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癒しの乙女の永久なる祈り  作者: トウリン
第九章:剣士の帰還
55/72

他愛

 焚火の炎がパチンと音を立ててはぜる。一瞬強まった光で、周囲の暗闇が束の間遠のいた。

 何ヶ月も前、国から追われてこのトルベスタの山中を進んだ頃はまだ夜も苦も無く過ごせたが、今は陽が落ちると随分と冷え込んでくる。

 遠巻きにした炎の温もりに小さく息をつきながら、エディは横目でルゥナの様子を窺った。

 彼女は、双子の弟から片時も離れようとしない。


 いや、逆か。


 ソワレの方が、ルゥナを放そうとしないと言った方が正しいのだろう。

 今も胡坐をかいた脚の上にルゥナを座らせ、大きな身体で隠すように長衣の中に包み込んでいる。その姿は夜気から彼女を守ろうとしているようにも見えたし、他の者を近付けまいとしているようにも見えた。

 ルゥナはルゥナでエディたちといた時よりも明らかに寛いでいて、彼は何となく面白くない。


(彼女が良いならそれでいいじゃないか)

 むっつりと自分自身にそう言い聞かせても、やっぱり面白くないものは面白くなかった。

 そんなエディの不機嫌さなど気付いた様子もなく――もしかしたら気付いていてほくそえんでいるのかもしれないが、トールが朗らかに声をあげる。

「そう言えば、ルゥナを見つけたのって、この辺りだったっけ?」

「もう少し、北だ」

「あの洞窟からここまででも結構距離あったけど、こんなところ、よく一人でいられたねぇ」

 感心したようなトールの台詞に、ルゥナの背後のソワレが身じろぎした。そもそも山奥に彼女を閉じ込めたのは彼なのだから、居心地が悪くて当然だろう。

 そんな弟の気持ちが伝わったように、ルゥナが慌てて頭を振る。が、その内容もまた、微妙に場を緊張させるものだった。

「ううん、独りじゃなくて、ピシカが一緒だったから――」

 その名を言ってしまってから、ハタと彼女は口をつぐんだ。

「えっと……」

 気まずげにうつむいたルゥナに迷いのようなものを感じて、エディはまた苛立ちを覚える。


「ルゥナは、結局どうするつもりなんだ?」

 唐突に切り出したエディに、ルゥナが戸惑いの眼差しを向ける。

 彼としては、ルゥナが封じられていた洞穴を後にしてからずっと口にしたかった問いだった。しかし、彼女の方は、不意打ちを食らったかのように目を見開いている。

「どうって」

「邪神のこと、アイツの言うことに従ったりはしないんだろ?」

「それは……」

 エディには、何故ルゥナがすぐさま彼の言うことに頷かないのか、理解できなかった。

「まだ迷っているのか?」

 無言は何よりも雄弁な答えだ。

「ルゥナ?」

 強い口調で名前を呼ぶと、ルゥナではなくソワレが反応する。


「声を荒らげるな」

 姉を抱え込む彼の腕がより深く回され、白銀の頭以外見えなくなってしまう。無性にその腕の中から彼女を引っ張り出したくなって、エディの腰が浮きかけた。

 と、そこに呑気な声が割って入る。

「ちょっと待った、エディ。少し状況を整理しようよ」

 立ち上がってルゥナに詰め寄りかけたエディの服の裾を引きながら、トールがにっこりと笑った。そうして、彼の返事を待つことなくルゥナとソワレに目を向ける。

「僕たちの間で言い伝えられてきたのは、昔邪神が現れました、神器と『印』を手にした英雄が現れて邪神を封じ込めました、英雄の子孫はいつか邪神が復活する時に備えて神器と『印』を引き継ぎましょうということになりましたって感じなんだよね。で、律儀にそれを実践してきたわけ」

 そう言って、トールの手が横に置かれた聖弓に触れる。視線をそちらに向けてはおらず、多分無意識の所作なのだろう。


 エディもトールも、神器と『印』に対しては責任、自負、畏怖――そんなものを抱いてきた。とても重いものでありながら、同時に、彼らの存在意義の一つでもあったのだ。

 息継ぎともため息ともつかない小さな吐息を一つこぼして、トールは再び口を開いた。

「でも、実際は、英雄たちは何もできてなかったんだよね。そして、ピシカの言葉によれば、神器にはもう意味はない――『印』も。邪神を封じるには、ルゥナだけがいればいい。君の身体をピシカにはいどうぞと差し出せば、僕らは平穏に暮らしていけるわけだ」

「トール!」

 声を荒らげたエディに、トールはチラリと目を寄越すことすらしない。彼の視線は、ルゥナだけに向けられている。そして茶化した口調とは裏腹に、その眼差しはルゥナを貫き通しそうに鋭かった。

 エディは思わず小さく息を呑む。

 トールがそんな目をすることは、滅多にない。

 穏やかな物腰の後ろには、やはり何かがとぐろを巻いているのだ。


「エディ様」

 静かな声でスクートに呼びかけられ、エディは浮いた腰を下ろした。トールはエディの方を見てもいなかったが、彼がそうするのを待っていたかのように、続ける。

「さて、じゃあ、これからが本題。邪神は実は違う世界からやってきた存在だった。本来この世界の人間がどうこうする必要はない――つまり、ルゥナが身体を差し出す義務はこれっぽっちも無いわけ。はっきり言って、さっさと元の場所に帰れって感じだよね。来ることができたなら、去って行くこともできるわけだし」

「まあ、それが筋だが、あの化け猫もどきが『はい、わかりました』と言うことを聞くと思うか?」

 そう口を挟んできたのは、ヤンだ。


「私はあのピシカとやらのことを良くは知らんが、アレはこの世界などどうでもいいと思っているようにしか見えなかったがな」

「そんなこと!」

 肩をすくめたヤンの台詞を半ば遮るように上がった声に、一同の視線が集まった。それを発したルゥナは、皆に見つめられて初めて自分が声を出していたことに気付いたように、口を閉じる。

「あの、ごめんなさい……」

 その謝罪は、大きな声を出してしまったことに対してなのか、それとも敵に回った存在を未だに庇おうとしてしまったことに対してなのか。

 ソワレの長衣にすっぽりと包まれていたルゥナは、一瞬迷い、そして弟の腕をそっとどけた。


「ごめんなさい。でも、ピシカは、この世界のことをどうでもいいとは、思っていないと思うの。だって、そうならとっくの昔に邪神を残してどこかに行っちゃってるはずだもの。ピシカだって、きっと助けたいと思ってる――この世界も、邪神も」

「まさか。あんな嫌味たらしいやつがそんなこと考えてるわけがないだろ」

 ピシカのことを良く考え過ぎなルゥナを、エディは鼻で嗤う。けれど彼女は、かぶりを振った。

「ううん、絶対、そう。わたしは、そう思うの。だって、ずっと一緒にいたんだもの。確かに言葉ではいじわるな事ばかり言ってたけど……」

「心底から意地が悪いだろ、あいつは」

「いじわる、かもしれないけど、でも、この世界のこと、どうでもいいとは思ってないよ」

 言い張るルゥナは、一歩も引きそうにない。

「わたしはピシカを信じてるもの」

 そう断言した彼女のいつも物静かな瞳に、今は強いきらめきが宿っている。

 エディはそれ以上何も言えなかった。

 あの得体の知れない存在をそんなに信じるのは危険だと言ってやりたかったが、言えなかった。


 唇を引き結んだエディの肩に、ポンと手が置かれる。

「まあまあ、そんなに熱くならないで。ルゥナがピシカを心の底から信じていることは伝わってきたんだけど、じゃあ、さっきのエディの質問。君はこれから自分がどうするか――どうしたいか、定まった?」

「え……」

「ピシカの言うことを信じて、邪神の入れ物になる? それとも、彼女を退けて、別の方法を探してみる?」

「それ、は」

 視線を落としたところを見ると、ルゥナはまだ揺らいでいるらしい。

 だが、エディに言わせれば、迷うことなどないのだ。


「ルゥナ」

 背後からソワレが彼女の名前を呼ぶ。静かな声音だったけれど、ここでルゥナが前者を採れば、また彼女をどこかへ監禁することも厭わないだろう。そう思わせる熱が、彼のその声には潜んでいた。

 ソワレの腕に力がこもったのか、ルゥナが身じろぎをする。

 口ごもったルゥナに、トールは続ける。

「最終的には君自身が決断することに僕らがどうこう口出しはできないけど、もしもピシカの方法を取ることにしたなら、君がその答えを選ぶ理由を教えておいて欲しいな」

「理由?」

「そう」

 トールが頷き、促すように小首をかしげる。

「それは、だって、世界を――みんなを守る為、だよ」

「皆、ね」

 ルゥナのその一言を繰り返したトールの瞳が、焚火の灯りを受けてきらりと光る。


「その皆って、誰のこと?」

「誰って……」

「この世界中の生きとし生ける全てのもの?」

「それもあるけど、わたしは、わたしの好きな人たちに幸せに暮らして欲しいの」

「君の好きな人って、その弟君とか、エディとか、フロアールとか僕とか? 僕たちに、幸せになって欲しいの? だから、邪神に身を捧げる?」

 畳みかけるように言うトールに、ルゥナの目の中の戸惑いの色が濃くなっていく。

「そう、だよ」

「つまり、君が大事に想っている僕たちに喜んで欲しいわけだ」

「う、うん」

 ためらいがちにルゥナが微笑むと、トールはニッコリと笑顔になった。が、彼と長い付き合いのエディには、その茶色の目は笑いとは程遠い色を浮かべているのが見て取れる。


「残念、多分、君の思うようにはいかないな」

「え?」

「君が『世界の為に』と身体を投げ出しても、それを手放しに喜べるのは君のことを名前すら知らないような赤の他人だけだよ」

 朗らかといってもいいかもしれない声でのトールの台詞に、ルゥナは絶句した。目を見開いてトールを見つめている彼女に皆の視線が集まるが、彼女自身はそれに気付いていないようだった。

 そんな彼女に、トールは追い打ちをかけるように続ける。


「確かに、僕にとって、ルゥナは家族や民より大事な人じゃないよ? いざとなったら、より親しい人を守る方法を優先する。だけど、だからと言って、『僕たちの為に君が犠牲になってくれます』と言われて単純に『わぁ、ありがとう、恩に着るよ』で済ませられるほどどうでもいい存在じゃないから」

「トール!」

 柔らかな口調でキツイことを言うトールをエディは睨み付けたが、彼は全く意に介していない。

「随分身も蓋もない言い方だな」

 そう言ったのはヤンだが、彼の眼差しにトールを責める含みは皆無で、むしろ笑顔だ。多分、トールの言葉に賛同するところが大きいのだろう。


「まあ、君に対する思い入れがその程度の僕でさえそうなんだから、君の弟君とか、君のことをすごく大事に想ってる人は、とてもじゃないけど『助けてもらって嬉しい』とか、思えないんじゃないのかなぁ」

 トールはそこで初めてチラリとエディに目を走らせた。

「ルゥナは、大事な人の為に何かしてあげたい、大事な人に幸せになって欲しいって気持ちは強そうだけど、逆のことは考えたことがある? 君のことを大事に想ってる人が、君に『どうして欲しいか』じゃなくて、君に『どうしてあげたい』、『どうなって欲しい』と思っているか」

「わたし……」

 ルゥナが、どうしていいか判らないという眼差しでソワレを振り返り、そしてエディたちを見た。


 エディには、何故ルゥナがそんなに戸惑っているのか、理解できなかった。

 彼女が助けの手を差し伸べれば誰もが皆何も言わずに受け入れる――たとえそれが、ルゥナ自身のことを顧みない行為であっても。

 それを当然のことと考えていることが、エディには理解できない。

(なんで、そんなに自分のことをないがしろにできるんだ?)

 誰かにとって、自分がかけがえのない存在だと思ったことは、ないのだろうか。


 エディは、自分のことを、父に、母に、フロアールに、スクートに、サビエに――彼を取り巻く全ての者にとって大事な人間であると思ってきた。エディは彼らのことを大事に思い、彼も彼らにも大事に思われている。

 だから、彼は自分自身のことを大事に思う。


 そんなふうに、ルゥナは思い思われていないのだろうか。


 ふと、彼女の背後のソワレと目が合った。

 深紅の瞳孔を持つ漆黒の瞳は、その闇の色よりも深い陰りを帯びている。

 多分、悲しみとか寂しさとか、そんなものに一番近いものだと、エディは思った。

 ルゥナのことをどれだけ大事に思っているのか解かってもらえていない寂しさ、そして、一抹の諦め。

 彼に見られていることに気付くと同時にそれは拭い去られてしまったけれど、ルゥナの双子の弟が抱いているものは、エディの中に深く刻み込まれた。


(俺は、そんなのはイヤだ)

 ルゥナに、自分がどれだけ彼女のことを大事に想っているのか、ちゃんと解からせたい。


 そう思った瞬間、ろくに考えもせず口を開いていた。


「俺は、絶対反対だからな」

「エディ」

 パッとルゥナが彼を見る。その目を見据えて、言う。

「俺はベリートのこと、今でも悔しい」

 離れていても、ルゥナがハッと息を呑んだのが聞こえた。

「ベリートがああしてくれなかったらもしかしたら今俺は生きていないのかもしれないけど、それでも、ベリートが俺達を守る為に死んだことは嬉しくない。今でも、俺の気持ちも考えろよ、とか思ってる。ベリートにあんな方法を取らせた自分の弱さが腹立たしいし、俺に選択肢を与えてくれなかったベリートにも腹を立ててる」

 ベリートのことを持ち出したエディに、ルゥナは俯いた。彼を失ったことを――彼にその選択をさせたことをエディがどれほど悔いているか、彼女は知っている。

「だけど……だけど、ベリートさんは、エディの傍にずっといてくれた人で……そんな人とわたしじゃ、全然比べものにならないよ。それに、わたしは死んじゃう訳じゃないし」

「ベリートよりも一緒に過ごした時間が短いから、君を酷い目に遭わせても平気な筈、か? そんなわけないだろ。それに、生きてるからそれだけでいいってわけでもない」

「ひどい目、なんて……」

「酷いだろ」

 しどろもどろのルゥナに、エディはピシャリと返した。


 人は人と繋がりながら生きていくものだ。

 その繋がりを築くこともできずに永遠にも近い時を生きていくことのどこが、『酷くない』というのか。

 ――今、エディたちと結ばれている絆を、ルゥナは無かったことにできるのか。それで、なんとも思わないのか。


 エディは、そうは思わない。


「まあ、でも、『永遠に美しく』ってのは、女性の夢じゃないですか?」

 重くなった空気を和ませようとしたのか、サビエが茶々を入れた。エディはそれをひと睨みで黙らせる。そうして、最後にもう一度、繰り返す。

「とにかく、君が『是非ともやりたい』って言うんじゃなければ、俺は絶対反対だからな」

 本当は、ルゥナが是非にと願っていても、嫌だった。だが、彼女が心の奥底ではそんなことを望んでいないことは判っている。

 これまでだって他の者に手ひどく扱われてきたというのに、寂しがりやで人が好きで好きで仕方がないルゥナ。

 彼女は、けっして独りでは生きていけない。

 言葉も交わしたことのないような相手の、ほんの小さな傷すら見過ごせず、つい手を伸ばしてしまう少女なのだから。

 何くれとなく世話を焼くフロアールに、サビエの能天気なからかいに、おずおずと、けれど嬉しそうに笑顔を返す彼女を見てきたのだから。

 名前を呼ばれるだけで顔をほころばせ、瞳の中の星を煌めかせる。

 そんな彼女が、孤独の中で生きていきたいと思うわけがない。


「ちょっとでも迷ってるなら、断固阻止する」

 断言したエディに、ルゥナが困ったように他の者を見回した。

 スクートは生真面目な顔で見つめ返し、サビエはへらへらと笑って肩をすくめ、トールは苦笑している。そして彼女が最後に目を向けたヤンは、穏やかに言った。

「己自身を軽んじるということは、周りにいる者のことも軽んじているということだからな。自分のことを取るに足らないモノだと思えばこそ、扱いも軽くなる。お前は、『ルゥナ』という存在よりも『邪神の器』の方が重要なものだと思っているのだろう?」

 静謐だが鋭いヤンの眼差しに捕らえられたルゥナは、ソワレの腕の中で肩を強張らせていた。

 そんな彼女を見つめたまま、蛮王はその容貌らしからぬ染み入る声で続ける。

「少なくとも、私が今ここにいるのは、『邪神の器』の為ではない」

 はるばる飛竜を駆ってきたのは、ルゥナ自身の為。

 そうやって彼女のことを気にかけている者たちのことがどうでもよいならば、好きにしろ。

 ヤンの台詞は、そんなふうに言っているようにも聞こえる。


 淡々とした、しかし脅迫めいた彼の言葉に、ルゥナはうつむく他に視線のやり場がなくなった。

 シンと静まり返った中に、ポンと一つ、手を叩く音が響く。

「まあ、ルゥナがどうするかっていうのは結局ルゥナ自身にしか決められないしね。これ以上、僕たちがどうこう言っても仕方がないんじゃないかな」

 一番痛烈な言葉でルゥナを攻めていたのはトールのような気がするが、彼はそれを棚に上げて皆に笑いかけた。

「結論出すにはもうちょっと時間もあるし。今はもっと簡単なことに目を向けて……取り敢えず、エディの剣を手に入れようよ。ある意味凄いんだろうけど、エディは『印』の力を制御できてないみたいだからねぇ。ぼちぼちピシカもなんかしてくる頃合いだろうし、うっかり力使う度に剣が壊れちゃうんじゃ、困るでしょ? 神器なら耐えられるらしいし」

 褒め言葉が入っていても、さっぱり褒められた感じがしない。


 エディは眉をしかめてトールに返す。

「だけど、シュウ女王は? シュリータに戻らなくていいのか?」

 魔物の襲撃は、やんでいる筈だった。洞穴を発つ前に、ソワレがそう言ったのだ。もう魔物は操っていない、と。

「残ってるとしたらマギク兵だけでしょ? シュウ女王ならとっくの昔にけりをつけてるよ。実は、もう報せを飛ばせちゃったんだよね。このままエデストルに向かいますよって」

「はあ?」

「だってどうせ、ピシカはルゥナを狙ってくるんでしょ? 戦力的にシュウ女王は欲しいけど、だからと言ってこれからシュリータに戻ってまたエデストルに出向くとか、効率悪いじゃないか。エデストルで落ち合うようにした方が、話が早い」

「トール王子の言う通りではあるな。エディ王子の力を無駄にしない為には神器があった方が良いし、どうせ手に入れるなら一刻でも早い方が良い」

 トールの提案にヤンが賛同する。二人が結託しているのに、エディの入り込む余地があるだろうか。

 それに、実際、理に適っている。

 納得はするが、勝手に決められて、エディは何となく楽しくない。


(結局、ルゥナは俺の言うことなんてたいして気に留めてくれないんだろうし)

 下を向いたままのルゥナが何を考えているのか、どうしようと思っているのか、さっぱり判らなかった。

 焚火をまたいで彼女の前に行き、顔を上げさせたい。

 そうして、その目を覗き込んで自分自身のことも考えろと言ってやりたい。

 そんな衝動に駆られて、エディは尻の辺りがムズムズする。

 こちらを見ようともしないルゥナを見続けていたら、その背後のソワレに睨み返された。まるで見るなと言わんばかりに、彼女をより深く懐に抱え込み直すのが腹立たしい。


(お前だって、ルゥナを止められないくせに)

 胸の中でそう言ってやると、その声が聞こえたかのように、ソワレの目が光った。

 そんな声なき剣呑なやり取りに気付いているのかいないのか。

「じゃあ、これから先は西ですね」

 主の不満顔にはお構いなしに、スクートはそう言った。


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