お帰りなさい
「えーと、なんだっけ。君たちと話してると横道に反れるな」
お父様ー。人のせいにしないで下さいー。
「そう。それで学園に入れば、王族方は生徒の模範になることを常に求められる。学園内で肩の力を抜ける事はそうないだろう。・・・特に殿下はこれから大変な思いをするはずだ。だからこそ、幼い時から一緒にいる君たちの支えが必要になると思う。君たちだけは本当の殿下を知って、理解してあげて欲しい」
と、父はそこまで言ってから、ルークを見ると、「君は特に殿下を崇拝しているけど、殿下は完璧な人間でも神でもない。弱いところもあるし、間違える事もある。間違えたら、間違っているとちゃんと言ってあげること。きちんと意見出来る勇気を持たないと、殿下が君を頼ることはない。いいね?」
「はいっ!」
と、ルークが元気良く答えたので、父はよし。と、言うように頷いてから、
「殿下は本当に人に頼ることが苦手だ。すぐに一人で抱え込んでしまう。だから、君たちから声を掛けてあげて欲しい。苦しい時は苦しいと、悲しい時は悲しいと、人に打ち明ける事が恥ずかしい事ではないと分かってもらえるようにして欲しい。殿下が闇に引きずられないようにする為には本人の努力だけでなく、周りの支えも必要だ。頼んだよ」
「はいっ!」
と、私とルークは答えました。
「それから、闇の属性を持つのは何も殿下だけではない。シュナイダー君もそうだ。けして、多くはないだろうけど、他にもいるだろう。もし、誰かが一人で苦しんでいたら、声を掛けてあげなさい。人と話をしているだけでも、気が紛れるらしいからね」
「はいっ!」
父は私を見て、
「それから、最後になるけど、キャス」
「はいっ」
何でしょう?!私、頑張りますよ?!
「殿下とはそれなりの距離を保つようにね」
何だー。そんな事ですかー?
「大丈夫ですよー。お父様ったら、心配性ですねー。レオ様は子供の時みたいにやたらとべたべたしなくなりましたから、大丈夫ですよー。レオ様も大人になったんですねー。だって、レオ様には・・・」
そうでした!レオ様にはローズマリー様がいるんでした!
「お父様!」
私はがばーっと、立ち上がり、「レオ様も愛する人には自分をさらけ出せると思うのです!だから、大丈夫なんです!」
「殿下の愛する人・・・」
父は初めて聞いた単語のように呟きます。
「苦しむレオ様をその方は優しく抱きしめて・・・『大丈夫ですよ。私がいますからね』って、言うんです!そして、レオ様は『君がいれば、私は他に何も要らない。君がいれば、私はいくらでも強くなれる』って、言うんです!ぎゃー!」
ゲームでのイベントです!それが現実に起こりますよ!
「・・・」
「・・・」
父とルークは一人盛り上がる私を唖然として見ていましたが、
「ルーク君。申し訳ないが、娘の事も頼む。これはリバーだけには手に負えない」
「はいっ!カサンドラ様の妄想癖は承知してます!どーんとお任せ下さい!」
ルークはどんと胸を叩きました。
なぬっ?!も、妄想癖?!
話を終えた父が王城に戻る事になり、
「キャス。もう大丈夫だからね。池の掃除も出来るようになったから」
「でも・・・私、お屋敷に閉じこもっていた方が安心ですよね?」
と、私が言いますと、父は私の頭を撫でて、
「五大公爵家の一員としての自覚は持っていて欲しいが、私はキャスが好きな物を諦めるなんて事はして欲しくないよ。キャスはキャスらしく生きて欲しい。・・・まだ辛いと思うけど、キャスも一人で苦しむ事なんてない。リバーだって、将来の五大公爵として、苦しむ事があるだろう。・・・お互い支え合って、強くなろうとしているリバーを応援してあげて欲しい」
「・・・私のせいで、リバーは無理をしませんか?」
「なら、リバーが無理をしないようにキャスが注意すればいい。お姉さんだろう?」
私はハッとして、
「はい!私、リバーのお姉さんです!私にも出来る事ありますよね?!」
父は頷いて、
「キャスには出来ない事が多い。だが、それは何もキャスだけではない。だから、自分を卑下する事はない。そして、キャスにしか出来ない事も絶対にあるはずだ。焦らなくていいんだ。ゆっくり見つけていけばいい。・・・そして、見つけたら、大事に育てて行くんだよ」
「はい!」
と、私が元気良く言いましたが、父は黒い笑顔を浮かべて、
「でも、結婚相手を見つける必要はないからね」
・・・もう。お父様ったら、こんな時に何を言ってるんでしょうね。まったくー。
ともかく、今回の事件は終結となりました。
でも、たくさんの方が犠牲となってしまいました。
・・・それに、ダンレストン公爵家はどうなってしまうのでしょう?
この事でサラ姉様とジャスティン殿下の結婚がなくなったりなんかしませんよね・・・?
その日、帰って来ると思っていたのに、お父様もリバーも帰って来ませんでした。
私は何だか不安で眠れませんでした。
翌朝・・・目を覚ました私が時計を見ると、いつもより寝坊してました。昨日なかなか寝付けなかったせいですね。
何だか寝足りないなあ・・・と、思いつつ、私がぼーっとしていますと、
「おはよう」
と、声がしたので、
「おはよう」
と、私は返しました。
「今日はお寝坊さんだね」
「うん。昨日、なかなか寝付けなかったの」
「どうして?」
「だって、リバーが帰って・・・るっ?!」
声がした方に顔を向けると、私の勉強机の椅子にリバーが座ってました。「か、帰ってたの?!」
リバーは笑っていましたが、立ち上がると、私の側に来て、
「ただいま。キャス」
「り、リバー・・・」
私の目から涙が溢れます。
リバーはベッドに座ると、私を抱きしめました。
私もリバーを抱きしめ返すと、
「うっ。うっ。ほ、本物だ・・・リバーだ。ううっ。本物だよねぇっ?!」
「当たり前だろう」
リバーはくすくす笑います。
「うっ。うっ」
私は泣きながら、「わ、私ね。リバーと離れてる間、全然ダメだったの。早く強くなろうとしたけど、ダメだったっ。全然、何も乗り越えられてないのっ」
リバーは私の髪を撫でながら、
「大丈夫。僕もまだまだだよ。僕、強くなるからね。だから、キャスも頑張ろう。一緒に頑張ろう」
「うんっ・・・うんっ・・・」
私は何度も頷きました。「頑張るっ」
しばらくして、私の部屋のドアがノックされました。
母が中に入りながら、
「ねえ、リバー、キャスは起きた・・・」
と、言い掛けて、目を見張ると、「あら、まあ」
私とリバーは互いを抱きしめたまま寝てしまってました。
あ、言いそびれてました!
リバー、お帰りなさい!




