我慢
「聖史。今日の御馳走は、晩御飯が終わってから。周りの家の人も寝てからよ。……それまでは、我慢してなさい。分かった!?」
「うん。分かった」
そう言いながらも、聖史がまた手にしたモノをちぎろうとした途端、伴子はそれを取り上げた。
「聖史! もう、それ止めなさい! ……『お父さん』、ボロボロじゃないの」
「だって。そこ、もう食べられないんだもん」
「だからって、こんなにボロボロにしちゃう事ないでしょ。……ごめんね、あなた。もう小さくならないようにするからね」
伴子はそう言うと、自分の旦那だったモノの一部をそっと、ポケットの中にしまい込んだ。
「あ〜ぁ。まだかなぁ、御馳走。お父さん、美味しかったなぁ。おじいちゃんは、どんな味がするんだろう。ねーねー、お母さん。お母さんは、どこ食べるの? 僕、どこもらっていいの? 楽しみにしてたんだよ。久しぶりの人間なんだもん。ねーねー、お母さん。お母さんてばぁっ」
うきうきしている我が子を見ながら、自分の父親に申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら、伴子は聖史に微笑みかけていた。
「聖史は、頭と体。私は両手足でいいわよ。……そのかわり、分かってるわね。御馳走の時間までは、変な事しないの。分かった? 後、御馳走が終わったら、すぐ帰るからね。いつまでもいたら、近所の人に気付かれるかもしれないから。分かった? ……聖史! 返事は?」
「う、うん。分かった。」
伴子は、父親が何やら怪しい動きを見せているため、初めの計画を変更し、夜中に襲う事に変更したのだった。聖史は、いつもと様子の違う母親に、少し戸惑いつつ、言う事を聞いていれば、御馳走にありつけると、うきうきしていた。
一方その頃、伴子の父親は、近所の男衆を集め、自分の娘、そして孫が、今話題の病気に感染している可能性が高い事を告げ、もし自分の家から大きな音や声が聞こえたら、すぐに駆け付けてもらうよう懇願していた。
男衆は、自分達への感染を恐れていたが、伴子の父親の深い頼みであった為、了承を余儀なくされていた。
「あ〜。楽しみだな。……頭か。外はカチカチ、中はふんわり。……体か。お肉沢山あるかなぁ。外の皮は、美味しくないけど、遊び道具になるし。あ〜、まだかなぁ。早くみんな寝てよ。まだかなぁ」
聖史は、ぼーっとしながらうわごとのように、ボソボソと呟いていた。
そして、血生臭い一晩が訪れようとしていた。




