双子としても有名でしたから、皆さん、憧れているんでしょうね」
「やめて下さいよー。リバーはともかく、私なんて目つきが悪いだけですよー。そのお陰でちょっとキリっとして見えるんじゃないんですかねー」
と、私がけらけら笑って言いますと、
「貴女、鏡を見たことがないの?」
「見ますけど・・・?」
「貴女は口を開かずに変なことを言わなければ、あ、それから、あまり動かずにただ立っていれば、お綺麗ですよ?立ち姿は背筋が伸びていて、堂々として見えますし、歩く速さはゆっくり過ぎて、私なんかは苛々しますが、他の皆さんから見れば、優雅に見えるんでしょうね。貴女のことを遠巻きで眺めているだけではなく、少しだけでも関わりを持てば、見た目は綺麗でも中身はちょっと・・・って、分かるでしょうに。貴女って、見た目でとても得をしていますよ」
「・・・」
私、けなされているようにしか聞こえません!いいえ、けなされてます!
「それから、これは重要です!」
マーガレット様は身を乗り出すようにして、「カーライル公爵様はとても人気のある方なんです!」
「は、はあ・・・」
「パレードに出れば、カーライル公爵様の笑顔を見た女性たちは失神するのです!」
「えっ?!」
失神?!お父様はアイドルですか?!
「ですから、カーライル公爵様は公の場で笑顔を見せることは基本的に禁じられているのです!」
知りませんでしたー!いつも笑っている人だと思っていましたが、お父様の笑顔は貴重だったのですね!
マーガレット様は興奮を抑えるかのように一つ咳をしてから、
「と、言うことで、カーライル公爵様の人気の高さが貴女と弟さんの人気にそのまま繋がっているのです。そこのところをよーく知っておいて下さいね。立派なお父様の子であることに感謝し、誇りに思うべきですよ」
「はあ・・・」
私、親の七光りもあったのですね!
それにしても、マーガレット様は私の父の話をするのに、何故こんなに熱くなるのでしょうか?
「私・・・皆さんが良く思ってくれるのは有り難いですが、私なんかより、ローズマリー様の方がレオ様にはお似合いだと思うんですよね・・・身分違いの愛を貫くなんて素晴らしいと思ってくれないんでしょうかね・・・」
と、私が溜め息混じりに言いますと、マーガレット様の銀色がかった灰色の瞳がキラッと輝きました。ん?
「い、いいわね。身分違いの愛・・・私、同じクラスじゃないの。こんな身近で見られるなんて・・・私としては、伯爵様と牧師館の娘さんかコンパニオンがいいのだけど・・・王子様は身分が高過ぎるわね」
と、マーガレット様が何やらぶつぶつと言い始めました。「だけど、男性の方が身分が上なのだから、まあ、良しとしましょう。でも、レオンハルト殿下は放蕩者でないのが残念ね。ローズマリーさん以外の女性にはそっけないくらいだものね。放蕩者が真実の愛に目覚める様子が見たかったんだけど・・・あの放蕩者が目覚めるわけがないし・・・」
「・・・?」
マーガレット様がおかしくなりました。
私が心配しつつ、マーガレット様の様子を見ていますと、
「私、失礼致します!」
マーガレット様がいきなり立ち上がりました。えっ?!
「あ、あの食器・・・」
「洗っておいて下さいな!また後日、取りに伺います!」
と、マーガレット様は言いますと、勢い良く私の部屋から出て行きました。
一体、どうしたのでしょう?マーガレット様も挙動不審だったりするのでしょうか?
翌朝。
私とルークが教室に入ると、レオ様とローズマリー様がいつもの場所となっている窓際で仲良くお話をしていました。
順調、順調。と、私は喜びつつ、席に着くと、
「あ、マーガレット様。おはようございます」
前の席のマーガレット様に声を掛けました。マーガレット様が振り返ったので、「昨日はごち・・・」
ごちそうになって、ありがとうございます。と、言おうとしましたが、
「どっ、どうしたんですか?!目が真っ赤ですよ」
マーガレット様の目が血走っています。
「おはようございます。ちょっと読書をしていたものですから」
「はあ・・・そんなになるまで何の本を読まれていたのですか?」
と、私が聞きますと、マーガレット様は赤くなって、
「貴女には関係ありません」
と、言いますと、体を前に戻しました。ちぇ。歴史系なら貸してもらいたかったのに。
ホームルームが終わって、
「カサンドラ様は何の授業なんですか?」
と、ルークが聞いて来ました。
「歴史よ!昨日から楽しみで仕方なかったの!」
「良かったですね」
と、ルークは笑顔で言いましたが、その笑顔がサッと消えて、「殿下」
レオ様とローズマリー様が教室を出ようとドアに向かっているところでした。
私はお二人の通行の邪魔になっていたので、脇に寄りますと、
「おはようございます」
と、頭を下げました。
「・・・おはよう」
「おはようございます」
私はレオ様とローズマリー様の顔は見ませんでした。
レオ様とローズマリー様が教室から出て行って、私はホッと息を吐きました。
「カサンドラ様。いいのですか?」
私は頷きますと、
「いい機会です。レオ様と喧嘩したままなのは辛いですが、今はローズマリー様と離れていた時間を埋めるべく、お二人がずっと一緒にいればいいのです。きっと、仲が深まりますよ。それより、私はしなければならない事があるのです。リバーに昨日の夜、鳥さんを飛ばしたの。裏庭でランチを一緒にしましょうねって。もちろん、シュナイダー様もね」
「はあ・・・」
「五大公爵家の人間は私だけじゃないものね」
そう言ってから、私はにやりと笑い・・・。
「カサンドラ様・・・リバーと同じ笑みになってますよ」
何ですと?!




