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黄金の竜(ルーク視点)

 カーライル公爵様を追い詰めた男は笑い続けています。

 自分、その顔を引っ掻いてやりたいと思いますが、足も手も全く動きません。


 男は笑うのを止めると、

「お偉い公爵様。平民の私に負けるなんて、さぞかし悔しいでしょうねえ」

「・・・」

 カーライル公爵様は関節が白くなるくらい左手を握り締めています。

 男は自分の周りにある無数の黒い玉を見遣って、

「情けをかけてあげてもいいですよ?これをあなたに放つのを10数え終えるまで待ちますから、公爵様から仕掛けて下さって結構ですよ」

 と、にやにやしながら言いました。

「・・・感謝する」

 と、カーライル公爵様は声を絞り出すように言いました。とても悔しいのだと思います。


 自分も悔しさで、涙が出て来ました。

 敵に情けをかけてもらうカーライル公爵様なんて見たくなかった・・・。


「いーち」

 男が数え始めます。


 カーライル公爵様は右の手の平に炎を出していましたが、握り締めていた左手を開き、胸の高さまで上げます。


「にー」


 すると、手の平の上に金色に光り輝きながら、揺らめく球体が現れました。


「さー・・・」

 男はそれ以上、声を出すことが出来なくなったようです。唖然としています。

 自分も唖然としてしまいました。あれは雷の核です。土の属性を持つ兄上に見せてもらいましたから、間違いありません!

 何故、炎と雷を同時に発生させてるんですか?!その前にそんな事、出来ましたっけ?!


 カーライル公爵様はにっこりと笑い、

「この世の最期にいいものを見せてあげるよ」

 と、言うと、胸の前で両手を重ね合わせました。



 次の瞬間、カーライル公爵様が金色の炎に包まれました。

 炎は高く立ち上りながら、何かの形を創っていきます。

 あれは・・・。


「竜・・・」



 カーライル公爵様の背後に八頭の金色の竜が現れました。

 金色の竜は赤い炎を噴き、体にはいかずちを纏っています。


 男はただただ圧倒され、黒い玉を放つことも出来ません。

 

「いい事を教えてやる」


 七頭の竜が炎を噴き、雷を放ちながら、黒い玉を次々と飲み込んでいきます。


「闇の属性を持っている人間が強いんじゃない」


 残り一頭の竜が男に襲い掛かります。


「ひっ・・・」


 金色の竜は男の悲鳴諸共、全て飲み込みました。


「勝った人間が強いんだ」



 竜が消え、黒い玉も男も跡形もなく消えていました。何もかもが幻だったかのように。



 自分、呆然としていましたが、我に返ると、急いでカーライル公爵様の元に走って行きます。

「しまった。最後の台詞を言う前に竜に食われちゃったなあ。いまいち、決まらなかったなあ。間を空け過ぎたかなあ」

 カーライル公爵様はどうでもいい事をぶつぶつと言ってましたが、

「カーライル公爵様!すっげー、あ、いや、凄いです!」

「ああ。ルーク君。ありがとう」

 カーライル公爵様はにっこりと笑いました。驚くことに、汗一つかいていません。

「じ、自分、カーライル公爵様が負けるんじゃないかと思ってました!」

 カーライル公爵様はけらけらと笑って、

「まっさかー」

 か、軽っ!自分の涙を返して下さい!

「なら、やばそうな顔をしたり、悔しがったりしないで下さいよ!紛らわしいです!」

 自分、抗議します!

「油断させてただけだよ」

 カーライル公爵様はしれっとしています。

「だからって」

 と、自分は言いかけて、ハッとします。「さっきの竜は合成魔法ってやつですか?」

 自分の問いにカーライル公爵様は頷きました。「あんなの物語の世界にしかないと思ってました!」

「まあ、ヒントはそれだね。闇の属性がないからって、指をくわえてる訳にはいかないからね」

 自分はまたしてもびっくりしてしまうと、

「カーライル公爵様が編み出した魔法なんですか?!」

「そりゃそうだよ。苦節3ヶ月で、やっとだよ。わざわざ竜にしなかったら、もっと早く仕上がっていただろうけどね」

 カーライル公爵様はしみじみとしていますが・・・。たった3ヶ月ですか?!苦節とは言わないと思います!それに、確かに竜にする必要はないと思います!カッコイイですけど!

「あれもリバーに教えるんですか?」

「もちろん。でも、火の力の方が強いから、改良の余地があるね」

「ほえー」

 全然分かりませんでしたが・・・。


 自分はふとさっきまで男が立っていた場所を見て・・・。

「あいつは闇に精神を蝕まれていたんでしょうか」

「多分ね。・・・この国の魔術師だったら、ああはならなかったかもしれない。だが、同情するつもりはない」

 ・・・そうですね。あいつのせいで、たくさんの人が死んだんですからね。

「しかし、凄い奴だったな」

 と、カーライル公爵様が何故か感心したように言いました。

「え?あ、そうですね」

 精神を闇に蝕まれてはいましたが、確かに凄い魔術師でした。

「『この黒い玉はあらゆる攻撃を無効にする』あんな面白い事を真顔で言う奴、初めて見たよ。全く無効にしてなかったから、更に凄いよね」

 そっちですか?!


 すると、そこへ・・・。

「お父様!お父様!!」

 カサンドラ様がスカートを持ち上げなから、必死になって走って来ます。

「キャス!」

 カーライル公爵様が両腕を広げ、カサンドラ様は飛び付きました。

「うわああああんっ!」

 その大きな泣き声にカーライル公爵様は苦笑いして、

「キャス。どうした。もう終わったんだよ」

 カサンドラ様は涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、

「だっで、おどうしゃまが・・・しんぢゃうっで・・・」

 そりゃ、そう思いますよね!ほんとに人が悪いです!

「ごめん、ごめん」

 カーライル公爵様がハンカチを出して、カサンドラ様の涙を拭います。

「よか、った、です。無事で・・・」

 と、カサンドラ様はカーライル公爵様にそう言ってから、自分を見ると、「ルークも、無事で・・・よか」

 多分、同じく『良かった』と、言ってくれるものだと思っていた自分はカサンドラ様を安心させるようににっこりと笑ったのですが・・・。


「ぷーっ!」


 カサンドラ様は盛大に吹き出しました。なんだ?!


 すると、カーライル公爵様が、

「キャス。わ、笑ったら、ダメだよ。私だって、我慢してたんだから」

 と、声を震わせながら言いましたが、結局、堪え切れずに笑い出しました。

「何ですか?!」

 と、自分は憤慨しましたが、ふと、自分の格好を見下ろします。「あっ!」

 ・・・自分、カサンドラ様に成り済ます為、ワンピースを着ています。母親が面白がって、ふりふりな仕上がりになってます。

「ルーク、かつらがないから余計に可笑し・・・ふふっ」

 自分、真っ赤になると、

「笑わないで下さいよ!囮なんて、自分、すっごく緊張したんですから!」

「でも、君の父上が考えた作戦だしね。母上も乗り気で助かったよ」

 と、カーライル公爵様は言いましたが、実はこの作戦には反対だったんです。

 自分が馬鹿みたいに足が速いと言う事で、白羽の矢が立ちましたが、カーライル公爵様は双子だし、リバーにやらせるのが筋だと言いました。

 ですが、次期公爵を危険な目に遭わせるわけにはいかないと、自分の家族が総出で反対しました。

 それから、似合うと思うし、見たいけど、リバーに女装なんてさせられない!と、自分の母親が言い張りました。意味が分かりません。

 それはそうと、リバーがこの作戦を知ったら、怒るかもしれません・・・。怖・・・。

 でも、危ないと思ったら、アンバー公爵様が助けてくれる事になってましたしね。安心でしたよ。

 あ・・・じゃあ、カーライル公爵様が死ぬなんて事もなかったんですね。うっかりしてました。


 すると、カーライル公爵様が自分の肩に手を置いて、

「本当にありがとう。君のお陰で、敵を倒す事が出来た」

「い、いや、自分なんて、大した事してないですから」

 て、照れるじゃないですか。

「大した事よ!騎士としての初仕事ね!お父様もお母様もルークを誇りに思うはずよ!」

 ・・・カサンドラ様は大袈裟なんですよ。悪い気はしませんが。


 自分は一人照れていましたが、またカサンドラ様とカーライル公爵様が自分を見ながら、笑いました。


 まあ、いいですよ。カサンドラ様が笑顔になってくれたなら。


 これも専属の騎士の仕事です!


 

 それから、祖父さん、父上、申し訳ありません!


 自分が尊敬する人の第2位はカーライル公爵様になってしまいました!

 

 もちろん、第1位は殿下です!





 またカーライル公爵を目立たせてしまいました。

 娘が残念なので、お父様は強くしてみました。


 まさかのルーク視点、三連発でした。

 何故か軽い感じの仕上がりになってしまいました。


 実はルークには妹が3人いますので、女の子を慰めたり、話を聞いてあげることが意外に上手だったりします。




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