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ホリスタ

「穴渕君。どうだ、落ち着いたか?」

 矢馬鍋は、穴渕に押さえ付けられたまま話し掛けた。

「はぁ! はぁ! 先生……。間に……合った……みたい。お腹の痛みが退いていく……」

 穴渕は、矢馬鍋の上から退くとそのまま、矢馬鍋の足元に座り込んだ。

「なんじゃ、かような所におったか。探したぞ」

 突然声が聞こえた為、矢馬鍋達は悲壮な表情のまま、手を握りあった。その時、穴渕の後ろのドアが開き、坂下が入って来た。

「うわぁぁぁ! おっ、おま、お前は、何だ! どうやってここに来た」

 矢馬鍋は半狂乱に成りながら叫んだ。が、坂下はそれを聞こえなかったかのように穴渕の横まで行くと、穴渕に上着を被せ穴渕の横に座り込んだ。

「それにしても、お前も不幸な女子じゃな。このような臆病者のいいなりになり、我が子を身篭るとは。しかし、お前が我が子の母になるのであれば、お前は我が妃に他ならん。お前の事は我が守ってやるから安心せい。……時に男よ。貴様、我の何を調べておったのじゃ? 今も我が子に餌をやってくれたようじゃから、貴様も我が守ってやる。じゃから白状せい」

 正体不明の浩二に、矢馬鍋は怯えた表情をしていたが、諦めたのか、一呼吸おいてゆっくりと話し始めた。

「初めは本当に、新種のウイルスの研究だった。ウイルス自体のメカニズムの解明とその抗体となるワクチンの開発。これが私達の役割だった。しかし、調べていくうちにある事に気が付いた。それは、ウイルスの侵入による状態変化ではなく何物かの寄生による生態改造である事だ。この生態改造が、どこかの国又は、我が国における生態兵器の可能性もあるとして、これの無力化ならびに、これの構築構造の把握、強いてはこれに関する一切の関連事項の調査が、我々の職務として言い渡された。私の職務は、寄生生物の解明と、生態機能の調査及び研究だった。始めは、捕獲を行い易かったプラントモンスターから入り、モンスター捕獲に伴い戦闘員の育成を行った。戦闘員が軌道に乗ると同時にアニマルモンスターの捕獲に移行し、両モンスターの生態調査・細胞研究・同モンスター化していない植物や動物との比較等を中心に行った。研究を始めて最初に分かった事は、モンスター化すると体液の色が青色に近くなるという事だった。植物は黄緑色から鮮明な青色へ、動物は赤色から黒っぽい青色、暗い紫色へ。また、固有差かあり牙が発達するモノ、爪が発達するモノ、幹の硬化が発達す

るモノ、枝や根を自在に伸縮出来るモノと変化形態が一定化しないのも特徴的だった。そうした中で私はある疑問に辿り着いた。この生態機能の全く異なる、元同種族間において子孫を残す事は可能なのかと。もし、これにおいて子孫繁栄が可能になってしまうと、いくら駆除を行おうと駆逐に限界が生じてしまう。そう考えた私は、いろいろな植物、動物において、配合研究を実施した。そんな時に君が運ばれて来たのだ。私は、それは嬉しかったよ。今までもし人間に寄生した時に打つ手なしという状況も覚悟していたからね。しかし、君が運ばれて来た。私は今まで、動植物に行った実験を君にも同じように行った。解剖実験を除いてだが。そこで、新たなる発見があった。他のモンスターの時は、配合研究を行ったと言っただろう? これは、どの種族も性意欲、交配の欲が全く無かったからなのだが、君は違った。君には異性を求める欲、交配欲・性欲があったのだ。私は、この研究にモニタリングしてくれる人材を募集したのだが、見付からなくてねぇ。たまたま、私の側近にいた、この穴渕君が研究に大変興味があるようだったので協力してもらったのだ。そして彼女は懐妊した。これ

くらいで、いいだろうか?」

 矢馬鍋は、一度に多くを話した為か少し落ち着きを取り戻していた。

「私協力するなんて言ってません! 先生が無理矢理!」

 と言ったところで浩二が口を挟んだ。

「うむ。よいとしようか。しかし無駄足じゃったな。貴様の研究とやらも、『キラヘル』のしもべで終わっておけばよかったものを。我をモルモットにしたせいで、内容が混乱に陥ってしまったようじゃの」

「ちょっと待ってくれ。先程の『キラヘル』とはなんだ? そして君の話し方からすると、君はその『キラヘル』のしもべでは無いような言い回しだが……」

「さよう。我は『キラヘル』ではない。我は『ホリスタ』、『キラヘル』とは対を成す存在よ。貴様、先程配合研究だとか言っておったな。それの答えをくれてやろう。あの植物や動物において交配意欲が無く、また子を宿す事も無かったと言っておったがそれは当然じゃ。『キラヘル』とは、唯一無二の存在を示し、それの守護者としてしもべを作り出す。その過程はいとも簡単な事で、『キラヘル』の体外組織、云わば皮膚のカケラが生命体に憑依すると、その適性により『キラヘル』のしもべへと変化する。この時、オリジナルであった肉体構造や精神構造は破壊され、強靭な肉体・狂暴な精神へと作り直されるのじゃ。その為、肉体と精神の再構築期間として、意識不明状態になるという事じゃ。ここまでで分かったとは思うが、『キラヘル』によりしもべへと変えられた時点で、もう子孫を残す事も叶わぬ肉体になってしもうておるのじゃ。……貴様、その疑問を隠せぬ顔をするのは止めい。何故かという事じゃろ? それは、確かに生物である以上、子孫を残す遺伝子伝達機能は残っておる。しかし、その遺伝子伝達機能自体も『キラヘル』の寄生に伴い、強靭・狂暴に変化してしまって

いるのじゃ。平たく云うと、精子は卵子を食い散らし、卵子は精子を鉄壁にて拒むと云う事じゃ。分かったかの。あとは我の事じゃったな。我も唯一無二の存在ではあるが、自我の細胞をもって他を侵食するという機能は持ち合わせておらん。その為、遺伝子伝達機能が機能しなくなると云う事も無いという訳じゃ。……これはオリジナルの『キラヘル』も同じだかな。分かったか? ……女子、オヌシ穴渕と云うのか。名は何と申す? 我が妃の名を知らなんではいかんであろう?」

 当然話し掛けられた穴渕は、ビクッっと体を震わせたが、すぐに浩二の方に向き「真由子まゆこ。穴渕真由子」と言った。

「真由子か。良い名じゃ。これからはよろしく頼むぞ。真由子よ」

 と浩二は、穴渕の肩を抱いたが穴渕はそれを払いのけ、浩二をキッっと睨むと……。

「ちょっと! 聞きたい事があるんだけど! ねぇ、この子ちょっとおかしいんじゃない? なんでお腹の中にいるのに、精子欲しがるのよ。っていうか、母体を痛め付けて精子を欲しがるってどういう子よ。普通受精の時だけでしょ精子が必要なのって! ねぇ、答えなさいよ!」

 怒りの表情で話し掛ける真由子を優しく見つめながら、浩二は口を開いた。

「それは、申し訳ない。我は『キラヘル』と違い、子を宿す能力は維持しているものの、その精神的狂暴性は変わらぬ。我は自我を落ち着けているが、子にはそれが出来ぬ故、まだ赤子にも満たないうちより、肉食で狂暴的なのじゃ。ただ、真由子が思うておるように、母体を傷付けて暴れるという事はない。ただ、暴れておる事により痛みを生じておるだけで、そなたの体が傷むという事はないので安心せい。そしてその餌となるモノじゃが、我のモノではいかぬのじゃ。我のモノでは、普通の人間に比べそのモノ自体が強靭過ぎる故、子が補食出来ぬ。人間のモノは、ただの遺伝子伝達機能の塊でしかない故、餌として最適なのじゃ。と云う事で、貴様! まだ暫くの間、我が子の補食係としてよろしく頼むぞ」

 そう言うと、再度穴渕の肩に手を掛け、穴渕を自分の方へ引き寄せた。

「ところで、貴様らこれからどうするつもりじゃ。『キラヘル』が目覚めた以上、何処に居ても奴らに狙われる事は必至。しかも、貴様らは戦力を全く持たぬという状態にある。いくら我とて貴様ら二人を守りつつ戦うというのは、些か不安でもある。……そこでな、提案なのじゃが貴様ら戦力を強化せぬか? ここから西に行くと『キラヘル』のしもべでも無いにも関わらず、強い戦闘力を持った者達が4体程集結しておる。今後、『キラヘル』共が攻め入った際に身を守る術を持っておくべきではないかの。また、今は『キラヘル』もこの界隈にしか進出しておらん様じゃが、この界隈を平定さすれば、近隣の國にも軍を進めるじゃろうな。その前に食い止める必要があるのではないか? どうじゃ、悪い話では無いと思うが」

「西? また、とてつもなくアバウトな事を言うな。西と言っても広いぞ。西のどの辺りなんだ?」

「先生。私、何となく分かる気がする。兵庫県、三田の方よ」

「ほう。真由子、お前、我が子を宿したことでさような事まで分かるようになったか。それでは参ろうかの。……貴様、ほれ! そこにおるドライバーとやらに行き先を告げぬか」

 浩二に睨まれた矢馬鍋は、渋々後部車両を降りると助手席に移動し、ドライバーに行き先を告げた。

 救急車はサイレンを流さずに、今、正志達の下に向かっていた。



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