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理想の国の為に(リバー視点)

 静かに立ち上がったレオ様は、隣のジャスティン殿下を見て、

「兄上。あれほどカーライル公爵から庇うなと言われているのに、まだ庇い立てするおつもりですか?これ以上、私情を挟むのはやめていただきたい」

「ー・・・」

 ジャスティン殿下が驚きのあまりか目を見開きました。

「兄上とサラ嬢の子を次期ダンレストン公爵に据えれば問題ないと思っているのでしょうが、先程、国王陛下がおっしゃったように、今回の失態は到底隠しておけるものではなく、他貴族だけでなく、民にまで不満が広がると思われます。それを静める為には、即刻、ダンレストン公爵家を五大公爵家から除外する必要があると思われます」

 先程以上に会議場がどよめきました。

「レオ。待ってくれ」

「しかし」

 レオ様はそれを無視して、「これまで五大公爵家が私たち王族、そして、この国の為に個人の感情を抑えてまで、尽くしているのにも関わらず、その他の貴族の五大公爵家を軽視しているとしか思えない言動が目立って来ました。誰かがデマを流しているとは言え、これはけして見過ごせない問題です。普通に考えれば、五大公爵家がどれだけこの国に貢献してきたのか分かるはずなのですから、いい加減、五大公爵家に歯向かう事は王族に歯向かう事と同じだと分からせておく必要があります」

 レオ様はそこまで話すと、会議場全体を見渡して、

「今後、五大公爵家に対して、一言でも、不満を言った人間は処罰の対象にしていただきたいと思います。そして、今回の事件に関わった、裏切り者には死罪を命じ、その一族もその対象にするべきです」

「レオ。いくらなんでも厳し過ぎないか?一体、どうしたんた」

 と、ジャスティン殿下は言いましたが、レオ様はまるでジャスティン殿下を睨むように見ると、

「兄上は甘いのですよ。そう言った考えが、他の貴族連中を図に乗らせるんです。それに、あなたが今考えている事はサラ嬢とその家族の事だけでしょう。そんなことで一国の王が務まると思っているのですか?」

 ジャスティン殿下は顔色を変えると、

「レオ、お前っ」

 しかし、レオ様は全く気にも止めない様子で、ジャスティン殿下を真っ直ぐ見据え、

「兄上。国王になりたいのなら、サラ嬢との結婚は諦めて下さい」


 会議場は静まり返りました。


 僕は信じられない思いでいっぱいでした。

 レオ様は一体どうしてしまったのでしょうか。

 あれだけ慕っていた兄君であるジャスティン殿下に対して、逆らうような事ばかり言っています。


「レオ・・・何故、そんなことを言うんだ?」

 ジャスティン殿下がやや震える声で言いました。

「今回のような失態を演じたダンレストン公爵家の令嬢は、兄上の、将来の国王陛下の相手として相応しくないと思ったからです」

 レオ様は話はこれで終わったとばかりに座りました。

「レオっ!」

 ジャスティン殿下がレオ様の上着の襟を引っ張るようにして、レオ様を立ち上がらせようとしましたが、

「ジャスティン!やめなさい!」

 と、国王陛下が声を上げました。

「・・・」

 ジャスティン殿下はレオ様から手を離すと、椅子に座りました。

「レオンハルト。ジャスティンの婚約にまで口を挟む事はあまり感心しないな。それにお前の発言のせいで、この会議は混乱を来たしている。何よりこれは対策会議であって、処罰を決める話し合いではない」

「申し訳ありません」

 レオ様は頭を下げて謝罪しましたが、自分は全く悪くないと言うような口振りでした。

 それに気付いたであろうジャスティン殿下がレオ様を睨みつけましたが、レオ様のガラス玉のような瞳にはジャスティン殿下は全く映っていませんでした。



 それから、会議が進み、僕はその間、レオ様とジャスティン殿下の様子を見ていました。

 レオ様は一点を見つめたままでしたが、ジャスティン殿下は最初は苛々した様子で右手の中指で机を叩くような仕草を続けていましたが、ふとその仕草を止めて、レオ様の横顔を見つめました。

 ジャスティン殿下はしばらくレオ様の横顔を見つめ続けていましたが、ふと、ああ。そうか。と、言うように、頷くと、腕を組みました。


 その後、対策会議は情報集めの為、一旦中断し、午後にまた再開すると国王陛下がおっしゃいました。

 次々と会議の参加者が出て行きます。

 ダンレストン公爵様は生気が抜けた様に肩を落として、歩いて行きます。

 そんな様子を父が唇を噛み締めながら、見送っていました。

 父は立場上、ダンレストン公爵様を責め、ジャスティン殿下に庇うなと言いましたが、本当は一番庇いたかったのかもしれません。今まで苦楽を共にしてきたのです。とても悔しく思っているでしょう。


 そんな中、レオ様とジャスティン殿下は身動き一つしませんでした。

 僕もシュナイダーも動けずにいました。

 会議場に残っているのが僕たちだけになって、ようやく・・・。

「兄上。先程は申し訳ありませんでした」

 レオ様は、ジャスティン殿下に向かって、頭を下げました。

「いや、実際、私は私情を挟んでいた」

 と、ジャスティン殿下は言うと、両腕を上げて、頭の後ろに持って行きながら、椅子の背もたれに深くもたれると、「でも、それ以上にレオは私を通して、父上に何かを訴えているようだったな」

「はい」

 レオ様は頷きました。

 ジャスティン殿下は溜め息をつくと、

「レオは父上に不満があるのだろう」

「父上だけではありません。今までの王族の在り方です。王族は五大公爵に頼り切っていながら、そのくせ、ただの駒としてしか見ていない。・・・国王は五大公爵家に対して不満を持つ貴族も、兄上とサラ嬢の結婚反対派も野放しにしていた。そのせいで、アンバーのじいさんはあんな無理をして、寿命を縮めたのです。せめて安静にしていれば、あんな最期は迎えなかったかもしれない」

「そうだな。どんなにか苦しかったことだろう」

 と、ジャスティン殿下はぽつりと呟くように言いました。

「五大公爵に対する不満を五大公爵自身が治める事など出来るわけがない。他の誰でもなく、国王がやらなくてはならない事だった。ですが、そうはしなかった。自分が他貴族に不満を持たれたくないからです。国王は五大公爵が自分の味方でいて当然だと思い込んでいる。だから、五大公爵より、他貴族の肩を持つのです。裏切る訳がないと分かっているからです。五大公爵家を一番軽んじているのは王族なんですよ。・・・彼等にも感情はあります。これまでの王族はそれを無視し続けて来た」

 ジャスティン殿下は頷いて、

「今までの五大公爵は分かっていたのだろうな。そして、王族を守りはしても、信用はしない。いや、出来なかった。代々伝わる魔法の巻物を王城に保管する事を拒み続けていたのも頷ける。・・・まあ、元々、巻物は五大公爵家の家宝のようなものだから、王族が好きにしていいものではないしな」

 レオ様は溜め息をついて、

「・・・父上は、きっと、兄上とサラ嬢の結婚を反対する事になるでしょう」

「・・・」

「今回の首謀者はそのうち捕まるでしょうが、犠牲者が出てしまった以上、ダンレストン公爵家に対する不満や非難は治まらないでしょう。・・・ダンレストン公爵家が五大公爵家から除外されるまでは。ですから」

 と、レオ様はそこまで言いかけて、黙まると、ジャスティン殿下からやや目を反らしましたが、すぐに思い直したように、ジャスティン殿下を真っ直ぐ見ました。


 そして・・・。


「兄上。王位継承権を放棄して下さい。私が王となります」


 そう言ったレオ様の眼差しには何の迷いもありませんでした。


 ジャスティン殿下は全く驚きませんでした。予想していたのでしょうか?

「私は兄上を支える為でもなく、王族を守る為でもなく、誰もが安心して暮らしていけるような国にする為に自分の人生を捧げていきたいのです。・・・時間はかかると思いますが、彼等だけに負担を掛けないように五大公爵の役割も変えていきたいと思っています。私は多分その為なら、国王に退位を迫る事も出来ると思います」

 ジャスティン殿下は小さく笑って、

「ああ。出来るだろうな。・・・その為には王太子の座に就かなくてはならない。第二王子のままでは、出来る事も限られる」

 レオ様は頷きました。

 この国は、一度、王太子と決まれば、何があろうとも廃嫡される事はないのです。

 レオ様は父である国王陛下とも闘うつもりでいるようです。だから、ただの王子ではなく、王太子に就きたいのです。


「そうか」

 ジャスティン殿下は頷いてから、立ち上がりました。

「兄上・・・」

 と、レオ様が呼びかけて、

「いいよ。レオ。やるべき事は分かっているから。・・・私もそこまでぼんやりしてないよ」

 と、ジャスティン殿下は言うと、会議場から出て行こうとします。

「兄上」

 レオ様は立ち上がり、「申し訳ありません!」

 深々と頭を下げました。

 ジャスティン殿下は首を振ると、

「私はサラを諦める事は出来ない。それにサラの家族を守れるのは私だけだ。だから、いいんだ」

 レオ様は顔を上げ、

「私はサラ嬢ほど王妃に相応しい女性はいないと思っていました。・・・心からそう思っています。もちろん、今でも」

 すると、ジャスティン殿下は振り返って、レオ様に笑顔を見せました。


「ありがとう。いつかサラに言ってやりたいよ。サラも喜ぶはずだ」

 



 レオ様はしばらく立ち尽くしていましたが、やっと僕らを見て、

「リバー。シュナイダー。私は国王となり、この国を変えていくと決めた。その為に私は兄上を犠牲にし、ダンレストン公爵家を切り捨てた。・・・この事は生涯背負っていく」

「・・・レオ様」

「こんな私でもついて来てくれるか?」

 と、レオ様は聞きました。・・・どこか不安げに。

 僕とシュナイダーは胸に手を当て、一礼すると、

「私たちはレオンハルト殿下に生涯の忠誠を誓います」

「ありがとう」

 レオ様は笑みを見せながら、僕とシュナイダーに礼を言いましたが、その笑みは悲哀に満ちたものでした。



 午後になって再開した会議の冒頭、ジャスティン殿下が王位継承権を放棄する事を宣言しました。

 そして、ダンレストン公爵家を五大公爵家から除外した後は、自分が当主となる公爵家を新たに作り、五大公爵家に加える事を提案しました。

 王族だった私が王族の盾である五大公爵になるなら、誰も文句は言わないはずです。と、ジャスティン殿下はどこかすっきりとした表情で言いました。


 レオ様は一点を見つめたままでしたが、ジャスティン殿下の言葉を噛み締めるように、机の上で両手を強く握り締めていました。


 レオ様は慕っている兄君を玉座から追いやったのです。生涯苦しむ事になるかもしれません。それでも、レオ様はこの国を変える為に自分が国王陛下となる事を決めたのです。


 そんなレオ様を生涯支えて行こうと僕は強く心に誓いました。

 レオ様が思い描く理想の国が僕たちが望む国の在り方なのですから。



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