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大切な人を守るために(リバー視点)

 シュナイダーに頬を叩かれた僕はカッとなり、立ち上がると、シュナイダーの胸倉を掴みましたが、

「いいですよ。殴っても。・・・それで、あなたの気が済むなら」

 シュナイダーが僕を真っ直ぐ見て、言いました。

「・・・」

「殿下を傷付けたところで何になります?・・・殿下がどれほどカサンドラ様を、あなたを大事に思っているか、そんなことも分からないあなたではないでしょう」

「・・・」

 僕はシュナイダーから手を離すと、椅子に座りました。

 シュナイダーは服を整えると、

「あなたとカサンドラ様はとても仲が良くて、お互いを心から思い合っています。一人っ子の私はとても羨ましく思っていました。だからこそ、あなたがカサンドラ様を守りたいと思うがあまり、冷静さを失うとカーライル公爵様は思ったのでしょう。だから、あえて、厳しい事を言ったんですよ」

「・・・」

「ダンレストン公爵のご令息は最も誤った選択をしてしまった。奥様を助けたいと思うあまりに、目の前の楽な選択肢に飛び付いたのです。言うなれば、諦めてしまったのです。冷静になれば、高度な魔法を習得しているわけですから、そう簡単に相手の思う壷にはならなかったはずです。・・・・五大公爵は感情に左右されてはならない。カーライル公爵様が言いたかったのはこういうことなんですよ」

 僕はシュナイダーの顔を見ました。

 シュナイダーは頷くと、僕の両手を握り、

「強くなりましょう。大事な物を守るために。あなたは一人じゃない。私や殿下・・・何よりカサンドラ様がいます。あなたには大事な物がある。守らなくてはならない人がいる。だから、きっと、いえ、絶対に強くなれます」

 僕は頷くと、

「・・・シュナイダー。すまなかった。シュナイダーは色々重なって、辛いだろうに、僕は自分の事しか考えてなかった」

 ・・・僕はいつも冷静に物事を考えられると思い込んでしまっていました。・・・情けないです。

 シュナイダーは首を振って、

「いいのですよ」

 と、言いました。


 僕はレオ様を見て、

「すみません。レオ様に八つ当たりをしてしまいました。・・・さっき言った事は取り消します。あなたがそんな人ではないことは良く分かっています」

 5歳の頃からたくさんの時間を一緒に過ごしたレオ様になんて酷い事を言ってしまったのでしょう。

 僕は後悔の気持ちでいっぱいでしたが、レオ様は何故か笑うと、

「リバーにあんたと呼ばれたのは新鮮だったな。これからも呼んでいいぞ」

 と、からかうように言いました。

 僕は赤くなると、

「すみませんでした」

 『あんた』なんて、呼べるわけないでしょう!


 レオ様はまた笑いましたが、僕の手を握ったシュナイダーの手の上に自分の手を重ねると、ぐっと力を込めて、

「私が何が何でも生き延びると言ったのは、誰かを盾にしてまでと言う訳ではない。私もお前たちに負けぬよう、強くなる。・・・キャスに盾になどなってもらう必要などない。絶対に自分の力だけで生き延びられる力を得てみせる。・・・そして」

 レオ様は僕とシュナイダーを見て、「王族の盾として、王族を守ってくれている五大公爵家を、私たち王族が守ると誓う。・・・お前たちだけに大きな責任や代償を負わせるつもりはない」

「レオ様・・・」

「今後こんな事態が起こらないように、キャスが、キャスのように身を守る術のない人間が安心して暮らしていける国を造る。必ず」

 そう言ったレオ様の口調は力強いものでした。


 それから、僕たちはお互いの顔を見やっていましたが、ふと我に返り、

「な、何、男同士で手を握り合ってるんですかね」

 と、僕が言うと、レオ様はもちろん、シュナイダーまで赤くなると、僕たちは手を引っ込めました。


 レオ様は咳ばらいをすると、

「ともかく、もう時間も遅くなった。休んだ方が良い。二人とも、部屋に案内しよう。・・・明日、朝早くに対策会議が行われる。お前たちも将来の五大公爵として、参加するよう言われている。こういった事態は滅多にない事だからな」

「分かりました」

 と、僕とシュナイダーが答えます。

「良く休め。明日は長くなる」

「はい」

 と、僕は答えた後、窓の外の闇を見つめます。

「リバー、どうした?」

 と、レオ様が聞きました。

 僕は窓の側に行くと、夜空を見上げます。皮肉なくらい今日は良く星が見えます。


「でも、それでも、僕はキャスの側にいてやりたい。と、思ってしまいます。・・・離れるのは初めてなんです」


 キャスはどうしているのでしょう。

 この星空を見ているのでしょうか。

 泣いているのでしょうか。

 ・・・叶うのなら、今すぐキャスの元へ飛んで帰るのに。


 レオ様が僕の隣に立ちました。

「今、僕にはレオ様とシュナイダーがいる。だけど・・・」

 ・・・もちろん、キャスには母がいます。

 ですが、五大公爵家の一員として、あえて、厳しい事を言った母に対して、キャスは今までのように甘えることは出来ないでしょう。そして、こんな時に甘えてはいけないと思うでしょう。


 レオ様が僕の肩を叩いて、

「私たちと離れていても、キャスは一人ではない。きっと、全てを受け入れるには時間がかかると思う。でも、キャスは他人の為に一生懸命になれる娘だ。だからこそ、リバーや両親の為に乗り越えようと思うはずだ。キャスはそんなにやわな人間ではない」

 僕は頷くと、

「そうですね。キャスならきっと乗り越えられるでしょう。きっと・・・」

 と、願うように言いました。


 キャス。僕は強くなるからね。どんな事をしてもキャスは僕が守るからね。

 だから、何も出来ないからと、足手まといになるからと、自分を責めたりしないで。自分を嫌いにならないで。だって、キャスは僕の自慢のお姉さんなんだから。


 その後、僕とシュナイダーはレオ様の案内で用意されている部屋へと向かいました。

 

 その時、先を歩くレオ様が何を考え、何を決断していたか、もし、顔が見えていたとしても、分からなかったことでしょう。



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