全てが好きなんて、有り得るのか
レオ様が帰って来て、5ヶ月が経ちました。
アンバー公爵様が倒れた後、私たちはアンバー公爵家に集まるようになってましたが、それは今も続いています。
アンバー公爵様は週に1回、シュナイダー様のお父様であるスターブ伯爵様の瞬間移動の魔法を利用して、王城に行き、お仕事をされています。
それから、シュナイダー様の誕生日会を今年も行うことになりました。
今回、レオ様が中心となって、準備をしています。
レオ様はとっても張り切ってます。
11歳の誕生日会があんなことになってしまったお詫びの気持ちもあるかもしれませんね。
「シュナイダー様」
私はシュナイダー様が大型犬さんや『のらさん』に餌をやっているところへ行きました。
「カサンドラ様。どうしたのですか?」
「レオ様に追い出されたのです。不器用が余計なことをするなって」
誕生日会の会場となる大広間では、レオ様、リバー、ルークが飾り付けをしている最中です。
誕生日会は来週なのですが、皆で集まれるのが今日しかないので、今日飾り付けを行うことになりました。
レオ様は自分たちで出来ることは、自分たちでやると決めているのです。
私も手伝おうとしたのですが、レオ様に止められました。ちぇ。
梯子を登って、紙で作った花を壁につけていたら、レオ様は何故か真っ赤な顔で、それでもレディか!と、怒ったのです(スカートの中が見えていたからです)。
当然、お祝いされるシュナイダー様も追い出されています。
「そうですか。何だか申し訳ないですね。私のために・・・」
「でも、レオ様、とても張り切ってますし、楽しそうですから、申し訳なく思う必要なんてないですよ」
「・・・そうですね。祖父も楽しみにしています」
「週に一日でもお仕事に出られるようになって、良かったですね」
「心配ですが、仕事に出ていた方が本人も生活に張りが出て、良いみたいなんです」
「五大公爵のお役目に誇りを持ってらっしゃいますもんね」
アンバー公爵様が復帰してから、王城内は落ち着いています。
ただサラ姉様とジャスティン殿下の結婚反対派は根強く、アンバー公爵様も手を焼いているそうです。
「うーん・・・」
私は花の冠を自分で作ってましたが、上手く出来ません。
シュナイダー様はそれに気付いて、
「貸して下さい」
と、手を出しました。
私は花をシュナイダー様に渡して、
「すみません。私、不器用で・・・一度も綺麗に作れたことがないんです。どうしてですかねー。出来たと思っても、花びらが全部なくなってるし・・・」
なんて言ってますと・・・。
「出来ましたよ」
「?!」
早い!器用過ぎます!
私がぽかんとしていますと、シュナイダー様は私の頭に花の冠を載せて、
「似合ってますよ」
「あ、ありがとうございます」
私は赤くなったのを自覚しつつ、お礼を言いました。
そこへ・・・。
「キャスー?」
レオ様の声が聞こえて来ました。
「レオ様!ここにいますよ!」
と、私が声を上げますと、レオ様が走って来て、向かい合っている私とシュナイダー様に気付きました。
「レオ様、どうしたんですか?」
「あ、キャスでも出来る仕事が出来たから、呼びに来たんだ」
「分かりました!すぐ行きます!」
と、私はレオ様に向かって、そう答えてから、シュナイダー様を見ますと、「シュナイダー様、頑張って来ますね!」
シュナイダー様は珍しく笑みを見せると、
「ええ。ありがとうございます」
私はレオ様と並んで歩きながら、シュナイダー様に作ってもらった花の冠を見て、上手だなあ。と、思っていると、
「・・・キャス」
「はい?」
「その、邪魔をして、悪かったな」
私はレオ様を見ますと、
「邪魔?って・・・」
「キャスはシュナイダーが好きなのだろう?」
「えっ?!」
私は真っ赤になりました。レオ様は立ち止まると、
「私は、アナスタシアが幼い頃と変わらず、シュナイダーが好きなことは知ってるし、アナスタシアが良い方向に変わったと分かっているから、もう何も言うつもりはない。かと言って、キャスとシュナイダーの邪魔をするつもりもない」
「・・・」
「キャス」
レオ様は私の手を取って、「私はキャスには誰よりも幸せになって欲しいと思っている。私がこうしていられるのは、キャスが救ってくれたからだ。だから、シュナイダーが好きなら・・・」
私は俯きますと、
「私のことはいいんですよ」
「いいって?」
「シュナイダー様はもちろん、私のことなんか好きになってくれる人なんていませんし・・・」
「え?」
「だって、私みたいな何の取り柄もない人間を誰が好きになるんですか!」
と、言って、私は笑いました。我ながらわざとらしい笑い声です。
ですが、レオ様は笑わずに、
「そんなことを本気で思っているのか?」
と、怒ったような口調で言いました。
「だ、だって、私、ほんとに殿方に好きになってもらえるような要素がないじゃないですか・・・」
レオ様は首を振って、
「そんなことはない。・・・キャスは優しくて、自分の事より、他人の為に一生懸命になれるところは私も習いたいと思っているくらいだ。それに、素直だし、裏表がなくて、嘘はつかないし、人を悪く言ったりしない。だから、誰よりも信用出来る。それに、いつも笑顔でいてくれて、私を和ませてくれる。キャスと一緒にいると本当に楽しいし、何より安らげる。キャスは内面が綺麗だから、見た目なんて関係ないと思うが、キャスはとても綺麗になったし・・・」
「・・・」
この王子様はいきなりどうしたんでしょうか?!は、恥ずかしくないんでしょうか?!私の長所が言えなければ、罰を与えられるゲームでもしているのでしょうか?!
私はあまりの恥ずかしさに、耐えられなくなり、
「ほ、ほら!元『ども噛み』持ちの挙動不審女には厳しいかなーって、思っただけですよ。本気にしないで下さい。あははー」
と、笑ってごまかすと、「私の事はもう良いのです!私は何はさておき、レオ様とローズマリー様の応援をすると決めてるんですからね!レオ様が愛するローズマリー様と幸せになれるよう尽力させていただきますからね!」
ちょっと変わった尽力の仕方になるかもしれませんが。
「愛する・・・」
レオ様は唖然として・・・「良くそんな恥ずかしいことを・・・」
「恥ずかしくなんかないですよ。レオ様は照れ屋さんですねー」
「うるさい」
「レオ様はローズマリー様のどこが好きなんですか?」
と、私が聞きますと、レオ様は困ったような顔をして、
「・・・どこって・・・」
「色々あるでしょう?」
私の長所(私は持ち上げ過ぎだと思いますが)をあれだけ言えたのですから、ローズマリー様の好きなところなんて、100個くらいあるでしょう!
レオ様は考え込んでいるのか、しばらく黙っていましたが、やっと、
「・・・ぜ、全部ってことにしとけ」
と、赤くなりながら言いました。
「ぎゃはーっ!」
私は両手で顔を覆うと、「レオ様の方が恥ずかしいです!」
「う、うるさい」
レオ様は早歩きになると、「行くぞ。あの二人だけに働かせてるからな」
「あ、そうですね!」
私はレオ様の後を追いかけました。
私にも全部好きだと言ってくれる殿方が現れたら良いのですが・・・無理か!
あくまでレオ様が思うキャスの良い所ですので・・・。
次話から、『魔法学園』入学前、最後にして、最大(大袈裟かな?)のシリアス展開が続きます。




