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カーライル公爵の危機(ルーク視点)

 自分の後ろにヤバイ奴がいましたー!なのに、全然気配に気付きませんでしたー!自分、ショックです!


 男は口の端を上げて、笑うと、

「公爵令嬢が池の掃除をするなんて、何の冗談かと思ったんだけど、本当だったんだね」

「・・・」

 自分はグッと拳を握りました。

「大丈夫だよ。痛い事はしないからね。でも、お父様が助けに来たら、泣いてもらえると、嬉しいんだけどな」

 と、男はにやにや笑いながら言うと、自分に近付いて来ます。

 

「へんっ!」

 自分は鼻で笑ってやると、「自分は男だ!」

 と、声を上げて、被っていた長い金髪のかつらをむしり取り、唖然としている男の顔目掛けて投げ付けました。見事、命中です!

 そして、自分は出来るだけ遠くへ逃げました。自分、足の速さには自信があります!

 我に返った男は自分を追い掛けようとしましたが、


「ようこそ。カーライル公爵家へ」


 カーライル公爵様が悠然と歩いて来ます。

 そして、男と10メートルくらい離れた所で立ち止まりました。

「な、何故・・・」

 男は酷く動揺している様子です。

「君は上手く逃げていたと思っていたんだろうが、カーライル公爵家に行くしかないように追い込んでいたんだよ。・・・君は袋のねずみだよ。潔く投降したらどうかな?」

 カーライル公爵様は不気味なくらい穏やかです。

「くっ・・・誰がするものか!ダンレストン公爵家の魔法を手に入れたんだ!闇の属性がある私は威力を更に大きくする事が出来る!貴様に負けるはずがない!貴様を殺して、カーライル公爵家の魔法も手にしてやる!」

 と、男が叫ぶと、カーライル公爵様は首を傾げて、

「うーん。私を殺したら、巻物は手に入らないよ。ダンレストン公爵家と違って、息子はまだ13歳だからね。代々伝わる魔法は学園を卒業してから教える事になってるから、巻物の在り処は私しか知らないんだ。でも、そうだねえ。何かあった時の為に巻物にしてるんだから、息子には在り処を早く話しておいた方がいいかもしれないね。まあ、ともかく、カーライル公爵家の魔法は諦めた方がいいよ。次はアンバー公爵家に行った方らどうかな?あの家は早いうちに巻物の在り処だけは教えてるから」

 ええっ?!な、何をベラベラと敵に話しちゃってるんですか?!


 しかし、カーライル公爵様の目付きが変わり、

「もちろん、次などないが。・・・君は私が狩る」

「っ」

 その目付きの鋭さに男は気圧されたのか、息を飲みました。


「ええと、君の名前は・・・何だっけ。忘れたな。まあ、いいか。・・・私がすぐに灰にしてしまうからね」

 そして、男に向けて、右手を広げましたが、男は口の端を上げて笑うと、

「闇の属性がない貴様など怖くない。私は光の属性以外は持っているんだ。貴様は火、風、土の3つだけだろう!」

「おやおや。詳しいね。私も有名人だな。あ、代々、同じ属性だから、当然か」

 と、カーライル公爵様は言いながら、炎を発生させ、次々と放っていきます。

 カーライル公爵家の凄さは高い魔力量と持久力にあります。属性が少ないからと侮ってはなりません。得意の火系魔法なら、どれだけ術を連発しても、体力が尽きる事がないんです。

 そう言えば、カサンドラ様も魔力量は高いんですよね。王族の血を引くシュナイダーよりも高いんです。なのに、治癒魔法しか出来ないなんて、意味が分かりません。


 おっと、今はそんな話をしている場合ではありません!

 男は次々と襲って来る炎を全く動く事なく、跳ね返すではないですか!

「諦めろ。ちなみにお得意の火柱を上げる術は我が国で研究済みだ」

 男は憎たらしいくらい余裕の表情を浮かべています。

「はっ」

 カーライル公爵様は嘲るように笑うと、「我が国?国王から君の事は煮るなり焼くなり好きにしていいと言われているよ。君は要らないんだとさ」

「?!」

 男は驚愕したのか、目を見開きました。

 カーライル公爵様は炎を放つのを止めて、

「君が同僚に自分は実力があるのに、平民出身だからといつまでも下に見られるのは耐えられないと言っていたそうだね。そして、五大公爵家の魔法を手に入れたら、扱いも変わるかもしれないと・・・同僚は酔っ払いの戯れ言だと思っていたそうだが」

「そうだ!私はあの国の誰よりも実力がある!なのに、平民出身だからと雑用ばかり押し付け、ろくな仕事をさせてもらえない!爵位がある事がそんなに偉いか?!鍛練をさぼって、女を引っ掛けているだけのくせに!そんな奴等にでかい顔をする資格などない!絶対に見返してやる!」

 男は目が血走っていて、かなり興奮状態にあるようです。

 すると、カーライル公爵様が、

「どうやって見返すつもりだい?」

 と、聞きました。

 男は良く聞いてくれた。と、言うように、嬉しそうに笑いながら、ゆっくりと両腕を広げました。


「貴様を殺してやるんだよ!カーライル公爵を殺した私は英雄になれる!私を欲しがらない国などない!」

 

 男はそう叫んだ後、早口で呪文を唱えました。

 すると、次々と黒い玉が発生していきます。

 あっという間に男の背後や頭上を無数の黒い玉が取り囲みました。

 空は晴れているのに、辺りは薄暗くなってしまいました。

 黒い玉はまるで意志があるかのように、ゆらゆらと揺れて、今にもカーライル公爵様に襲い掛かりそうです。

 あんな物を食らったら、どうなるんだ?!


 カーライル公爵様はふらついたように一歩下がると、

「まさか・・・ここまでとは・・・」

 と、掠れた声で言いました。

「この黒い玉はあらゆる攻撃を無効にする。そして、人間の全てを食い尽くす。闇の属性のない貴様は一溜まりもない」

 黒い玉は禍禍しい気を放っています。

 自分はあれに掠っただけでも、命を落とすかもしれません。

 自分は恐ろしくて、もう身動き一つ出来なくなってしまいました。


 男は口の端を上げて、笑うと、

「何をしても、無駄だ。貴様は死ぬ」

「くっ・・・」

 カーライル公爵様は悔しさからか、顔を歪めました。

 その表情を見た男は声高らかに笑うと、

「何か最後に言い残す事は?」

 カーライル公爵様は唇を噛んでいましたが、

「・・・五大公爵の一員として、何の抵抗もせずに死を待つつもりはない」

 と、言うと、右の手の平に炎を出しました。「私が死んでもまだ4人いる。・・・だから、右腕くらいは落としてやる」

 しかし、男は馬鹿にしたように笑って、

「貴様には、私の指一本、落とすことすら出来ない」



 自分はやっぱり恐怖から、動く事も声を出す事も出来ませんでした。


 誰か助けてくれ・・・。

 このままではカーライル公爵様が負けてしまう。殺されてしまう。

 4人の公爵様が来てくれたら、こんな奴、簡単に蹴散らす事が出来るのに!

 お願いです!今すぐ、助けに来て下さい!


 情けないですが、自分は心の中で願う事しか出来ませんでした。


 そして。


 ・・・カサンドラ様の泣き顔が脳裏に浮かびました。


 

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