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キャラメルとチーズケーキ

 女子寮。

 私はある方の部屋のドアをノックしました。

 少ししてから、ドアが開いて、

「・・・何ですか?」

 不機嫌そうに言ったのはマーガレット様で、若干、怯みながらも、

「今日はありがとうございましたー!」

 私はがばーっと頭を下げました。

 マーガレット様はやや面食らった様子でしたが、

「・・・ご自分で助けられたら良かったのではなくて?」

 私は顔を上げますと、

「い、色々とあるんですよ。私が手を出していいことではないのです」

「はあ・・・」

「あの、それで、これ、良かったら」

 私は紙袋を差し出しました。

「何ですか?」

「カーライル公爵領名産の牛乳たっぷりのキャラメルです!ローズマリー様を助けて下さったお礼です!」

 私、丁度、廊下を通り掛かったマーガレット様に助けを求めました。

 マーガレット様は当然のことながら困惑していましたが、ローズマリー様にひどい言葉を投げ付ける皆さんの声を聞いて、『あれはあんまりね』と言いますと、急いでローズマリー様を助けに行ったのです。とてもかっこ良かったです!姐御!と、呼びたいくらいです!

「・・・」

 マーガレット様はじっーと紙袋を見つめています。危険物ではありませんよ?

「お、お友達にあげなさいとあったんですけど、私、お友達がいませんし、あ、ルークたちには弟が配っていると思うので、私の方にはまだたくさんありますから、貰っていただけたら、有り難いのですが・・・」

「・・・ありがとうございます」

 マーガレット様は紙袋を受け取って下さいました。

 私は笑顔になりますと、

「ありがとうございます!」

 マーガレット様は赤くなりながら、

「あ、貴女が礼を言うのはおかしいでしょう」

「受け取って下さって、嬉しかったので。・・・では、突然お邪魔して申し訳ありませんでした。おやすみなさい」

 私は去ろうとしましたが、

「待って下さい」

 と、マーガレット様が呼び止めました。

「はい?」

「い、今、お茶をしようと思っていたところなんです。あまり日持ちしないお菓子がありますから、良かったら、そ、そのご一緒してくれませんか?」

 と、言ったマーガレット様は赤くなっています。

 私はびっくりしますと、

「ま、ま、ま、マーガレット様からお茶のお誘いですかぁっ?!」

 マーガレット様は更に赤くなりますと、

「い、嫌ならいいのですっ。わ、私は日持ちしないお菓子を食べさせてやろうと思ったまでですからっ」

「い、嫌ではありませんっ!嬉しいです!嬉し過ぎて、泣きそうです!」

「貴女は大袈裟なんです!」

 マーガレット様は更に更に赤くなりました。


「あのぅ、何故、私の部屋にわざわざ来るんですか?」

 お茶に誘って下さったので、では、失礼します。と、マーガレット様のお部屋に入ろうとしましたが、何故か全力で阻止されました。

 マーガレット様は自分の部屋から持って来たティーセットをテーブルに置きながら、

「い、いいでしょう。どっちだって」

「はあ・・・」

 私はやかん(やかんもマーガレット様の物です)に水を入れていましたが、ハッとして、「あ!マーガレット様のお部屋はとっちらかっているんですね?!」

「違います!」

「ほんとですかぁ?」

「貴女みたいにだらしなくありません!」

「私、部屋は綺麗ですよー」

 マーガレット様は私の部屋を見渡して、

「綺麗と言うより、あっさりしてますね。女性の部屋ではないみたい」

 シンプルがいいのです!カーライル家の私の部屋はお父様の女の子はピンクだろう!花柄だろう!レースにフリルだろう!なんて勝手な思い込みのせいで、主にピンクの花柄でふりふりな部屋なんです!私の趣味ではないのです!せめて寮の部屋くらい自分の好きにしたいのです!

 

「あの絵・・・とても上手ですね」

 額に入れて、壁に掛けてあるめだかさんの絵をマーガレット様が眺めながら言いました。

「はい!レオ様に描いてもらったんです!レオ様は絵がとっても上手なんです!私がカーライル家で飼っているお魚さんなんです!」

「魚を飼ってらっしゃるの?変わってますね・・・」

「可愛いですよ」

 私がめだかさんの絵を寮の部屋に飾ると言ったら、レオ様が新しく描いてくれて、額まで贈ってくれたのです。

 ・・・私、やっぱり、そんなレオ様に悪いことをしちゃったようです。いくら、ファーストキスを奪われたからって・・・往復ビンタを食らわすくらいで水に流せば良かったのかもしれません。


 私がそんなことを考えていますと、

「まあ、そんなに親しかったのなら、あの方たちに誤解されても仕方ありませんね」

 マーガレット様はケーキを切り分けながら言いました。

「そのケーキ、美味しそうですね・・・」

 チーズケーキのようです。

「ローズマリーさんがお礼にと持って来られたの。手作りだそうよ」

「ほおっ!さすがですね!」

 私は思わず、拍手をしてしまいましたが、ハッとしますと、「あ、でも、私が食べちゃってもいいんでしょうか」

「貴女に助けてと頼まれなかったら、私はローズマリーさんを助けることはなかったし、これをいだたくこともなかったわ。だから、いいのではないですか?」

「なるほど」

 物は考えようですね!

「気になるようでしたら、キャラメルを誰かから貰ったと言って、ローズマリーさんに渡しましょうか?」

「そうですね!ありがとうございます!姐御!」

 と、つい『姐御』と呼んでしまいますと、

「レディが使う言葉ではありません!」

 案の定、叱られました。ですよねー。


 そんなこんなで、私とマーガレット様はローズマリー様特製のケーキをいただきましたが・・・。

「・・・」

「・・・」

 一口食べた私とマーガレット様は顔を見合わせます。

「これ、塩と砂糖、間違えてるんじゃないかしら・・・」

 古典的な失敗です!ある意味、素晴らしいです!

「みたいですね・・・でも、塩が効いてて何故かしっとりしたチーズパンだと思えば何とかいけますよ・・・」

 奇跡的に不味くありません!

「・・・そうね。想像力を働かせましょう」

「・・・はい」

 それから、私とマーガレット様は黙々とチーズケーキを食べました。きっと、レオ様なら間違えているとちゃんとローズマリー様に言ってくれますよね・・・。


 その後、砂糖を多めに入れたミルクティーをいただいておりますと、

「貴女とレオンハルト殿下って、本当に何でもないんですか?」

 と、マーガレット様が聞きました。

「はい。今は喧嘩中ではありますが、レオ様と私は生涯の友なのです!」

 と、私はキリッとして言いましたが、マーガレット様は鼻で笑うと、

「男女の間で友情なんか成立するわけがないでしょう」

  ・・・どこかで聞いた台詞ですね。誰が言ってましたっけ?


「男女の友情は成立するのです」

 私は『成立』を強調しました。

「本当に?なら、あんな喧嘩が起こるわけがないでしょう」

 マーガレット様はまた鼻で笑いました。むぅ。「貴女、レオンハルト殿下とローズマリーさんの仲の良さに嫉妬したんじゃないの?」

「それは確かに、ローズマリー様と仲の良いレオ様が羨ましいですけど・・・嫉妬と言うと、違うような・・・」

「そっちじゃないわよ!」

 と、マーガレット様が強い口調で言いました。

「は・・・?」

 私がきょとんとしますと、マーガレット様は溜め息をついて、

「もういいです」

「は、はあ・・・」

 

 この後、キャラメルを口の中で転がしつつ(確実に太りますね・・・やばいです)、これと言って会話はありませんが、不思議と気詰まり感がないなあと私が思っていますと、

「それより、どうするんです?」

「はい?」

「ローズマリーさんへの攻撃があれで治まるとは思えないんですけど?」

「あ、そうですよね・・・」

 私は頷きながら、「ローズマリー様は将来の王妃様ですから、五大公爵家の一員である私がお守りせねば・・・」

 あー。ややこしいです。悪役令嬢をしながら、五大公爵家の一員として、ローズマリー様を守らなければならないのですからね。


 すると、マーガレット様が目を丸くさせると、

「王妃ですって?レオンハルト殿下はローズマリーさんを正妃にするおつもりなんですか?」

 私はハッとしますと、

「どうして、レオ様がローズマリー様をお妃様にしようと思っていることを知ってるんですか?!」

 マーガレット様は軽くテーブルを叩いて、

「貴女が今そう言ったのよ!」

「えっ!いつの間に!」

「・・・」

 マーガレット様は長い長い溜め息をついた後、額に手をやって、

「貴女と話していると、疲れます・・・」

 その声は誰が聞いても疲れていると分かる声で・・・。


 す、すみません。



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