美しい丘で眠る
「うわー。素晴らしい見晴らしですねー」
現在、カーライル家とアンバー公爵家の皆様でシュナイダー様の御祖父様のお墓参りに来ています。
お墓はアンバー公爵家のお屋敷を見下ろせる丘にあります。緑に囲まれたとても美しい丘です。
葬儀の日とは違って、今日は透き通るような青空です。
「ここだとシュナイダー様の御祖父様も寂しくないですね」
「ええ」
私の隣に立つシュナイダー様は頷きました。
それから、皆で白いカーネーションをお墓に供えてから、祈りを捧げます。
私は事件が解決した事に、無駄かもしれない事でも、何でもやってみる・・・。私しか出来ない事を探す・・・。自分がこれからしようと思っている事をシュナイダー様の御祖父様にお話しました。
私が目を開けると、シュナイダー様が私を見ていました。
「?何ですか?」
「・・・祖父にたくさん話をしてくれているのかなと思っていたんです」
私は赤くなりつつ、
「な、内緒話ですからね。言いませんよ?」
「そんなこと聞きませんよ」
シュナイダー様は苦笑いしました。
私は目を細めますと、
「シュナイダー様が元気そうで良かったです」
「・・・落ち込んでいる暇がなかったと言うのが正直なところですけど・・・」
と、シュナイダー様は言うと、少し頬を赤らめて、「カサンドラ様のお陰です」
「え?」
「泣けた事が良かったのだと思います。楽になれました」
「シュナイダー様・・・」
・・・あの、雨の日のことですね。
「ありがとうございます。カサンドラ様」
「い、いいえっ」
そ、そう言えば、あの時、私、シュナイダー様と抱き合っ・・・ぎゃあ!違います!そんなんじゃありません!私ったら、何を考えているのでしょう!シュナイダー様は悲しんでいたと言うのに、不謹慎です!
「・・・カサンドラ様?」
シュナイダー様が私の顔をじっと見つめていました。ぎゃあっ!
「は、はい?!」
「顔、赤いですよ?」
「そんなことありませんっ」
私はぶんぶん首を振りました。
「でも・・・」
とかなんとかやっていると、
「キャスー、シュナイダー君ー。いきますよー」
私の母が呼んでます。「お父様とリバーが苛々してるからー」
「?」
苛々?・・・私が父とリバーを見ると、二人して、シュナイダー様を睨んでいます。ひぃっ!やめて下さいー!
「まあまあ、二人ともそんなに私の息子を睨まなくても良いでしょう。話をしているだけなんですから」
と、アンバー公爵様が宥めて下さいましたが、
「はあ?娘のいない君に分かるものか」
と、父は噛み付くように言います。
リバーがうんうんと頷きます。
「おい。アンバー。私の娘を義理の娘にしてやろうなんてことは思ってないだろうな?」
と、父が睨みを利かせつつ言いますと、アンバー公爵様はにっこり笑って、
「うちは大歓迎ですよ」
「何だってっ?!そんなの絶対許さないからなっ!」
父は火を吐きそうな勢いですが、アンバー公爵様は穏やかに笑っているだけです。
「おい。アンバー。この際だから言っておく」
父はアンバー公爵様を指差して、「私は昔っから、あんたのその何も可笑しくもないのに、笑っているところが嫌いだったんだ。じいさんの無表情よりタチが悪い」
「人を指差すのは良くないですね」
アンバー公爵様はやっぱり笑顔を崩さず、「嫌いですか。残念ですね。私は昔っから、アンドレの表情豊かなところが好きだったのに。昔、私の前で泣いてた事もありましたよね」
「!」
父は真っ赤になると、「嘘を言うな!それから、その呼び方はやめろ!」
と、ほとんど叫ぶように言いました。
父とアンバー公爵様は子供の頃はとても仲が悪かったそうです(と、カーライル公爵が言い張っているだけ)。取っ組み合いの喧嘩をしたこともあるとか。性格的に真逆ですもんね。今だって、一つ年下の父の方が敬語を使わないんですからね。自分の方が五大公爵としては先輩なので、先輩風を吹かしているんです。困ったお父様です。
アンバー公爵様の方は父の事をやんちゃな弟のように思っているそうです。
シュナイダー様は首を傾げて、
「私の父とカーライル公爵様は一体どうしたんでしょうね?・・・それに、さっきから、リバーがやたらと私を睨んでいるような気がするのですが・・・」
と、不思議そうに言いました。
私はわざとらしく笑うと、
「き、気のせいですよー」
知らない方がいいです。知られたら、気まずくなります!
そして、私たちはシュナイダー様の御祖父様が眠る丘を後にしました。
・・・また来ますね。
その1ヶ月後に、ジャスティン殿下が王位継承権を放棄する事が公に発表されました。
ジャスティン殿下が学園を卒業されるまではダンレストン公爵様が五大公爵の職務を代行することになりました。
ジャスティン殿下は現在、学業の傍ら、新しい公爵家の立ち上げに向けての準備をしています。レオ様はその手伝いをしているそうです。
犠牲となった方々の事もありますので、サラ姉様との結婚はずっと先になるようで・・・。
サラ姉様は『悲劇の令嬢』などと呼ばれるようになりましたが、サラ姉様と結婚をしたいが故、ジャスティン殿下は王位継承権を放棄されたわけですから、世の女性たちはそこまで愛されているサラ姉様に憧れを抱き、早くお二人が結ばれる事を願うようになったそうです。もしかしたら、思ったより早く、お二人の結婚式を見られるようになるかもしれませんね。
それから、今回の事件の連帯責任として、全ての五大公爵家が公かつ、華やかな行事への参加が無期限で禁止となることが決まりました。
私たちの社交界デビューもなくなりました。あんなにダンスを頑張っていましたが、仕方のない事ですね。
同じく交流会も禁止となりました。レオ様が言っていたように国王陛下は交流会への参加はあまり乗り気ではなかったようなので、いい機会だと思ったのかもしれません。交流会の費用は主催する公爵家の負担だったので、何も禁止することはないと思うのですが・・・。
こう言ったところでも、国王陛下と五大公爵の溝の深さが浮き彫りとなったようです。
今後、国王陛下ご自身が考えを改め、溝を埋める努力をするのか、その前にレオ様が退位を迫るのか・・・どうなるのかは分かりませんが、いつか、皆が幸せだと思える日が来ればいいなと思います。
レオ様にはローズマリー様がいますが、私を守ると言ってくれたレオ様の為に私も何か出来たらいいなと思うようになりました。何が出来るのかは分かりませんが、私にだって、何か出来るはずですよね?
そして、時は流れて、私たちが『魔法学園』に入学する日がやって来たのです。




