表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/40

乱戦

「サンプル保管エリアにてバトル発生。館内のファイターは、鎮圧に参加せよ。バトルしているのは、サファリエリアのモンスター多数と本日捕獲のヒュムモンスター7体、園川Dr.の護衛。モンスター、ヒュムモンスターは大事なサンプルの為生きたまま捕獲せよ。繰り返す、サンプル保管エリアにてバトル発生。館内のファイターは、すぐに現場に急行しこれを鎮圧せよ。バトルに巻き込まれた園川Dr.を保護し、モンスター、ヒュムモンスターを捕獲せよ。なお現場は、非常灯のみの為、十分注意せよ」

 けたたましいサイレンと共に、落ち着いた話し方だが、パニック状態を隠しきれない館内放送がフロアー内に響き渡っている。

「すごい数やな。どんどんやって来るで。ん? 先制攻撃か? やるな、あの女。でも、まだまだやな。……ほら、すぐに起き上がった。襲われるな。大丈夫か? ……何! 女の周りのモンスターが吹っ飛んでやがる、轟か? あいつ、いきなりトップスピードかよ。……ってこっちきた! しょうがないな、召集かけるか。……お前ら! 聞こえるか! バラバラやと戦力的に不利や! 一旦集合!」

 木村が声をかけると散らばっていた仲間達が次々と木村のもとに集まってきた。その時木村は聞き逃さなかった。遠くの方で「バラバラに攻撃しない。一度集合!」という声が聞こえたのを。

「モンスター共が集まっていくで。すごい数や。ん? 人間? 人間がモンスター使ってる? ……まあ、今はええわ。何か知らんけど、モンスター達を束ねてる奴がおんぞ!」

「ここの戦闘員も到着したみたいやな。という事はあっちに移動手段があるいう事やな。……おいお前ら、今から言うことよう聞けよ。あのモンスター達の敵は、もともと俺らやない。ここの奴らや。だからモンスターとまともにやり合うな。今、ここの戦闘員達が集まってる奥の通路、あそこに移動手段があるようや。あの通路を確保すること最優先。邪魔する奴は排除してかまへん。そんじゃあ、ちょっと3グループに分けるで、まず轟と友利。蓮見と犬飼と羽瀬。で、保と俺や。じゃあ行くで!」

 そう言うと木村達は、木村の指差す戦闘員達の方向に走り始めた。

「蓮見。羽瀬。俺らの右側にモンスター共が固まってやがるが、動く気配がない。前方に戦闘員が4体や行くで! ……羽瀬! 突っ込んで、攻撃をガード!」

 羽瀬は、ファイターの前に走って行くと全身の皮膚を鎧のように変化させ大の字で立ち塞がった。ファイター達は、現れたヒュムモンスターに驚き、各々持っていた武器で攻撃した。……が、羽瀬の皮膚に弾かれ、傷一つ負わせること叶わなかった。

「……蓮見! 一番左の奴、弾かれてふらついてる。喰うたれ!」

 犬飼が言うや否や、蓮見はファイターに大口を開けて貪りつく。

「ぎゃあぁぁぁ!」

「どうした!」

「腕が! 腕が!」

 蓮見がファイターから離れるとファイターの右腕が右肩から喰いちぎられていた。

「羽瀬! そのままタックルや! 全員押し倒して、蓮見の餌にしたれ!」

 犬飼の号令で、羽瀬はファイター達に突進して行った。ファイター達も、犬飼の声が聞こえている為、武器で応戦してきた。4人の内1人は、腕を喰われ戦意喪失状態であったが、3人はフォーメーションを組み、羽瀬の前方に1人が立ちはだかっていたかと思うと、後方に回り込んだ1人が、後ろから切り掛かった。不意を突かれた羽瀬だったが、背中は無傷のまま、上体を勢いよく起こし切り掛かったファイターを跳ね退けた。その瞬間、前方のファイターの足の間から1人滑り込んでくると、羽瀬の下から連打の打撃を繰り出した。が、羽瀬はものともせずファイターの上にのしかかると、踏み付けた状態で前方のファイターへタックルを見舞った。

 蓮見は、犬飼の指示を受け順に倒れるファイターに近寄ると、足や腕など移動、戦意に関する箇所を次々に喰らっていった。

 犬飼達が駆け抜けた後には、手足が無くなったファイター達がうめき声をあげながら、横たわっていた。


「はぁ〜はっはぁ〜っ! 弱えーし、遅ぇ! こいつら、俺の姿見えねーんじゃねーの?弱えーわ!」

「轟! 前っ! 狙われてるわよ!」

「死ね! 格闘、戦士ダイプじゃ接近戦で、奴のスピードに順応できないらしい『アローレイン!』」

 その言うと遠距離から、無数の弓をランダムに放った。

「轟! まず、左右に矢が分散してくるわ。中央突破! 次は全包囲の矢がくるわ。右の矢が早く着弾するから、まず左に移動! ……今よ! すぐさま左へ! それをかわしたら中央へ移動! 10本の矢が飛んでくるわ、左右のフットワークでかわしつつ右へ移動! 右に移動したら、そのままアーチャーに接近! 近距離には苦手のはずだから一気にきめて! ……轟の攻撃は手数は多いけど、ダメージをあまり与えていないようだから、わたしの指示に従って! 分かった!?」

「さすがやな、友利! 俺のスピードについてくるなんてよ! 分かった。相手の攻撃の読みは任したで!」

 戦士タイプ・格闘タイプ・アーチャータイプのファイターが入り乱れる中、轟は得意のスピードで縦横無尽に駆け回り、友利は戦局が有利になるようアドバイスをしていく。友利達は、戦闘の後、まるでカーペットの上を歩くように戦闘員達の上をゆっくりと歩き、通路へと辿り着いた。


「保! 右や!」

 保は、自分の右にいた戦闘員の足を掴むと、まるで剣を振るかのように目の前で振り回した。

「保、お前と組んだんは、その力があったら、俺の聴力と併せて敵無しと読んだからや。頼むで」

「おう! 任しとき!」

 保は、木村に向かって『にっ』と笑うと、両腕をグッと曲げて力こぶを見せた。

「おい! 保。そいつは捨てろ! そんなん持ってたら戦いにくいやろ」

 木村がそう言うと、保は持っていた戦闘員を遥か彼方に放り投げた。

「じゃあ行くで!」

 と二人は、走り出した。

「保! 左! すぐに右! 前も! あっ! 右と左にまだおる!」

 木村は、保に戦闘員の音のする方をその都度伝えるも、保はそのスピードについていけなかった。

「ぐわっ!」

 保が前方の敵に攻撃を加えた瞬間、左右の戦闘員が保を攻撃していた。

「保! 大丈夫か?」

「大丈夫や。ちょっと不意打ちくろうただけや。……何さらすんじゃワレら!」

 頭から血を流しながら、保は両横の戦闘員をわしづかみにすると、お互いの頭を叩きあわせた。その途端『グジャ!』と鈍い音と共に二人の戦闘員の頭は、砕けて無くなっていた。

「おい、血ぃ出てんぞ。ちょっと休むか?」

「大丈夫ゆうてるやろ! そんなんやっとったら、他の奴らに置いてかれるで! 頼むわ木村。お前のその耳が頼りなんやで。急ぐで!」

「保。とりあえずこれ持っとけ。丸腰よりは、全然マシや」

 と戦闘員が持っていた鉄の棒を保に放り投げた。保の頭からいつまで流れ出る血を見ながら、木村は心配な気持ちを抑えて走り出した。

 しばらく目の前の戦闘員を倒しながら走っていた二人だったが、木村は妙な音に立ち止まった。

「ちょっ! 待て! 保、ストップ!」

「なんや木村。また頭の心配か? それやったら問題あらへん。大丈夫や。な、大丈夫」

「ちゃう! ちょっと待て。この音、人間やない。冗談きついわ! 後もう少しやゆうのに」

「どないした。木村」

「気ぃ付けろ。今、前におんの人間ちゃうぞ。……モンスターや。……しかもこのモンスター達何かに操られてんのか? 気配消しとる。うようよおるぞ」

「どないした木村。たかがモンスターやろ! 蹴散らして行ったらええんとちゃうんか!」

 進もうとする保を木村は、腕を掴み制止したまま動かない。

「あかん。まだや。まだ行くな! 今、行ったらあかん! ちょっと待つんや。……保……おかしいと思わんか?」

「何がぁ?」

「止まってる。俺らの前、なんや知らんけど止まってるんや。モンスターが襲ってこんと止まってるんや」

「そんじゃあ、ちょうどええやんか。一気に突っ込んで蹴散らしてもうたらええんとちゃうんか?」

「それもせやけど、一気には止めとこ。音だけでの判断やけど、あいつら何かおかしい」

「おかしいのお前とちゃうんか? モンスターごときにびびって」

「そこまで言われるんやったら分かったわ。そんじゃあ行こか。但し、慎重にや。これはびびってんのとちゃう。じゃあ行くで、気ぃ抜くなや!」

 と二人がしばらく走ると、保にも分かるモンスターの気配が現れた。……っっっ途端! 目の前のモンスター達の布陣がばらけた。木村達を出迎えるかの如く半円の状態での布陣であったのが、前方の息遣いが消え左右にババッっと飛び消えた。木村はその音に慎重に耳を傾けながら走り続けた。

「保! 来るぞ! お前、死ぬなよ」

 その言葉が終わらない内に、左右から弾丸のようにウルフ型モンスターが飛び掛かってきた。モンスターの数は左右共に4匹ずつ」

「うおっ! っと。おぉぉぉりゃあぁぁぁ!」

 保は木村の指示のないまま突如現れたモンスターに少したじろいたが、持っていた棒を横一閃に振り、モンスター達をまるで野球のボールかのように打ち返した。

「な。大丈夫やろ! 木村行くで!」

「油断すんな! 保! 前から……この音は……プラントモンスター。しかも大木タイプ! 左右からも来んで! 激しい息遣いが聞こえる! アニマルモンスターや! 一気に来るぞ! 構えろ! この数はお前だけでは抑え切れん! 俺も入るからな! ゴメン。もう指示してる余裕ないと思うわ!」

 保が構えたまま木村に返事しようとした瞬間、目の前に無数のどんぐりのような木の実が、まるでライフルの弾丸のように飛んできた。しゃがみ込みかわしたが、足元に木の根が伸びてきたかと思うと二人の足に絡み付き二人を持ち上げた。

「しまった!」

「くそっ! いつの間に!」

 逆さ吊りになってもがく二人に一つの影が近付いてくる。

「あなた達、いくつか聞きたい事があるの。死にたくなかったら、素直に答えてね」

 近付いてきた影は、一人の老女だった。身体中にモンスターの返り血らしき黒いシミが付き、両腕にはプラントモンスターの樹皮を加工したような鋭利な爪が装着され、裸足で音もたてずに移動している。

「さてと、まずは、あなた達、一体ここで何してるの? 二つ目、坂下浩二という男の人をご存知? 最後に、もし坂下浩二を知ってるのならば、どこにいるの? どうやってそこに行くの? さぁ、答えてもらおうかしら。……黙っていると身の為になりませんよ。この子達、私の主人で人間の味を覚えたようで、私が止めなかったら、すぐにあなた達を食べてしまいかねないから。さぁ、どうかしら?」

「答えてやるからこれ離せや! って言うか、何であんた浩二知ってんねん!」

「やっぱり浩二の事知ってるのね。じゃあ、答えて下さいな」

「おい! ババア! とりあえず、これ離せや! おいって! ……くそっ! それは聞く耳持たずかよ!」

「あんた、何か勘違いしてるで。まぁええ話したる。俺らはここが何してるとこか知らへん。俺らの目的は、浩二の救出や。何で浩二の事知ってるって、そりゃ同僚やからな。知らん方がおかしいやろ。浩二の居場所は、俺らも探してるとこや。でもな、あっち、俺らの乗ってたEVから右の方にある通路、あっこからここの戦闘員の奴らがようさん来よった。という事は、あっちにここの中の移動手段があるって事ちゃうかと睨んどる。どや、これで納得したか。早よ降ろしてくれ。……後付け加えや、俺らは人間やないで」

 木村が一通り話しをした後で、スルスルっと足に絡み付いた根が外れ『ドサッ』と二人は床に落とされた。

「同僚? 救出に来た? 人間と違う? ……もしかして、……木……村……さん?」

 そういうと老女は、木村のもとに近付いてきた。

「やっぱり! 木村さんやないの! 何してんの、こんなとこで、……ごめんなさい。ここの人やと思ったから」

 木村が改めて老女の顔を見ると、木村は驚きの表情を隠せなかった。

「浩二のお母さん! 何してはるんです?」

「私ね、ずっと前に浩二に会いに主人と一緒にこの病院に来たの。そしたら、ここの先生みたいな人にこの子達がいる所に閉じ込められたの」

 と言うと、坂下の母親は近くにいたモンスターの頭を撫でた。

「初めは、この子達に怯えながらなんとか生きていたんだけど、主人がモンスターに食べられちゃってもう駄目だと思った時、サスケが助けてくれたの。あっ! サスケってこの猿の事よ。それから私も戦うようになって、いろんな子仲間にして、で、いた所からこの子達と協力して出てきた。という訳。今では、この子達、私の言う事をちゃんと聞いてくれるようになったから、この子達と浩二を探しに行くところなのよ。……ところで木村さん。人間ちゃうてどういう事?」

「俺……いや、僕も浩二と同じように意識が無くなったんですわ。で、僕の場合、周りに誰もおらんかったから、病院に運ばれる事もなく、気が付いたら何か耳がよう聞こえるようになっとったんですわ。あまり気にせんと生活してたんですけど、怪我した時があって、その時、血の色が青黒くて初めて自分が人間や無くなってる事に気が付いたんですわ。それから、僕のようにいろんな特殊能力を持った人達を集めて、浩二の救出に乗り出したという訳です。一応、病院の外、転院の情報等調べたんですが、浩二の事何も出てけえへんかったから、小数精鋭で内部潜入に入ったんです」

 坂下の母親は、木村の話を真剣に聞いていたが、突然口を挟んだ。

「で、浩二はどうなったん? 知ってるの?」

「どうなってるかは、知りません。ただ生きてるのは確実です。僕らを浩二の所へ連れて行くって、僕らを先導してたオッサンが言うてたから間違いないです。確か名前が園川いうオッサン。僕らの事サンプルやのモルモットやの言うとったけど、そのうち暴れるつもりやったから一緒ですわ。あのオッサンは、もう逃げてもうておらへんけど、僕らを下の方へ連れて行くみたいやったから、下に行ったら浩二はおると思います。……あと、乗ってたEVは、おばさん達の襲撃で壊れてしもたみたいやけど、ここの戦闘員の奴らが、さっきの放送の後、あっちの方の通路からゾロゾロ来たので、あっちに移動手段があると睨んで、今仲間達と向かってる最中でした」

 しばらく黙って二人の会話を聞いていた保だったが、木村に近寄ると「そろそろ行かへんか?」と耳打ちした。

「おばさん。僕らもう行きますので、よかったら一緒に行きませんか?」

 と言うと木村は保と並んで歩き始めた。坂下の母親は、モンスター達に小声で何かを言った後、木村達の後を追って行った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ