変化
「浩二! どこだ! 浩二! どこにいる! 返事しろよ!」
木村達はEVに乗り、研究所の最下層まで来ていた。研究所内は薄暗く見通しは悪かったが、先程まで人がいたという気配はまだ残っていた。
「浩二君! お母さんよ! どこにいるの! 返事して! お願い!」
薄暗い部屋の中は、木村達がいても物音一つ無かった。木村達は、分散して区画内を探索すべきではないか、または何があるか分からないと単独行動は控えるべきかと、意見が割れていた。
「こうしていても、埒が開かねぇ。お前ら、なるべく単独で移動せず、3人以上で行動しろ。あと、お前らは浩二の顔しらねぇやろ。だから、何かおったらすぐ連絡しろや。連絡方法は任せる」
と、木村が言い終わった時だった。
「ん? みんな動いたらあかん! なんかおる! 木村の耳には何も聞こえてへんみたいやけど、臭うでこの部屋ん中におる。複数やない。一匹……いや一人や。……なぁ! あんた浩二さんか! それやったら、俺らあんたを助けに来たんやで! 姿見せてくれへんか? あんたが誰かは分からんけど、あんたの臭いはごっつうしよんねや。どや、出てきてくれへんか?」
犬飼が呼び掛けながら数歩歩いた時だった。物陰から突然黒い影が飛び出てきたと思うと、犬飼を背中から押し倒した。
「浩二!」
「浩二君!」
飛び出てきたモノの姿を見た途端、木村と浩二の母親は同時に叫んでいた。
「はぁぁぁぁ! ……よく来たな、『キラヘル』のしもべ共。我の名は『ホリスタ』、『キラヘル』とは対を成すモノよ。坂下浩二という人格は、既に我が取り込んだ。一度しか言わぬ、貴様達も、ここで消されたくなければ、早急に立ち去るがよい。間もなく『キラヘル』の目覚めが始まる。」
浩二はそう告げると、犬飼の上からスッっと退いた。
「おい! 何言ってんねん! 浩二はなあんたを助けなとここまで来たんやで! 何アホな事言うてんねん!」
羽瀬が浩二の肩を持とうとした時だった。
「一度しか言わぬと申した筈だ。貴様達の触れてよい身体ではないわ! さっさと『キラヘル』の下に帰すがよい! すまぬが、貴様はもう手遅れだがな」
そう言って浩二が、羽瀬の方を振り向いた時には、羽瀬の身体は左右真っ二つに割れて転がっていた。
「羽瀬! ……浩二! テメェ何て事しやがる!」
「待って、木村! あの羽瀬がこの有様よ。コイツの言う事聞いた方がいいわ」
「けどよ!」
木村達は仲間割れを始めていたが、それもすぐに治まらざるを選なかった。
「うるさい愚者共よ。ここで朽ちるか? 貴様達は、この者を救うべく来たのであろう? だからこそ『キラヘル』のしもべにもかかわらず、見逃してやろうと言うのに、朽ちてモノ言えぬモノに成りたいと言うのであれば、今すぐその望み叶えてやるぞ」
浩二の地の底から聞こえるような声が聞こえた途端、木村達は、ふと我に還り最下層を後にしようとした。その刹那、頭に直接何かが入り込むような感覚に襲われた。
『我がしもべ達よ時は来た! 我が下に集い我を守護せよ! 我は『キラヘル』の長なり! 我はこれより大坂の社に身を移す。大坂の社に集いて我を待て! この命は絶対である! 背く事ならん! 背くモノには、瞬時なる死を!』
声が聞こえた途端、木村達は背筋が凍るような感覚を覚えた。
「今度は何だ!」
「大坂の社に来いって」
「大坂の社ってどこやねん!」
「大阪城の事やないか?」
うろたえる木村と友利に割って入るようにして、轟が答える。浩二は、さも楽しそうに微笑んでいた。
「ほう。『キラヘル』が目覚めたようやの。早よ行った方がええぞ。奴は、自分のしもべであれば、どこにおろうが消すことが可能やからの。我は、ここのある人間に用があるのでここで失敬する。今度会う時までに、強うなっておれよ。今度会う時は、必ず敵じゃからな」
そう言うと、浩二は音も無く消え去った。