ルークはいい人です
現在、私はアンバー公爵様のお部屋でお話を聞いています。
今回はレオ様の理想の女性である『カーライル公爵の呪い』話で出て来た第三王女リリアーナ様のお話をして下さってます。
リリアーナ王女は父であり、『最悪の暴君』と呼ばれていたユージアス王の命令で無理矢理、他国に嫁がされてしまうことになります。
そのユージアス王は常に自分の行動に目を光らせ、自分の思うようにさせなかった五大公爵を疎ましく思い、五大公爵が同士討ちするよう画策し、4人の公爵を死に追いやると、残ったカーライル公爵に全ての罪を着せ、処刑を命じたのです。酷い事をしますよね!
実は、そんなユージアス王はレオ様の直系の祖先に当たり、おまけに同じ銀髪だったこともあって、レオ様はそれをとても嫌っていたのです。
ですが、アンバー公爵様が『あなたは、あなたの憧れである世界を救った女神とされるリリアーナ王女と同じ血を受け継いでいるのです。恥などと思うことはないのですよ。誇りと思うべきなのです』と、諭され、レオ様は考えを改めたのです。
そのうち、アンバー公爵様はうとうととされて、眠ってしまいました。
私は音を立てないように、アンバー公爵様のお部屋から出て行き、庭に戻りました。
庭では、お茶の用意がされていました。
シュナイダー様が私に気付いて、
「カサンドラ様。祖父は眠ったのですか?」
「はい。良く眠られてますよ」
「そうですか。ありがとうございます」
「キャス。今日のお話は何だったの?」
と、リバーが聞きましたので、
「リリアーナ王女のお話よ。アンバー公爵様はとても詳しいの」
「私の方が詳しいぞ」
と、レオ様が張り合うように言いました。
「殿下の憧れの女性ですもんね」
と、ルークが言いました。
「・・・」
ふふ。レオ様はその憧れのリリアーナ王女のような素晴らしい女性と出会ったのですよ!
何故かレオ様にはローズマリー様の事を誰にも話すなと口止めされています。
誰もレオ様からローズマリー様を奪おうなんて思わないでしょうに。
でも、ここは慎重になるべきなんですねー。ふふー。
「キャスちゃん、変な顔してるー」
クリス殿下がきゃっきゃ笑いました。
「クリス!」
と、シーア様がきつい口調で言いましたが、レオ様がゆっくりと首を振ってから、
「いや、アナスタシア。これはキャスが悪い」
「キャス。本当に酷いよ。やめようね」
と、リバーが諭すように言いました。
「・・・」
私、そんなに酷い顔をしてますか?
ちょっと楽しい事を考えていただけなのに・・・。
私がしゅんとなってますと、
「カサンドラ様。好きなチョコレートケーキがありますよ。酷い顔なのはもうどうしようもありませんから、諦めましょう」
と、ルークが言いました。なぬ?!
私は立ち上がりますと、
「このー!ルークめー!」
ルークの髪をぐしゃぐしゃにしてやろうと襲い掛かりましたが、
「本当の事を言っただけでしょう?!」
ルークが逃げ出しました。
「待てー!」
もちろん、私は追い掛けます。
「キャス。止めておけ。ルークに追いつくわけがないだろう。倒れるぞ」
と、レオ様が止めようとしましたが、
「追いつかないのは分かっているでしょうが、キャスは倒れたりしませんよ」
と、リバーが笑いながら言いました。
「しかし、キャスの体力の無さは想像を絶するくらい・・・あれ?走れてるな。幻か?」
「幻じゃないよー。キャスちゃん、ちょっとぽっちゃりさんになってたから、走ってたんだよー」
「それとあまりに体力がないので、母に命令されて、カーライル家の屋敷周りを走っていたんですよ」
リバーが補足しました。
それを聞いたレオ様は眉をしかめると、
「太る前に注意してやれよ」
「うーん。僕や両親はキャスが美味しそうに食べているところを見るのが好きでしたからねー」
「私は太っているようには思いませんでした」
と、シュナイダー様が言い、
「ぽっちゃりさんになってたキャスちゃん、面白かったよー」
クリス殿下はきゃっきゃ笑いました。
「はー・・・」
レオ様が溜め息をつきました。
それから、追いかけっこをしていた私とルークでしたが、私が転びそうになるのを、ルークが助けてくれました。
シーア様はそんな私たちを見て、笑うと、
「あれでもう休戦ですね。レオ兄様。キャス様とルーク様はいつもあんな感じなんですよ?」
「へえ・・・」
「僕に怒られたりして、キャスが落ち込むと、ルークがキャスをわざと怒らせて、元気付けようとするんですよ」
「ルーク様はキャス様の専属の騎士ですものね」
と、シーア様が言いました。
「?なんだって?」
「私のお友達のマーガレット・フォスター様にルーク様がそう言っていたそうですよ」
「キャスが危なっかしいから、そう言ったんでしょう」
「ふうん・・・」
レオ様は言い合いをしながら、戻って来る私とルークを見つめました。
私とルークが皆様のところへ戻って来ると、
「キャスもルークも手を洗って」
と、リバーが洗い場のある方向を指差しました。
「えー」
ルークは自分の手の平を見て、「面倒だなあ・・・」
あ!そうだ!
私は面倒臭がっているルークを尻目に先に走り出すと、
「ルーク!先に洗った方が勝ちね!」
「はあ?!ずるいですよ!」
と、ルークが慌てて、私の後を追い掛けます。
「負けた人は勝った人にチョコレートケーキをあげるんだからねっ!」
と、勝利を確信した私は笑いながら言いましたが・・・。
「うっうっ・・・」
当然ながら、やっと人並みに走れるようになっただけの私がルークに敵うわけもなく・・・。
「キャス。自分で勝負を言い出しておいて、それで負けたからって、泣くことはないだろう」
リバーは呆れながら言いました。
「だって・・・」
ちょっと調子に乗っただけなんです!
私がルークの前にチョコレートケーキが2個並んでいるのを恨めしげに見ていますと・・・。
「はー・・・」
ルークが溜め息をついて、「カサンドラ様。食べて下さい。どのみち2個食べる気なんかありませんよ」
チョコレートケーキを私の前に置きました。
「ルーク!」
何て素晴らしい人なんでしょう!今までかるーい扱いをして、ごめんね!「ありがとう!ルーク!大好き!」
と、嬉しさのあまりそう言いますと、ルークは真っ赤になりました。
リバーは途端に怒りの表情になると、ルークを睨みます。
シュナイダー様は安定の無表情で、クリス殿下はきゃっきゃと笑いました。
「うーん。美味しい!」
やっぱり、ルークよりチョコレートケーキの方が好きですね!
私はチョコレートケーキを美味しくいただいておりましたが、
「レオ様。どうしたのですか?」
頬が膨らんでますよ。また拗ねてるんですか?
「別に」
レオ様は素っ気なく言いました。
「・・・」
ちょっと失礼して、私はレオ様の膨れた頬を指でつついてみました。
すると、ぷすっ。と、レオ様の口から空気が抜けたような音がしました。
それを聞いたクリス殿下はまたきゃっきゃと笑いました。
レオ様は真っ赤になると、
「れ、レディが気安く男に触るものではない!」
と、怒りました。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
クリス殿下以外の全員が貴方にそれを言う資格はないでしょう。と、思いましとさ。




