潜入
病院の地下研究室の一室にて、醜い顔を更に歪めて、不敵な笑みを浮かべる園川の姿がそこにあった。
「クックックックッ。貴重なサンプルが、こんなに手に入るとは、全く笑いが止まらんな。クックックックッ。矢馬鍋から人間との見分け方も聞いていたので、苦労もしなかったし。これで、矢馬鍋に高飛車な顔はさせんぞ。クックックッ。それにしても、活きの良いのが……、7体も。待ってろよ、矢馬鍋。クックックックッ、ハァ〜ハッハッハッハ!」
病院内部へ潜入した木村達は、作戦通り病院関係者に取り押さえられ、窓の無い隔離された個室の中に監禁・拘束されていた。
「お前ら、まだおとなしくしとけや。奴ら俺達の能力にまだ気が付いとらへんようや。あの男、俺達を矢馬鍋って奴に引き渡すつもりらしい。もう少し様子見てから、浩二に近付いたら行動開始や」
「あんた、ほんまに地獄耳やな。惚れ惚れするわ」
「しゃあないやろ、これが俺の覚醒した能力やねんから。それより保、動く時は頼むで」
「分かっとる。こんな鎖、糸みたいなもんや。問題あらへん」
「あんたらええなぁ。役に立つような力があって」
「何ゆうてんねん友利。お前のその動態視力、一番侮れへんのとちゃうか?」
「そんなことないわよ。ただ動いてるモノが、ゆっくりに見えるだけやんか。そんなんより、ほんまに7人なんかで良かったん?」
メンバーの中で紅一点の友利と呼ばれた女は、不安な様子を醸し出しながら、木村の選抜したメンバーを改めて見渡した。
「俺は、バランスのとれた6人を連れて来たつもりやで。ちゃうか? 怪力の保やろ。雑食の蓮見。駿足の轟。動態視力の友利。強嗅覚の犬飼。皮膚硬化の羽瀬。そんで地獄耳の俺や。最強やないか? ……ん? 誰か来る!」
木村がそう言って、しばらくしてからドアが開いた。
「おやおや、おとなしくなってしまいましたね。それでは、ここの中枢、研究施設へ移動しましょうか? クックック何も心配いりませんよ。すぐに浩二君に会わせてあげます」
そう言って、部屋の外へと先導する園川に、木村達は言われるがまま後について行く。
しばらく行った所で、男は壁の前で立ち止まり、壁に手を当てた。すると壁に0〜9の10個の数字が浮かび上がると男は6ケタの番号を押した。すると、壁だと思っていたところが両側にスーっと開き中にEVが現れた。男を含む9名が乗り込むと、EVは下へと動きはじめた。
かなり下まで降りたような気がした時、突然EVがガタッっと大きく揺れたと思うと、明かりが消え、ボウッと仄かな光に変わった。
「どうした!」
引率をしていた園川は苛立ちの表情に変わり、横にいたまだ一度も声を発していない女に怒鳴り付けている。
「確認します」
女は、表情を一つも変えず、ポケットの中から小さなマイクのような物を取り出すと、ボソボソと何かを話始めた。時折頷くだけで、全く表情を変えずボソボソと話をしていたが、「了解しました」と一言言ってマイクをしまい込んだ。
「どうなってる!」
園川の動揺とは反対に、女は平静を保ったまま冷静に状況を報告する。
「中層にて爆発事故が発生したようです。原因は不明。現在、確認中です」
「事故とは何だ! 中層は、サファリエリアではなかったのか!」
「現在確認中です。詳細は不明です。しばらくこのままお待ち下さい」
「くそっ! 何だと言うのだ! なぜお前は、そんなに落ち着いている!?」
慌てふためく園川とは反対に、女は顔色を変える事もなく、平然とその場に立っている。
「………」
「何とか言ったらどうなんだ!」
「……無駄な私語は不要です」
「くそっ! 機械女め!」
園川は、女に聞こえるように悪態をついたが、女には何も聞こえていないようであった。
「上から何か来るぞ」
「臭い、臭いぞ。獣臭せぇ」
「メシの臭いだ。メシが近付いて来るぞ」
木村達が、異変に気付き危険を知らせる言葉を発すると、園川はますます顔色を悪くし、挙動不審になっていく。
「お前ら何を、!!!!」
園川が木村達に何かを言おうとした時、EVの上にドンッっと大きな音がなったと思うと、EVがガタガタッっと揺れ始めた。
「来るぞ。来るぞ。今、上にいる。今、天井を開ける音がする」
「臭せぇ。獣臭せぇ。ん? 人間がいるのか?」
「Dr.端へ! バトルフォームへ入ります」
「保! 扉を開けろ! ここ狭いやろ! 広いとこ探せ!」
「少し下に臭いの薄れている空間がある。多分部屋か何かや」
「おっしゃっ、分かった! うおぉぉぉぉ!!」
保はEVの扉を素手でこじ開けると、扉の前に現れた壁を上に持ち上げるようにし、EVをゆっくりと下に動かし始めた。
「保急げ! もう時間ない!」
「分かってる! 犬飼! あとどれくらいや!」
「あと少しや! ……よしっ、ここや! 保! 前の壁、壁とちゃう! 扉や開けてくれ!」
「分かった!」
「バトルフォーム、チェンジオン! 来ます!!」
女が、声を出した瞬間EVの天井の一部が剥がれ、そこからモンスターの顔が覗いた。
「ぅおぉぉりゃぁぁぁ! ……開いたぞ! 分散しろ!」
「各自、戦闘体制に移行! 得意範囲に、分散しろ!」
木村、保、女の声を引き金に園川を除く8名は、EVの外に姿を消していった。