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選択と苛立ち

「じゃあ、キャスも怖がられたんだ」

 リバーが私の頭をなでなでして慰めてくれています。

「うん・・・目つきが悪いせいかしら。それとももう学園生活3日目で変な女だってばれたのかしら」

 現在、食堂のテラスの階段を降りたところにあるお庭でお茶をしています。この庭にはテーブル席が50席ほどあります。昼食時やお茶の時間にも利用出来ますが、上級生が占領していますので、下級生は放課後だけ利用出来るようになっています。

 私、今日も女の子に話し掛けましたが、恐れ多いです!なんて言って、逃げられました。意味が分かりません。


「いや、同じクラスの人間には1日目でばれてると思うぞ」

 と、レオ様が超真剣な顔で言いました。な、何ですと?!

「じゃあ、もうどうしようもないじゃないですかー!」

 私が頭を抱えますと、

「カサンドラ様。大丈夫ですよ。カサンドラ様の良さを分かってくれる方は必ずいますから」

 と、シュナイダー様が優しく声を掛けて下さいます。

「シュナイダー様・・・ありがとうございます」

 何て有り難いお言葉でしょうか!

 私が感動していますと、

「リバー。カサンドラ様もって、言ってたけど、リバーも怖がられてるの?」

 と、ルークがリバーに聞きました。

「うん。昨日から、何度か僕を見ている人たちに向かって笑ってみたんだけど、悲鳴を上げられて・・・。あれかな。カーライル家は家族全員火を噴くと思われてるから、そのせいかもしれない」

「そんな風に思われてるのか?!」

 レオ様は大笑いして、「キャスが火なんか噴くわけがないのにな!」

「お父様しか噴きませんよ」

 私はうんうんと頷いていますと、

「カーライル公爵様もさすがに火は噴きませんよ」

 シュナイダー様・・・。私もそれはもちろん分かってますよ?


「ところで、アーロン、君はどうしたの?」

 と、私は聞きました。

 ゲームプレイ中は『アーロン』と頭の中で呼び捨てをしていたので、思わず、呼び捨てしそうになってしまいます。気をつけなければなりません。

「先生に話があるって、職員室に行ったよ」

 と、リバーが答えました。

「教科の選択を迷っているそうですよ」

 と、シュナイダー様が眼鏡をくいっと上げてから、「彼が魔術師を目指すのであれば、最初からそのつもりで選択しなければなりませんからね」

「全属性持ちなら、魔術師を目指すべきだが、もし、そうでないのなら、無理に高度な魔法を覚える必要はないからな」

 と、レオ様が言いました。

 攻撃魔法の科目は3つのレベルに分かれます。レベル3は魔術師を目指すなら、必ず選択に入れなければなりません。とても厳しいそうですので、高度な魔法が出来る俺って、かっこ良くない?みたいな感じで、ただ箔を付けたいだけで選択しようものなら、えらい目に遭うそうです。


「リバーはどうするの?」

 私、出来るだけ多くリバーの授業を見学したいと考えていますので、聞いておかなければ!

「攻撃魔法は3だけ取ることにするよ。僕は属性が少ないけど、学園を卒業したら、カーライル家の魔法を覚えないといけないだろう?だから、補助魔法を出来るだけ覚えておきたいし、それに、剣術もやりたいし、領地管理も学びたいからね」

 そうなんです。多くはありませんが、魔法、魔術関係以外の授業もあるのです。

 実は私、歴史と経営学の授業を取ろうと思っています!

 何故かと言いますと、歴史はもちろん好きだからです!他国の歴史もたくさん知りたいのです!

 そして、この世界の経営学は会計学とごっちゃになってますが、どちらも私の目標に役立つと思いましたので、取ることにしました。

「あ、シュナイダー様。治癒魔法系の授業は取りますか?」

「ええ。私はカサンドラ様ほど高い能力はありませんが、治癒魔法系は分かれてませんから、一緒に学べますね」

「はいっ!」

 私が嬉しそうに言いますと、

「へえー、良かったねえ」

 とかなんとか言いつつも、リバーはじとっとした目で私とシュナイダー様を見ています。全然良かったなんて思ってないでしょう!


 そこへ、

「アーロン」

 リバーがこちらに来るアーロンに気付いて、手を振ります。

 アーロンは駆け寄って来ると、

「カサンドラ様。こんにちは」

「こんにちは」

 アーロンが空いてる席に座ろうとして、私は目を丸くさせると、「まあ!アーロンったら、背中が埃だらけになってますよ!」

 私は立ち上がると、アーロンを引っ張って、テーブルから離れると、背中についた埃を払いました。

「か、カサンドラ様!いいですよ!手が汚れます!」

「手なんか洗えばいいのです!それより、どうしたのですか?」

「ちょっと転んだんです」

 アーロンは恥ずかしそうに言いました。

 ・・・どこで転んだら、こんなに埃・・・土埃でしょうか?こんなに付くんでしょう?

「怪我はないですか?」

「はい」

「制服はお洗濯に出した方がいいと思いますよ?」

「はい。そうします。ありがとうございます」

 アーロンはにっこり笑いました。


「私、手を洗って来ますね」

 私が手を洗いに行こうとして、

「自分も」

 と、ルークが立ち上がりかけましたが、

「私が行く」

 と、レオ様がそれを止めるように手を挙げてから、「丁度、洗いたかったんだ」

「・・・」

 ・・・また何か文句があるんでしょうか。私、毎日、レオ様からお小言をいただいているような気がします。レオ様はお母様のようです。


 庭の隅にある手洗い場で私は手を洗いながら、

「レオ様。何か文句でもあるんですか?」

「別に。ただアーロンと親しいのかなと思って」

「・・・?」

 ゲームキャラとして知っていたので、アーロンの事は全く知らない人とは思えませんが、「私、基本、人見知りですし、クラスも違いますし、まだ3日ですよ?・・・どうしてそんなことを?」

「アーロンって、呼び捨てにしてたから・・・」

「あ」

 ついうっかり呼び捨てにしてしまいました。ま、まずい!「あ、あれはリバーにつられたんですよ。双子ですからねー。あははー」

 とりあえず、笑ってごまかしましょう!

 

 手を洗った後、私はレオ様と皆さんの所へ戻りながら、

「レオ様。私、話しておきたい事があって・・・」

「うん?」

「闇の属性の事です。私の父に聞いてますよね?」

「ああ。カーライルは大袈裟だよな。私は闇に堕ちたりしないよ」

「確かに、父は心配性なところがあるかもしれません。でも、レオ様はすぐ一人で抱えちゃうから、私も心配なんです」

 皆さんの選択の話で思い出したのですが、1年生時の闇の属性の授業は少ないのです。私がどうしても取らなければならない授業と重なってしまった事もあり、見学出来ないのです。だから、心配なんです。


 すると、レオ様はふっと笑って、

「そうだな。私は妹にあんなに酷い事をしていたんだ。そんな心配をするのは当然かもしれないな。おまけにキャスは実際に見たんだから、私が怖いんじゃないか?」

 私はびっくりしましたが、

「私、レオ様を怖いなんて思ったことありません!」

 と、やや強い口調で言いますと、「それに、シーア様の事はもういいじゃないですか。今は上手くいっているんですから。私、あんな事があったから心配しているわけではありません。・・・ただ、あの魔術師は本当はとても真面目な人だったと聞きました。それに、例えに出すのはおかしいかもしれませんが、あの魔女だって、優しい方だったんでしょう?何がきっかけで闇に堕ちるかなんて分かりません。レオ様自身のせいとかじゃないんですよ」

「・・・」

「父が言ってました。闇に引きずられないようにする為には、本人の努力だけじゃなく、周りの支えが必要だって。これから、レオ様は私やルークよりもローズマリー様と一緒にいる事が多くなるでしょう?ですから、ローズマリー様にきちんとお話をして、支えてもらえるように・・・」

「キャス」

 レオ様は私の話を遮るように、「キャスにローズマリーとのことをどうこう言われたくない」

「え・・・」

「前からキャスは私とローズマリーの事に口を出して来るが、キャスに言われなくても、私はローズマリーを妃にするつもりでいるし、ちゃんと上手くやっていく」

「分かってます。でも、私はレオ様とローズマリー様に幸せになって欲しいから、何かしたいと思っているだけなんですよ。私、レオ様のために何でもしますから」

 と、私が言いますと、レオ様はまるで私を睨むように見て、

「そうやって、押し付けがましい事を言うなよっ」

 と、声を荒らげました。

「ー・・・」

 私が思わず、びくりと体を震わせてしまいますと、レオ様はハッとして、

「す、すまない」

「・・・いえ、こちらこそ、すみませんでした」

 私は頭を下げますと、「・・・」

「キャス?」

 レオ様が私の顔を覗き込もうとしましたが、私は俯いたまま、

「私、先に帰ります」

「え・・・」

「すみませんっ!」

 私は駆け出しました。


 レオ様は呼び止めましたが、私は止まりませんでした。

 

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