キャスとカーライル公爵。その2
『おっ帰りなさい。お父しゃま』
私、じみーに落ち込みましたが、
「どうした。キャス。父様を出迎えるのが久しぶりでちょーっと緊張しちゃったかな?」
父がお茶目に言ってくれます。
素敵な父です。
ん?
父が無言で腕を広げました。飛び込んで来いってことですか?
いや、私が持っているガラスの入れ物の中で泳いでいるお魚さんたちが見えませんかね?
聞かれると思ったのですが。では、こちらから。
「お父様!見て下さい!このお魚さん、リバーがプレゼントしてくれたんです!可愛いでしょうっ?!」
私は見えやすいように、ぐんと腕を伸ばしました。
父はもちろんそれを見ましたが、
「うん。後にしようか」
にっこり笑顔で、きっぱり言いました。
・・・ただいまの儀式が大事ですか。ですよね。
「キャス、僕が持ってるよ」
リバーの顔を見ると『諦めろ』と、書いています。多分、双子じゃなくても、分かるでしょう。
私はリバーにお魚さんたちを預けると、
「お帰りなさい!お父様!」
もう一度、今度はややヤケ気味にそう言ってから、父の腕の中に飛び込みました。
父はしっかりと抱き留め、
「ただいまー。キャス!今日もいい子にしてたかな?!」
こう聞かれて、『いえ。悪い子でした』と、言うお子さんはいるのでしょうか。
「はい! 」
とだけ答えておきましょう。
「そうか、そうか」
父はギュッと私を抱きしめてから、少し体を離すと、盛大な音をさせて、両頬にキスしたと思ったら、額同士をくっつけて、ぐりぐりしてきます。
きゃー。何だかとっても恥ずかしいですが、こうなったらもうどうにでもしてです!
それから、さっきのリバーと同じように頭のてっぺんにキスをしたので、ようやく解放かと思ったら、父は私を抱っこすると、
「そうそう。マリと二人に言っておかないといけないことがある」
「まあ。何かしら」
と、母が首をこてんと傾げて、「良いお知らせとか?」
「うーん、どうかな?でも、大したことではないんだ。早く言えば、この家に人を招こうと思って」
珍しいことではありません。親戚が良く来ますしね。
父は続けて、
「来週から、3日間くらい泊まってもらうから、そのつもりにしておいてくれ。タリスにはもう言ってあるから」
タリスさんは執事さんです。おヒゲが渋いオジサマです。
「お泊りのお客様ですか。では、献立を考え直さなくてはなりませんね」
一週間の献立は母、タリスさん、シェフさん、侍女頭さんの4人で決めます。今日、来週の献立を話し合っているのを見ました。
「いや、考え直す必要はないよ。特別なものじゃなくていいし、客も一人だけだ」
「かしこまりました」
母はキリッとした顔になってます。
公爵家の奥様はやっぱり違いますね。
「お父様。お客様って、どんな方ですか?」
『ども噛み』持ちの私としては、緊張しない人が良いです。
父は微笑むと、また私の両頬にキスして、
「その時のお楽しみ」
と、言いました。
キスは必要ですかね?
その時、私はあることを思い付くべきだったのです。
ずいぶん平和ボケをしていたようです。
でも、父が大したことではないように話したのが悪いのです!




