ヒロイン登場!
その人が現れた瞬間、周りの誰もがその清らかな美しさに目を奪われました。
まず初めに目に入るのはその人の長い黒髪。全く癖のない艶やかな髪は風に吹かれて、ふわりと揺れました。
特に印象的なのは、この世界で最も高価な宝石で、この国では王妃となる女性しか身につけることを許されていないブラックダイヤモンドの様に輝く黒い瞳です。その瞳は見る物全てが珍しいのか、好奇心で更にキラキラと輝いています。
聡明さを感じさせる綺麗な曲線を描いた眉、長い睫毛で縁取られた大きな目、素晴らしく形の良い鼻、ほんのりと赤い可愛らしい唇、その全てが小さな顔にバランス良く配置されています。
更に、雪のように白く、きめ細やかな肌!
更に、更に、華奢ながらも、女性らしい体つき!
もう全てが完璧です!まるで、女神のような美しさ、神々しさです!
ついに、ついに、『魔法学園でつかまえて』のヒロインであるローズマリー・ヒューバート様が登場しました!
ローズマリー様は皆さんの視線に気付かないのか、真っ直ぐ玄関に向かって、軽やかに歩いて行きます。歩き方も美しいです!
そして、その玄関にはレオンハルト様が立っていました。こちらも目立っています。
鳥さんで連絡を取り合っていたのでしょう。今日、初登校する事が分かっていたようですね!レオンハルト様はローズマリー様を待っていたのです!
レオンハルト様は一刻でも早く、ローズマリー様との再会を喜び合いたいのか、自分からローズマリー様の元へと歩いて行きました。それに気付いたローズマリー様が笑顔を浮かべると、駆け出しましたが・・・あっ!何もないところでつまずきました!んんっ?!
すると、レオンハルト様が咄嗟にローズマリー様を抱き留めました!ぎゃあっ!
お二人は転ばなかったことにホッとしたようですが、まるで抱き合っているような状況に気付き、パッと離れました。
お二人とも、顔を赤らめています!ぎゃあっ!初々しい!
朝っぱらから何をやっているんでしょうか!私も赤くなってしまったではないですか!
それから、お二人は再会を喜んでいるのか、とってもいい笑顔でお話をされています。
私は満足して、うんうんと頷きますと、
「ね?レオンハルト様の理想通りの人がいたでしょう?」
と、隣のルークに声を掛けますと、
「・・・」
ルークがぽーっとしています。ローズマリー様に見とれているようです。
私は慌てて、ルークが持っている双眼鏡をつかんで、
「ぽーっとして、落とさないでね。これ、おこづかいを貯めて買ったんだから!」
色んなイベントを逃してはならないと思い、長年、おこづかいを貯めて、やっと買った双眼鏡です!前世の物とは違い、高性能ではないくせに、とっても高かったのです!壊れたら、大変です!
ちなみに私の母はどうしてこんな物を欲しがるの?と、嘆きました。
「あ」
ルークはやっと我に返って、「だ、大丈夫です。落としませんよ」
「私の言う通りだったでしょう?だから、ルークも協力してね」
ルークは首を傾げて、
「自分は何をすればいいんですか?」
「今のところはこれと言ってないんだけど、(ゲームなら)私の取り巻きがローズマリー様に危害を加えようとするのよ。ローズマリー様が危ない目に遭わないように守って欲しいのよ」
ルークはこれでもかと眉をしかめて、
「カサンドラ様・・・取り巻きなんてどこにいるんですか?妄想ですか?」
「うっ」
しょうがないじゃないですか。声を掛けても逃げられるんですから。
本当なら取り巻きAであるマーガレット様は私をとても嫌っているし・・・。
ですが、私は本当は取り巻きではなく、お友達が欲しいのです!
なら、お友達がローズマリー様に危害を与えるなんて、ダメですよね・・・。
「と、取り巻きのことは忘れて下さい」
「はあ・・・」
「と、ともかく、レオンハルト様は慎重なんだかへたれなんだか知らないけど、ローズマリー様にちゃんと意思表示をしていないようなの。そこで、私が邪魔する事によって、二人の気持ちを盛り上がらせて、結ばれるようにしたいのよ」
「はあ・・・」
「・・・」
ルークは要領を得ないようです。
「えっと、身分違いの恋のお話とか読んだことある?そんな話にはヒロインの恋敵が絶対必要なの!いるといないとでは、全然違うの!」
ルークはやっと理解して来たのか、ポンと手を打つと、
「そう言えば、前に妹たちが恋愛小説を読んで、この身分だけが取り柄の令嬢が邪魔だとか騒いでました!」
「それよ!その身分だけが取り柄・・・は、本当にそうだけど、憎まれるべき恋敵を私がやるのよ!レオンハルト様はローズマリー様に私のことをどう話しているのか分からないけど、レオンハルト様を好きなローズマリー様からしたら、私はいるだけで邪魔だと思うのよね」
「あのー。ローズマリー様が殿下を好きなのは決定事項なんですか?お会いしたこともないのに、何故知ってるんです?」
「さっきのを見れば分かるでしょう?それにしても、お似合いだったわねえ。まるで絵に描いたような二人だと思わない?」
私がうっとりとして言いますと、
「確かに」
と、ルークが頷きます。
「ローズマリー様程、レオンハルト様のお相手としても、将来の王妃様としても相応しい方はいないわ。レオンハルト様も妃にと望んでいるのよ。はっきりそう言ったわ」
すると、ルークが目の色を変えて、
「それを早く言って下さいよ!殿下がそうはっきりと断言されたのなら、自分は協力を惜しみません!」
「あ、そう。良かった」
回りくどい言い方をしなければ良かったですね。「じゃあ、ルーク。私の専属騎士はもういいから、将来の王妃様であるローズマリー様を守ってあげてね」
ところが。
「ダメです」
と、ルークがきっぱりと言いました。
「な、何故」
「自分はカサンドラ様を生涯守ると誓いましたので、いくら、殿下のお妃様になる方とは言え、カサンドラ様の専属騎士を退く訳にはいきません」
ルークは意味もなく、キリッとしています。
「・・・」
・・・この義理堅さは何なんでしょう。一体、私の何がルークにここまで思わせるのでしょうか?
私が内心、首を傾げていますと、
「ところで、気になっていたんですが、カサンドラ様は何故いきなり殿下の事を『レオンハルト様』と呼んでいるんですか?」
「ああ。そういう設定なの。レオンハルト様にもカサンドラ嬢って呼んでもらおうかなと・・・」
「やめて下さい。殿下が機嫌を損ね、いや、拗ねます」
ルークはとても真剣な表情になって言いました。
「でも」
「だいたいローズマリー様の恋敵になりたいのなら、殿下と仲が良いところを見せ付けることも必要なのでは?愛称呼びをした方がいいに決まってます」
はっ!ルークの言う通りです!
「分かった!レオ様って呼びます!キャスって呼んでもらいます!」
と、私は張り切って言いました。それにしましても、「ルークって、思ったより頼りになるのね!」
ルークはにっこり笑って、
「カサンドラ様が頼りにならなさ過ぎなんですよ」
なぬっ?!
あー、良かったです。レオンハルト様って、長いから、ローズマリー様と続けて言いますと、疲れますもんね。
愛称って、素晴らしいですね!
今更ですが、レオ様!愛称で呼べと言って下さって、ありがとうございます!
やっと、ローズマリー様が登場しました。
ローズマリー様の外見の説明から分かると思いますが、レオ様の理想の女性の特徴はとてもありがちなものです。




