『囮作戦』の裏側
『自分、池の掃除をします!』
朝食の時間、私が半泣きで、ミルク粥を食べている所に、ルークがそう言いながら、食堂に入って来ました。
どこから、現れたの?!
私と母が驚いていると、父とシュナイダー様のお父様であるアンバー公爵様が現れ、
『それじゃあ、意味が分からないだろう』
と、父は呆れたように言いました。
その後、聞いたのが、『囮作戦』です。
もちろん、皆様、超真剣でした。ふざけていません。
シーア様が侍女さんにカーライル公爵家・・・と、言うより、私の事を聞かれ、色々と話したそうなんですよね。
ですから、父たちは魔術師が次に狙うとすれば、カーライル公爵家ではないかと結論付けました。
何故なら、カーライル公爵家とアンバー公爵家以外はシーア様があまり知らなかったので、侍女さんは情報を得られていなかったのです。
それから、シュナイダー様のお母様は、国王陛下の妹君でもありますので、王城へ避難するかもしれないと考えるのではないかと、アンバー公爵家も外しました。
そして、父は自分は属性が少ないから、舐めてかかって来るだろうからねー。と、笑いながら言ってました。
・・・うーん。父はそもそも余裕でしたね。考えてみれば、数万人を相手に出来る人が一人の魔術師に負ける訳がありませんよね。
・・・私の涙を返して下さい。
後はあらゆる手を使い(内緒だそうです)、カーライル公爵家に行くしか出来ないようにし、あの魔術師はカーライル公爵領までまんまとやって来たのです。
ちなみに『囮作戦』についてですが、私の父はリバーにやらせるべきだと主張していたそうですが・・・。
事件を知って、王都に戻って来ていたルークの御祖父様が次期公爵を危険な目に遭わせたら、我がシャウスウッド家の恥!と、言い張り・・・。
ルークママはルークを囮に使うのを反対してくれるだろうと父は期待していましたが、ノリノリでルークが着る為のワンピースを作り始め・・・。
実はルークには3人、妹さんがいますが、皆さん、リバーのファンなので、『リバー様がワンピースを着るなんて、絶対に嫌です!』と、泣かれてしまい・・・。
と、言う事で、仕方なく父が折れたそうです。・・・うーん。ルークが可哀相ですよね。
今回の件には全く関係ありませんが、ルークの妹さんたちは、レオ様とシュナイダー様には全く懐いていません。やや離れたところで二人を観察しているだけで、けして、近付きません。怖いんですかね。二人ともかしましい妹さんたちにどう接していいか分からないだけなんですけどね。
と、言うわけで、後はご存じの通り、父が某国の魔術師を倒しました。
・・・私、本当に父が死ぬかもしれないと思ってました!
母もアンバー公爵様も大丈夫だと言ってましたが、私から見ても、恐ろしい気を発していると分かる黒い玉が父に今か今かと襲い掛かろうとしてたんですよ?!
私、ぎゃー、ぎゃー、泣きながら叫んでました。
アンバー公爵様に助けに行って下さいとお願いしても、シュナイダー様のお父様とは思えない穏やかな笑みを浮かべながら、五大公爵は敵が一人の場合、こちらも一人で戦うのがルールなんだよ。と、言われました。
・・・何故ですか?戦争だったら、五大公爵様一人で何万人も相手にしないといけないんですよ。なのに、どうして、こちらだけルールを守らないといけないのでしょう。
私、そんなルール知りませんよ!と、言い返しましたが、母が私の口をふさいで、『静かにしないなら、見せませんよ』と、言われましたので、仕方なく黙りました。怖くて、見てられませんでしたが、かと言って、見れないのも嫌ですからね。
ともかく、父が勝って良かったです。
にしても、あそこまで演技をしなければ、油断させる事が出来なかったんでしょうか。いえ、多分、ダンレストン公爵様の分の恨みを晴らしてやりたかったのかもしれませんね。いい気にさせておいて、絶望に叩き落とすみたいな。・・・怖い。
・・・ですが、本当に私の涙を返して下さい。それに、絶対、寿命も縮んだはずです。
話は父と私がルークのワンピース姿を見て笑っていたところに戻ります。
私はハッとすると、
「お父様!あの魔法、凄いですね!」
黄金のドラゴンさんですよ!凄いです!
「合成魔法ですよ。カーライル公爵様が編み出したんですよ。凄いでしょう」
何故かルークが自慢げに言いました。むぅ。私のお父様なのに。
いえ、それよりもです!
「お父様がですか?!凄いです!」
と、私が言いますと、父はにこにこ笑顔で、
「そうだろう。そうだろう。父様は凄いんだよ」
・・・自分で言わないで下さい。
「それにしても、金色の竜なんて、カッコイイですよね!殿下も驚くでしょうね!」
と、ルークが言いますと、父は笑うのを止めて、
「今の魔法の事は誰にも言わないで欲しい」
「どうしてですか?」
私もルークもきょとんとします。
「誤解しないで欲しい。レオンハルト殿下だからいけないと言うわけではないんだ。五大公爵家の掟って言うのかな。・・・私の一存ではどうする事も出来ないし、もし、王族方に知られたら、仲間や先祖を裏切る事になる。何百年も続いて来ている事だからね」
父は慎重に言葉を選ぶように話しています。
「王族方にも手の内は見せない・・・こういう事なんですか?」
「そう。・・・代々伝わる魔法は私たちの先祖が努力と苦労の末に作り上げたものだ。王族方だからと好きにはさせない。そんな権利はない」
父のその厳しい口調に、
「ー・・・」
私とルークは思わず怯えてしまいます。
それに気付いた父は我に返ったように・・・。
「ああ。ごめん、ごめん。私もちょっと疲れてしまったのかもしれないね」
「・・・」
何だかそれだけではないような気がしますが・・・。
私がそんな事を考えていると、
「そうだ。殿下と言えば・・・」
「レオ様ですか?」
と、私が聞くと、父は頷いて、
「あの魔術師は闇の属性を持ち、光の属性を持っていなかった」
私はハッとして、
「レオ様と同じですね」
と、言いますと、ルークが驚いたように、
「まさか、殿下がああなると思っているのですか?!」
と、叫ぶように言いました
「可能性がない訳ではない。だから、あの魔術師を実際に見た二人に話をしておきたいんだ」
そう言った父の口調はまた少しだけ厳しく聞こえました。




