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強敵

「頼! 後ろがあまくなってっぞ」

「へへっ、サンキュ! って正志、上、上!」

「ぅおっと。何で上から降ってくんだよ! ……なぁ、頼。技の完成度合いどうだ?」

「うっせー! くそっ! 上手くいかねーな」

 今日も頼と正志は、狩りをしながら頼の技の習得に励んでいた。

「力ばっかりで振ってても、その剣の力は出しきれないよ」

 突然頭の上の方から、幼い声が聞こえてきた為、二人は声の方向に目を向けた。

「誰だ!」

「何!? お前何者だ!」

 土手の上に男の子が、母親と手を繋いで二人を見下ろしている。

「おいガキ! ナマ言ってくれんじゃねーか!」

「ほっとけ、頼! ガキの戯言だ」

 頼をなだめようとする正志の言葉を無視して、子供はその言葉をやめようとはしない。

「ガキじゃないよ。聖史って名前があるんだ。剣のお兄ちゃん、もう一人のお兄ちゃんに勝ちたいんだね? でも、勝ちたいばっかりで、力が入りすぎだよ。そんなんじゃ、そのお兄ちゃんに勝てないし、そのうちモンスターに殺されちゃうかもね」

「言ってくれんじゃねーか!」

「ほっとけって」

 制止する正志を押し退けるようにして、頼は一歩進み出ると、子供の方を見上げた。

「正志。ちょっと黙っててくれ。……おいガキ! それだけ言うなら、一戦やろーぜ! それとも俺が大人げねーか?」

「ううん、いいよ。本当なら、お兄ちゃん程度の能力だったら僕の力を使わないで、お母さんと戦ってもらうんだけど、僕が言い出した事だし、指名を受けてるのにお母さんに任せたら、逃げてるみたいで嫌だから特別に相手してあげるよ」

「じゃあ、降りてこいや!」

「じゃあ、ここから行くよ。構えてね。行っっくよぉ……」と言ったと思うと、聖史の姿が消え、頼の目の前にスッっと現れた。

「ぼーっとしてると、すぐ終わっちゃうよ」

「何!?」

 驚いた頼が刀をすかさず振ると、聖史は頼の背後から「こっちだよ」と一言言った。頼はすぐ振り返り、構えに入ったが土手の上から聖史の声が聞こえてきのだった。

「やっぱりお母さんとやってくれる? お兄ちゃん、遅すぎてつまんないよ」

 頼が土手を見上げた時、すでに聖史は母親の手を握りそこに立っていた。

「くそっ! 何だあのガキ。見えねー」

「では、選手交代です。行きます」

 そういうと、母親が土手より走り降りて来た。

「ガキの次は、オバハンかよ。今度は遅れをとらねーぞ」

「手を抜いてあげるから、本気できてね」

 伴子はそう言うと、頼に向かって一直線に走ってきた。頼が、すかさず左に避け右から横切りを放つと、伴子は左腕の背で受け流すと、右手に力を入れ大きな石でも持つような形のまま頼の胸元を引っ掻こうとした。頼は、危険を感じ一歩後退し、すぐさま上に弾かれた刀を切り返し、切り下ろしたが、伴子に瞬時に避けられ、そのまま左に刀を移動すると右上に向かって切り上げ、避けられるのを予想してたの如く左手で右の脇差しより短刀を引き抜くと右から左へ一閃の斬撃を放った。伴子は切り上げには、反応したが短刀の一閃は予想外だったらしく、右手で受け止めると、後ろに大きくジャンプした。頼は、すかさず短刀を脇差しに納めながら、攻撃の手を緩めず伴子を追従し、刀を地面に付けたまま伴子の方へとダッシュした。宙の伴子が着地の瞬間と同時に渾身の力で、両手で切り上げを放ち、そのまま前進し、再度短刀を引き抜くと右から左への一閃、左上から右下への一閃、右下から左上への一閃の後、右手に持った刀を叩き付けるように振り下ろした。伴子は、連続の斬撃を避けることが出来ず左右の手の甲で受け流し、頼に向けて右手を開いて向けると、「負けたわ」と一言言うと、聖史の所に戻って行った。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ。どうだ! この、俺の、どこが、弱えーって、言うんだ! はぁ、はぁ、ガキぃー!」

 頼は、刀を杖のように地面に突き立て、聖史の方を向くと大声で叫んでいる。

「すごいねぇ、お兄ちゃん。でも、まだまだだね」

「何、だと! ……大体、お前ら、人間じゃ、ねーだろ! 何で、刀で、切れねー、んだよ!」

「うん。人間じゃないよ。でも、人間みたいでしょ。……ねぇ、お兄ちゃん。強くなりたい? ……今よりも、もっと強くなりたい?」

「はっ! バケモノが何言ってんだよ!」

「お兄ちゃん。強くなりたいなら、僕と一緒においでよ。お兄ちゃんなら、もっともっと強くなれるよ。もしかすると、そこのお兄ちゃんより強くなれるかもしれないよ」

「阿呆か! 何で友達裏切るような事しねーといけねーんだ! お前と行かなくても、俺は正志といたら強くなれんだよ!」

 聖史は少し困ったような顔をしたが、すぐ平然とした表情に戻った。

「そっちのお兄ちゃん、このお兄ちゃんは、こう言ってるけど、本当に強いの? 確かめさせてもらっていいかなぁ?」

 と言うや否や、突然襲い掛かってきた。

「!!!」

 聖史が消えたと同時に、正志は火炎放射を回転しながら行った。その際、一部火炎が途絶える部分を確認すると、放射を持続しつつ、サバイバルナイフでの連続斬撃を無数に放った。聖史は、火炎の中を突破しようとしたが、ナイフの斬撃の為、一時後退し、横飛びから再度攻撃体制に入った。すぐさま正志の背後に入ると、爪で背中を攻撃した。が、そこには、釘が打ち込まれたバットがあり攻撃を受け流されると、正志の体が回転し横一閃のナイフの斬撃が飛んできた。すぐさま爪で刃を合わせ、飛び下がったが、油が体中に浴びせ掛けられた。攻撃の意味を知らない聖史は、左右のフットワークを使い、見えない恐怖を与えながら聖史に突如襲い掛かったが、目で追わず気配のみで聖史を探っていた正志に火炎放射を浴びせ掛けられ、火だるまになりのたうちまわった。正志は、火だるまの聖史を傍観せず、釘バットを取り出すと、殴り掛かった。聖史は、全身の火を消しながらバットの打撃を避けると、一時戦闘区域より離脱し正志に向かって叫んだ。

「お兄ちゃん、本当に強いね。僕、本気出していいかなぁ? ねっ、いいでしょ? 殺さないから、ねっ」

 と言うと容姿が変貌し始めた。頭の髪や身体中の毛が逆立ち針金のようになり、手足の爪が長く伸び、全身の皮膚が鱗のようになった。

「じゃあもう一度行くよ」

 と言うと、正志の体は宙に浮いていた。正志は、左肩に痛みを感じたがすぐに空中で体勢を立て直し、追撃に備えた。地面に叩き付けられると同時に、頼の方へダッシュすると、「ちょっと借りる」と一言言うと、右手に長刀を逆手で持ち、左手にサバイバルナイフの逆手持ちの二刀流スタイルにチェンジした。膝の動きが激しくなり、腰と上体を低くした姿勢で、死角を無くす如く、キョロキョロと辺りを見渡しながら、左右へのフットワークを繰り返した。聖史は、その状態を見て正志の背後に周り、一直線に攻撃に入ったが正志のサバイバルナイフに爪での斬撃を流され、長刀での十文字切りをすぐさま腕で防いだ。しかし、後退せず余った手で次なる斬撃を放った。正志は、バックステップでかわすと同時に刀を縦に持ち斬撃の防御を行った。斬撃を弾かれた聖史が、次のフォームに入る前に正志は落ちていた鉄の棒を拾い上げると、油をかけ、火を付けた。刀を鞘に戻すと、燃え上がる鉄の棒を持って聖史に襲い掛かった。聖史は、縦、横、斜め、回転とオールポジションに対応する棒の攻撃を回避することのみを行っていたが、下から上に振り上げた隙をついて、その懐に飛び込むと爪

の斬撃を放った。超近距離に対応出来ない棒を持った正志は、棒を盾にバックステップでかわそうとしたが、避けきれず両足の大腿部付近のズボンに5本の切れ目が入りズボン、靴下、靴が赤く染まり始めた。正志は、火炎棒を捨て、刀とサバイバルナイフで追撃への防御と同時に反撃への姿勢に入ろうとしたが、上手く足に力が入らずその場に倒れ込んだ。

「お兄ちゃん、すごいよ。この姿でこんなに動いたの初めてだよ」

 そう言うと、子供の姿に戻り、頼の所へ駆けて行った。

「ねぇ、お兄ちゃん。これで分かったでしょ。誰といたら強くなるか。じゃあ、行こうか?」

 聖史に差し出された手を、しぶしぶ握り返した頼は、正志を気にしながら、聖史と共に姿を消した。

 その場には、聖史に負け悔しさを感じる暇もなく、頼がいなくなった虚無感と絶望感に流される正志と、主を失った刀だけが残っていた。

「ねえ、あの子じゃない?」

「でも一人じゃないか」

 突然、後ろから声が聞こえたので、正志は咄嗟に振り返った。

「やっぱりそうだよ。顔覚えてるもん」

「じゃあ、あと一人は?」

「聞いてみたら分かるんじゃない?」

 3人の男女は正志の所まで来ると足を止めた。

「ねえ、君、正志君?」

 突然知らない人に声を掛けられた正志は、声も出せずに戸惑っていた。

「違うんじゃないのか?」

「いいえ。間違いないわ。ねえ、正志君でしょ?」

 正志は事態が掴めないまま、頷くしかなかった。

「ほらね。ねぇ、君一人? 頼君は?」

「頼は、……。頼は、……。変な子供と、……行っちまった」

「は? どういう事だ?」

「知らないわよ」

「あなた達は、誰なんですか? 何で俺の名前知ってるの? 何の用ですか?」

 正志は頭が混乱していたが、出来るだけ正常に尋ねた。

「あっ。ごめんなさい。私、山里神名っていうの。こっちが主人の山里霧斗。で、こっちが中田激よ。私達パソコン内のあるサイトにあなた達が紹介されていて、モンスター退治に仲間が欲しかったから、探しにきたの。ねぇ、仲間にならない?」

「おい、神名。とりあえず行くとは言ったが、仲間にするかどうかは、見極めてからって話だっただろ」

「じゃあ、ここで一戦やりますか?」

「ちょっと待って。ねぇ、正志君、私達と一緒に行かない? 人数が多い方が、頼君を探すのにも楽じゃない? ね。どう?」

 正志は少し考えてから、「分かりました。あなた達が人間ならば」と答えた。

「???? は? 人、間だったら?」

「俺達は、人間だよ。ニュースでやってたような感染者じゃない」

「じゃあ、よろしくお願いします」

 正志が手を差し出すと、霧斗がその手を振り払った。

「さっきも言ったが、僕達は仲間を探している。サイトは見た。確かに強いらしい。それはわかったんだけど、それは二人いる時の強さかもしれない。僕は神名のように楽観的ではないんだ。一戦を交え、足手まといにならない事を確認させてもらってから、お願いしたい。ダメかな?」

「いいですよ。俺も実際は同じですから。……でも、……少し休んでいいですか?」

 そう言うと正志は、その場に倒れ込んだ。

「ねぇ、正志君、どうしたの?」

「何やこれ。こんな傷で戦うって言うたんか?」

 三人は、正志の両足に刻まれた五本の裂傷を見て息を呑んだ。

「手当てしなきゃ」

 そう言うと、中田が正志を抱え、車へ運ぶと病院へと急いだ。

「いつもいつも何なんだ。一戦やろうっていうと、邪魔ばっかりだ」

 霧斗は、大きく溜息をつきながら車を走らせていた。



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