家族か国か(リバー視点)
僕は父と共に王城からの使者の瞬間移動の魔法で、王城にやって来ました。
目の前が揺らいでいましたが、瞬きを繰り返していると、治まりました。
僕は辺りを見渡します。
前に居住棟に来たことはありますが、それと比べると無機質な空間です。
「リバー、来たか」
と、声がして、振り返ると、レオ様とシュナイダーがいました。
「レオ様、シュナイダー」
レオ様は自分に向かってお辞儀をした父に頷いてから、
「今は情報を集めているところだから、これと言って、することはないだろう」
「でしょうな」
と、父は言うと、僕の肩に手を置いて、「リバー。この時間を利用して、話しておきたいことがある」
僕は頷きながらも、
「お父様。ダンレストン公爵家が襲われたのに、お母様やキャスは屋敷に居て良いのですか?」
「五大公爵にならない人間を王城に連れて来るわけにはいかないだろう。・・・囮としての役目も果たしてもらわなければならない」
「ー・・・」
父の言葉とは思えませんでした。愛妻家で子煩悩だと皆から言われていて、キャスを目に入れても痛くないと思う程、溺愛していて、僕だって、ずっとそう思っていたのに・・・。
「ここは冷える。出よう」
「は、はい」
僕は動揺しながらも、父に続いて、無機質で何の暖かみもない部屋から出ました。
父がある部屋の扉を開いて、
「私の執務室だ。入りなさい」
僕が入り、レオ様とシュナイダーまで入ろうとして、父は眉を上げると、「殿下はどういうおつもりで?」
「いいではないか。シュナイダーも知るべき事だろう。新しいアンバー公爵はそれどころではない」
父は溜め息をつきましたが、
「どうぞ」
レオ様とシュナイダーが中に入り、扉が音もなく閉まりました。
「先に言っておこう。今回、ダンレストン公爵の息子がしたことは大失態だ。敵はたった一人だったと言うじゃないか。五大公爵家の一員として、恥ずべきことだ。私なら、この先、生きて行くことも耐えられないだろう。・・・妻の命が奪われようと、あれを渡すべきではなかった。それによって、罪のないたくさんの人間が命を落とす可能性があるからだ」
父は落ち着きなく、執務室の那賀を歩き回りながら、話をしています。「リバー。お前は何があっても、同じ間違いを犯してはならない」
「はい」
と、僕が答えると、父は足を止めて、僕を見据えると、
「分かってないな。何があってもと言うことは、キャスを見殺しにしてでもと言う意味だぞ」
僕は頭で理解する前に、
「嫌だ!」
と、叫んでいました。
キャスを、僕の双子の姉を見殺しにしろ?そんなこと出来るもんか!
「僕は絶対そんな事は出来ない!だいたいサラ様のお父様がしたことはそんなに悪い事なんですか?家族を守ろうとして、何が悪いんですか?」
父は肩をすくめて、
「思った通りだ。キャスにはやはり覚悟をしてもらわなければな」
「な、何の覚悟ですか?」
「リバーがダンレストン公爵の息子と同じ間違いを犯す前に自ら命を断つ覚悟だ」
父が更に厳しい表情で言いました。
「ー・・・」
僕の背筋が震え上がり、と、同時に隣にいるレオ様から鋭く息を吸う音がしました。
「もう話している頃だろう。キャスは治癒魔法しか使えない。非常事態に陥った場合、あの子は足手まといにしかならない」
父はそう言ってから、カーライル家がある方向を見ました。
「キャスに、今と同じ事を話したのですか?」
僕の声は震えてしまっています。
「お前の母なら、きちんと話してくれることだろう」
父はレオ様を見て、「殿下。あなたはリバーと違って、甘ったれた事はおっしゃらないでしょうが、あなたが危険な状態に陥った場合、キャスを、いや、誰を盾にしてでも、生き延びなければなりません。・・・分かっていらっしゃるでしょうが」
父はレオ様に自分が言っていることが正しいことなのだと念を押しているようです。
僕はそれでもレオ様は何か反論してくれると思ったのですが、
「分かっている。何が何でも生き延びる」
と、レオ様はまるで何の迷いもないと言うように、きっぱりと言い切りました。
「!」
僕はレオ様の顔を見ました。
その横顔からは何も読み取れません。
父は頷くと、
「リバー。レオンハルト殿下を見習いなさい。自分の立場をきちんと理解されている。お前もそうならなくてはならない。五大公爵は感情に左右されてはならないんだ」
「・・・」
僕は何も答えず、ただ俯きました。
父は溜め息をつくと、
「私の跡を継ぐに相応しい息子だと思っていたが、見込み違いだったようだな」
そして、僕に背を向けて、「私は国王陛下にお会いしてくる。・・・良く考えなさい」
僕は顔を上げると、
「僕は帰る!キャスのところに帰る!キャスは実の母親に自ら命を断てと言われたんだ!泣いているはずだ!僕がいてやらなきゃならない!僕は帰る!!」
「いい加減にしろ!!」
父は僕に背を向けたまま・・・。
「お前が唯一の直系の跡取りだ。でなければ、犬死にしてもなんとも思わないが、帰るなど許さない」
「・・・」
僕は唇を噛み締めました。
「何もキャスに必ず命を断てと言っているわけではない。・・・全てお前次第だ」
父はそう言い残すと、部屋から出て行きました。
「畜生!」
僕は頭を抱えました。
「・・・リバー」
レオ様が僕の肩に触れ、「気持ちは分かるが、今は・・・」
僕はレオ様の手を払うと、
「分かるもんか!あんたは守られる側の人間だろう?!僕たちはあんたたち王族のっ、この国のただの駒じゃないか!それともたくさん人を殺すために存在してる兵器なのか?!僕たちだって、感情のある人間なのに!」
「・・・」
「他の貴族からは特権を得てると思われ、不満を持たれて、元は男爵家だから、子爵家だからと、魔法だけの公爵家だと揶揄される。冗談じゃない。あんな奴らを守る為に、僕たちは大事な家族を奪われても、我慢しろって言うのか」
僕はそこまで言ってから、レオ様を見ると、「・・・キャスはあんたの盾になるだろうよ。きっと、何も出来なくても盾にはなれるから。って、言われてるはずだ。キャスが死んだって、仕方ないで済ませられるんだろうな」
と、僕が吐き捨てるように言うと、
「リバー!」
シュナイダーが僕の頬を叩きました。
僕が睨むようにシュナイダーを見ると、無表情であるはずのシュナイダーの瞳が怒りで燃えていました。




