ただいま
私は空を舞う美しい銀色の鳥さんをぼんやりと見つめていました。
すると、鳥さんがスーッと私の目の前に降りて来ました。
ガラス玉のように透明感のある瞳に私の顔が映っています。
そして、鳥さんが小さな口を開いて・・・。
『ただいま。キャス』
鳥さんはその言葉を残し、フッとシャボン玉が弾けるように消えました。
私がただただ呆然としてますと、
「ただいま。キャス」
と、背後から声がしました。
私は信じられない思いでしたが、振り返りました。
鳥さんと同じ銀色の美しい髪をばっさりと短く切り、ずいぶん男らしくなったレオ様が立っていました。
背が伸びて、体付きも逞しくなっています。
もう誰もレオ様のことを華奢だと表現しないでしょう。
銀色の髪をしていなければ、すぐにレオ様だとは分からなかったと思います。
でも、ガラス玉のような瞳は変わらず、吸い込まれそうな程、澄んでいます。
そんな瞳が私を見つめていました。
私があまりに何も言わないので、レオ様は苦笑いしながら、私の方へと歩いて来て、
「どうした。キャス。私は幽霊ではないぞ。何か言え」
「れ、レオさ、ま」
私は涙をこぼすと、「レオ様っ!」
と、ほとんど叫ぶようにレオ様を呼びますと、レオ様に向かって走って行きました。
レオ様が腕を広げ、私はレオ様に抱きつきました。抱きつくと言うより、どーんとぶつかりましたが、レオ様はびくともしませんでした。
「うえええーっ」
私は声を上げて泣きました。
また再会した時は笑顔で。なんて、思ってましたが、無理です!すみません!
「ああ。キャス。会いたかった」
と、レオ様は言うと、私を強く抱きしめてくれます。
「わ、わた、もっ、うえーっ!」
私はもう言葉にはならず、ただただ泣きました。
私、そうしてしばらく泣いてましたが、我に返ります。
い、いけません!レオ様の体はローズマリー様のものです!二度と抱きつくなんてしてはいけません!私ったら、自分から抱きつくなんて、何てはしたないんでしょう!レオ様のスキンシップ過剰が移ったに違いありません!
「れ、レオ様、も、もう大丈夫ですから」
私は慌てて、レオ様から離れました。
「?どうした?」
レオ様はきょとんとしましたが、次の瞬間、何故か顔が強張りました。
これには今度は私がきょとんとして、
「レオ様?どうしたのですか?」
「め、目線が同じではないか」
「は?目線?」
「身長はいくつになった?」
「ええと、158です。まだまだ伸び盛りです!」
「・・・」
レオ様が固まります。
「レオ様・・・?」
「ずいぶん伸びたと思っていたのに、まだ2センチも負けてる・・・」
レオ様は肩を落としました。
「たった2センチですよ?女の子の方が伸びるのは早いんですから、気にしなくてもいいんですよ」
と、私はフォローしましたが、
「・・・もういい」
・・・レオ様は拗ねました。
変わらないところがあって、私は何となくホッとしてしまいました。
そこへ、
「レオ様!」
リバーがやって来ました。
「リバー!」
さすがに二人は抱き合うことはしませんでしたが、再会を喜び合いました。
リバーはレオ様と握手しながら、
「予定より、2ヶ月も早いじゃないですか。どうしたのですか?」
と、聞くと、レオ様は途端に真顔になり、
「アンバーのじいさんのことはもちろん、他の事も知っている。自分の事だけを考えて、呑気に過ごしている場合ではない」
「まあ!」
私の母はレオ様を見るなり、卒倒しそうになりましたが、何とか持ちこたえると、「レオンハルト殿下!ずいぶんとご立派になられて!」
「奥方も元気そうで何よりだ」
「いつ帰られたのですか?」
「昨日だ。昨日、カーライルには会ったが、黙っていてもらった」
「えー、そうなんですかー?」
と、私は不満げに・・・「何も黙っていることなんかないですのにー」
「驚かせたかったんだ」
と、レオ様は笑って言いました。
「まあ、分かりますけど・・・あ、魔力の制御を解いたんですね」
鳥さんを作ってましたもんね!
「ああ。それも昨日やった。昨日のうちに色々と済ませておいたんだ。今日、早いうちに、アンバーのじいさんを見舞いたかったからな」
「昨日・・・」
昨日、魔力の制御の術を解いて、もう鳥さんを飛ばしたんですか?!わ、私、かれこれ10日もかかったのに!(実はレオ様は制御解除後、誰にも教えてもらうことなく、1時間もかからないうちに鳥を飛ばしてます。物凄く早いです)
・・・私が一人ショックを受けていますと、
「どうでした?アンバー公爵様は」
と、リバーが聞きました。
「ああ。ずいぶん痩せたな。でも、相変わらず話は長かったから、頭や口は弱ってないようだな」
レオ様はやや可愛くない事を言っていますが、とても安堵しているようです。
「それにしても、レオ様は王城での事を良くご存知でしたね」
「私にも諜報員がいるからな」
レオ様はにやりと笑います。
「え?!」
「私に余計な心配を掛けたくないと、何も知らせない可能性があると思っていたから、ルークの母君に頼んでいたんだ。あれは持ち前の明るさで昔から友人が多く、情報源をたくさん持っている。それに口が上手いから、誰でもぽろっと口を割ってしまうんだ。まあ、伯爵夫人かつ騎士団団長の妻だから、信用もあるしな」
「な、なるほど」
そう言えば、ルークも噂話やらを良く知っています。全てルークママ情報だったんですね!
それから、皆でお茶をしながら、レオ様の向こうでの生活の話を聞きます。
レオ様は何故かあまり自分のことは話したくないようで、ルークの御祖父様や御祖母様の話ばかりします。
どうしてかな。と、私は思ってましたが、ハッとしました。
「あーっ!」
「キャス・・・どうした?」
「レオ様!」
「そんな大声を上げなくても聞こえているぞ」
「さっき見せてなかったんですけど、池をバージョンアップさせたのです!是非見て下さい!」
「あ、ああ。めだかにも会ってなかったな」
「そうですよ!めだかさんも喜びます!行きましょう!」
私はレオ様の手を引っ張りました。
私ったら、うっかりしていました!
ローズマリー様のお話を聞かなくてはなりません!




