山里家にて
「……で、激君は家に来たというわけだ」
「はい……、すみません」
「いやいや、謝らなくてもいいんだよ。しかしなぁ、……」
「何ですか?」
「まさか、神名のやつが人を連れてくるとは、思ってもみなかったのでね」
「いや、すみません。無理言って、お邪魔しちゃって」
「だから、謝らなくていいって」
山里家に転がり込んだ中田は、神名が自室にこもってしまった途端、霧斗の話し相手を否応なしに任されていた。
「ところで、激君は、鞭を使うようにして、チェーンで戦闘を行うと聞いたのだが……」
「えっ! え〜と、その、え〜とですね。あのぉ、そんな格好の良いものじゃありません。ただ、渚や愛里……、すみません、名前言っても分かりませんよね。妻や娘の仇を取ろうと、思った時に一番身近にあったのが、自転車のチェーンだっただけで……」
「……でも、その武装であのバケモノ達を倒してきたんだろ。……」
霧斗は、さも興味深そうに中田に聞いてくる。
「ええ。まあ、一応」
「うん。そうだね。君も今じゃ戦士になってるんだ。一度、今から手合わせ願えないかな?」
「えっ? でも、それってお互い、危なくないですか?」
「うん。危ないね。じゃあ、こうしよう。今から、子供達の言う狩りに行って、お互いのバトルスタイルを見せ合う事にしようじゃないか。これならば、仲間同士で傷付けあう危険性は回避出来るだろう」
その時、居間の扉がガチャっと開くと、神名が入ってきた。
「それはどうかしらね。その人、戦いになると周りが見えなくなるみたい。……まず、チームバトルの基本から、教えるべきじゃないの?」
「いや、大丈夫だと思うよ。これまでは、周りが見えなくなる理由があったんだ。でも……、これからは違う。……だから、大丈夫だと思うよ。何の根拠も無いけどね」
「ふーん。そうだといいわね。ところであなた、自分のスタイルは言ったのかしら?」
今更何を言っても無駄だと感じたのか、神名は諦めた様子で、霧斗をみつめた。
「あぁ。そういえば、すっかり忘れていたよ。……激君、僕は、ナイフで戦うんだ。ナイフの類いなら、ペーパーナイフからサバイバルナイフ、包丁に至るまで何でも使う。……それと、僕は、二刀流でね。僕も、近くに来られると、少々危険なんだ」
「へ〜。短剣使いってわけですか。……でも、夫婦でリーチの短い武器使ってるんですね」
「僕は、こいつ程じゃないよ。あまり長い刀は使えないけど、ある程度の長さの物なら、ナイフじゃなくても、そうだなぁ、棒のような物、鉄パイプなんかでも使えるしね」
「はいはい。じゃ、話はここまでね」
パンパンと手を叩いて、神名が無理矢理話を終わらせる。
「そうだね。じゃあ、激君そろそろ行こうか」
そう言って霧斗が、中田の肩をポンっと叩き部屋の外へと出て行こうとした時だった。
「ちょっと待って。……私は、あなた達と話しをしに来たのじゃないの。……ちょっと、二人とも私の部屋まで来てくれる?」
神名は、霧斗の襟首を掴み、部屋から出て行くのを阻止しながら、中田の方を見て真剣な表情で話した。
「何? また何か、発見したの?」
うんざりしたような霧斗の顔を余所に、神名は足早に自室の方へと歩いていく。
「やれやれ。激君、じゃ行こうか」
霧斗は渋々といった表情だったが、神名の後を追って、二人は神名の部屋へと歩いて行った。