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正体と隠し事



 今回、お食事中には控えないといけない表現があります。




 リバーが王城へ行ってしまってから、5日が経ちました。


 五大公爵家に対する不満を煽るようなデマを流していた犯人が捕まりました。事件発生の2日後でした。

 犯人はシーア様付きの侍女さんでした。

 その侍女さんはある貴族家の跡継ぎとの結婚が決まってましたが、お兄様が賭け事で作った借金がある事が発覚します。到底、簡単に払える金額ではなく、それが婚約者やその両親に知られたら、婚約を破棄されてしまう。と、困っていたところにある人物が声を掛けて来て、借金を肩代わりするから、ある噂を流し、五大公爵家の情報を教えて欲しい。と、言ったそうです。

 賭け事での借金が返せないとなると貴族の間で爪弾きされたりするそうです。そのこともあって、侍女さんはその話に飛び付いてしまったのでしょう。

 侍女さんはここまで大変な事になるとは思っていなかったそうです。かと言って、もちろん、許されるわけではありませんが。


 侍女さんの証言から、某国の存在が浮かび上がりました。

 元々、ダンレストン公爵家に代々伝わる魔法を完全とは言えませんが、短時間で習得したのです。それほどの遣い手がいる国はカルゼナール王国以外では限られてしまいます。

 某国の王を問い詰めたところ、一人の魔術師の行方が分からなくなっているが、我が国は今回の件には全く関わっていないと強く主張し、カルゼナール王国側もそれを信じました(あくまで表向きはですが)。

 魔術師の人相などを同僚たちに聞いたところ、侍女さんとサラ姉様のお父様が証言した人相と似ていた為、今回の首謀者は行方知れずとなっている某国の魔術師だと断定されました。


 魔術師が捕まりさえすれば、全て解決するのです。

 しかし、厄介な事にその魔術師は平民出身ながら、闇の属性を持っていて、魔術師としての能力も高いそうなんです。



「ごちそうさまでした!」

 夕食を終えた私は席を立ちました。

「キャス。待ちなさい」

 部屋に行こうとした私を母が呼び止めます。

「はい?」

「あなた、最近良く食べているけど、大丈夫?」

 と、母は心配そうに言いました。

「外は走れなくなりましたが、その分、おやつを控えていますから、大丈夫ですよ」

 ちなみに隠し続けていた牛乳嫌いはリバーがいないので、ばれました。

 それを知ったシェフさんが泣きながら、お嬢様に我慢を強いて来た私をお許し下さい。と、お暇を申し出て来たので、私と母が必死で引き止めました。

 と、言う事で、朝の牛乳は飲まなくてはなりませんが、ホワイトソースなんちゃらとかミルク煮なんちゃらとかが出る際は、私だけ別の味付けにしてくれる事になりました!嬉しいです!

「太る事を心配しているんじゃないのよ」

 と、母は言って、溜め息をつきました。


 私は食堂を出ると、自分の部屋に向かっていましたが、

「うっ・・・」

 私は両手で口を覆うと、自分の部屋にあるトイレに駆け込みました。


 夕食で食べたものをほとんど戻してしまった私は口をゆすいでから、鏡に映る自分の顔を見ます。

 ・・・私は情けないです。

 あの話を聞いた次の日から何を食べても戻してしまっています。

 この事は絶対に母には言えません。

 母は五大公爵家の一員として、あえて私に厳しくしたのであって、私が憎くて言った訳ではありません。

 それに必ずサラ姉様のご両親のような事態になるわけではないですし、必ず命を断たなければならないわけではありません。私は最悪な事態になった時の為に覚悟をしておきなさいと言われただけなんです。

 そして、自分が何も出来ない事を、足手まといにしかならない事を自覚しなければならないのです。

 でも・・・私なんか生まれて来なければ良かったと言う思いで、いっぱいになってしまって、何も考えられません。何も出来ません。

 何故、私はリバーや両親に迷惑を掛けるだけの存在でしかないのでしょうか。

 ・・・そのうち、うんざりされてしまうかもしれません。この家に必要ないって言われたら、私はどうしたらいいのでしょうか。

「うっ」

 ・・・もう胃には何もないはずなのに、吐き気は治まりませんでした。


 

 次の日。今度は吐かないように。と、願いながら、私が昼食を終えたところに・・・。

「こんにちは!」

 ルークがやって来ました。

 私はびっくりして、

「ルーク!いいの?!お父様は大変でしょう?!」

「でも、自分は何も出来ませんし。伯爵家の次男坊なんて気楽なもんですよ!」

 と、言って、ルークは笑いました。

「・・・」

 ルークは普段はこんなことは絶対に言いません。もしかして、私を心配して来てくれたのに、私が気にしないように気を使ってるんでしょうか・・・。


 二人でレモネードを飲みながら、お喋りをします。ルークが一人でどうでもいいお話をして、私は王城の事を聞きたいのに、割り込めません。

 いい加減、痺れを切らした私が、

「ルーク!一人でべらべら喋るなって、前にリバーに注意されたでしょう!」

 と、声を上げました。 

 ルークは驚いた顔をしましたが、

「あれは殿下の事ばかり話すなって注意でしたよ」

「・・・」

 私はぐっと詰まりましたが、「なら、レオ様の話をしてよ。今日はレオ様の『レ』の字も出ないじゃない。レオ様とは会ったの?リバーやシュナイダー様には?」

「いえ。王城には行ってませんので」

「お母様から何か聞いてないの?」

「規制がかかっているので、母も行けないんですよ」

「・・・本当?」

 私が疑いの目で見ると、ルークは若干目を泳がせましたが、

「本当です!自分、嘘はつきません!」

「本当に?」

 と、私は繰り返してから、ルークの目を見つめますと、ルークも今度は真っ直ぐに私を見返して来ました。しばらくしてから、私は肩の力を抜きますと、

「分かったわよ。ルークが嘘をつくはずがないものね」

「・・・隠し事はしますが・・・」

 と、ルークがぽつりと言って、

「え?何か言った?」

「何でもありませんよ!カサンドラ様!今日は母特製のオレンジゼリーです!」

 ルークがお皿に乗ったオレンジゼリーを私の前に持って来ました。・・・美味しそうです。ゼリーなら・・・大丈夫かもしれません。

「ありがとう。いただきます」

 私はそう言ってから、スプーンでオレンジゼリーをすくいましたが、「っ・・・」

 また吐き気がして、私はスプーンを落とすと、客間の隣にある化粧室と続いているトイレに駆け込みました。


 また昼食に食べた物を全て戻してしまうと、私は顔を洗ってから、化粧室を出ようとして、そのドアが開いていた事にドキッとしました。

 すると、そのドアが大きく開いて、

「カサンドラ様・・・」

 酷く心配げな顔をしたルークが立っていました。


 私は悪戯が見つかった小さな子供のように身を縮こませました。



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