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悪役令嬢vs王子様

 次のお休みにリバーたちと野鳥さんを見に行く計画を立てた私は上機嫌で3時限目の授業を受けました。


 3時限目が終わった後は、お茶の時間ですので、のんびり出来るなあと思いつつ、廊下を歩いていますと、

「キャス」

 レオ様が急に現れたので、

「ぎゃっ!」

 私は思わず、悲鳴を上げてしまいました。

 レオ様は眉をしかめて、

「そんなに驚く事はないだろう」

「す、すみません」

「話がある。ルークには言ってあるから」

「はあ・・・」

 ローズマリー様はいいんですか?と、私は聞こうとしましたが、また怒られたらいけないので口をつぐみました。


 私とレオ様は玄関にやって来ていました。お茶の時間にこんなところに来る人はいませんから、人気はありません。

「一昨日はきつい言い方をして悪かった」

「いえ。私も差し出がましい事をしていましたので、反省しています」

 レオ様はホッとしたように、笑みを見せますと、

「いや、キャスは私のためを思って言ってくれたのだから。・・・それで、話はもう一つあるんだ。ローズマリーとこれから仲良くしてあげて欲しい。ローズマリーは一人遅れて入ったから、まだ親しい友人がいないし、キャスも同性の友人が欲しいだろうから、ちょうどいいと思うんだ。ローズマリーはキャスと仲良くなりたいと言っていたから。どうだろう?」

 あくまで提案しているようですが、私が断るだなんて微塵も思っていないことでしょう。

 ですが。

「お断りします」

 と、私はきっぱりはっきりとお断りしました。


 レオ様にとっては晴天の霹靂だったようで、しばらく固まっていましたが、

「キャス・・・今、断ったのか?」

 レオ様は自分の頼みを私が断るなんて、思ってもみなかったんでしょうが、悪役令嬢であるこの私。これまでのカサンドラ・ロクサーヌとは違うのですよ!

 私はにっこり笑って、

「はい。何故なら、この私、レオ様が昨日おっしゃったように、押し付けがましい性格ですので、ローズマリー様と仲良くなったら、更に押し付けがましい事を言ってしまうのではないかと思うのです。ですので、お友達になるのは遠慮しておきます。私、本当に押し付けがましいですからね。ローズマリー様に不快な思いをさせたくありませんから」

 レオ様はまじまじと私の顔を見ていましたが、

「昨日のこと、怒っているのか?」

「まさか。私は子供の頃からレオ様に怒ったことなんてありませんよ」

 ・・・ええ。レオの過剰なスキンシップ、いえ、セクハラ行為をされても怒ったりなんかしませんでしたよ。

 ですが、仕返しをしないわけではありません。


 今がその時なのです!


 私はまたにっこり笑うと、

「それに、ローズマリー様はレオ様の子供の頃の話を聞きたいと思うんですよね。例えば、私と何をして過ごしていたのかとか」

 レオ様は首を傾げましたが、

「まあ、そうだな」

「でも、レオ様は困るんじゃないですか?私が子供の頃の話をローズマリー様に話したら」

「私が困る?」

 レオ様はまた首を傾げました。

「だって、レオ様は子供の頃、私にところかまわず、抱きついたり・・・」

「!」

 レオ様はギョッとしました。

「膝枕をしろとか、膝枕してやるとか・・・」

「そ、それは」

「私、ローズマリー様と仲良くなり過ぎたりしたら、うっかり話してしまうかもしれないじゃないですかー」

「気をつければいいだろう!」

 と、レオ様はやや強い口調で言いましたが、私はそれを無視して、

「あ、そうそう。レオ様はカーライル家に1週間滞在した事がありましたよね。それで、お帰りになる時、レオ様、私に何をしましたっけ?」

「!」

 レオ様はすぐに思い出したようで、真っ赤になりました。

「あんな事を私とレオ様がしていたと知ったら、ローズマリー様、ショックでしょうねー。あー、私、うっかり言ってしまうかと思うと、気が抜けないなあ。私、うっかりさんですしー、レオ様も気が気でないでしょう?私をローズマリー様に近付けない方がいいのではないでしょうか?あ、リバーも見ていますね!私とローズマリー様が仲良くなったら、リバーと一緒にローズマリー様と話す機会もあるでしょうね!双子の昔の話を聞かれたら、どうしましょう!私、リバーの口まで塞ぐことは出来ません!リバーは当時レオ様にとても腹を立てていましたから、つい勢いで言っちゃうかも!レオ様、どうしましょうか?!」

 と、私が畳み掛けるように言いますと、レオ様は唸るような声を出してから、

「分かった。・・・ローズマリーはキャスと違って、明るいし、人見知りではないから、私が世話をする必要はないだろう」

「・・・」

 『キャスと違って』を強調しましたね?私は少々ムッとしましたが、その通りですので、「ええ。ローズマリー様には上手く言っておいて下さい。よろしくお願いします」

 と、頭を下げますと、レオ様が何も言わないうちに退散することにしました!

「私、ちょっと用を思い出しましたので、失礼します!」

 私はレオ様に背を向けますと、両手で口を覆いながら、足早にその場から離れました。


 あー、声を上げて、笑ってしまいそうです!

 私、やりましたよ!

 悪役令嬢がローズマリー様と仲良くなるなんて有り得ない事態になるのを回避しましたー!

 私、レオ様に『押し付けがましい事を言うな』と、言われた時にピンと来たのです!


 リバー!お姉ちゃんはやりましたよ!

 レオ様のセクハラ行為にはさぞかし腹を立てていたことでしょう!

 お姉ちゃんはファーストキスを奪われたんですからね!これくらいの仕返ししたって、バチは当たらないでしょう!


 おーっほっほっほっほほーっ!!


 私、心の中で高笑いをしました。


 

 翌朝。私が寮の玄関を出ますと、

「あれ、レオ様」

 レオ様が立っていました。「おはようございます」

「おはよう」

 ふと見れば、向こうの方にルークもいました。

「ローズマリー様なら、もうすぐ来られますよ」

「ああ」

 私がレオ様の横を通り過ぎようとしたところで、「ローズマリーには上手く言っておいたから」

「そうですか。ありがとうございます」

「キャスは病的なまでの人見知りの神経質で、あまり知らない人間に親しげにされると腹を下すから、近寄らないでやってくれって言ったよ」

 レオ様は顎を上げながら、尊大な態度でそう言いました。

「は?」

 ・・・何ですと?


「あー、キャスから仲良く出来ないと言ってくれて、良かったよ。私のローズマリーにキャスの挙動不審でおかしなところが移ったら困るしな」

 レオ様はにやりと笑いますと、「あ、私がせっかく上手く言ってやったんだから、しばらく他の生徒にも近付かないでくれるか?ローズマリーがお前に嫌われていると誤解して、悲しむところなんか見たくないからな。まあ、お前に嫌われたところでどうってことないが」

「なっ」

 私はムッとしますと、「私がお友達を欲しがっていることを知っているくせにそんなことを言うんですか?おなかを下す?レディに対して、失礼ではないですか。もっとまともな言い訳がいくらでもあるでしょう?それに挙動不審が移るわけがないでしょう。昨日、私に言い負かされたからって、あんまりじゃないですか。レオ様って、ほんといい性格してますね」

「私はキャスなんかに負けてなどいない。馬鹿馬鹿しくて、まともに相手をする労力を使いたくなかっただけだ。レディ?そんなものがどこにいる?人を脅すような真似をするのがレディか?!あんな子供の頃の話を持ち出しやがって!頭がどうかしてるんじゃないか?!恥を知れ!」

「はあ?!こっちの台詞ですよ!レオ様があの頃に恥を知っていてくれれば良かったんですよ!私が交流会でどれだけ恥ずかしい思いをしたと思ってるんですか!」

 私とレオ様は段々とヒートアップしていきます。

「お前の挙動不審と『ども噛み』の方が恥ずかしかっただろっ?!子供の頃から、何度失敗したと思ってる?!ああっ!失敗が多過ぎて分からないか!お前はほんとに酷いものだったからな!笑いを堪えなきゃいけなかったこっちの身にもなってみろ!」

「いいえ!レオ様の変態行為の方が恥ずかしいです!」

 レオ様は顔を真っ赤にすると、

「変態?!お前なあ、言っていいことと悪いことがあるぞ!」

「していいことと悪いこともありますよ!それにさっきから、お前、お前って呼んでますけど、お前なんて呼ばないで下さい!何様のつもりですか!」

「お前より、まともな人間のつもりだ!」

「よっくもそんなことをっ」

 と、私が言いかけたところで、

「殿下!カサンドラ様!」

 ルークが飛んで来て、「何をやってるんですか!皆に見られてますよ!」

 私とレオ様がハッとして、周りを見ると、皆さんが私たちを見ていました。皆さん、言葉を失っている様子です。

 そして、ローズマリー様も同様でした。


 私は恥ずかしさのあまり頭に血が昇るような感覚に襲われつつも、

「何って、レオンハルト様がご機嫌ナナメで私に当たって来るんですよ!」

 と、あえて皆さんに聞こえるような声で言いました。

 レオ様は側にいる私にだけ聞こえるくらいの舌打ちをしてから、

「ローズマリー。おはよう。行こうか」

 と、とってもにこやかに言いました。

「おはようございます。レオンハルト様。シャウスウッド様。ロク」

 と、ローズマリー様が言いかけて、

「あー、いい、いい。このカーライル公爵家の令嬢に声なんか掛けなくていい」

 と、レオ様はローズマリー様が私に挨拶をしようとするのを止めると、「昨日も言ったが、これが大変な事になるから」

 そう言ってから、私のおなかの辺りを見て、鼻で笑うと、さっさと歩いて行きました。むーっ!

 ローズマリー様は私に同情するような眼差しを向けつつ、頭を下げると、レオ様の後を追いかけました。


 ・・・こうして、子供の頃から、一度も喧嘩をしたことがなかったレオ様と私の仲は険悪なものとなってしまったのです。



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